日本株の上昇基調は今後も長期的に続くのでしょうか?
海外投資家が買いたくなる理由がたまたまそろっていた
日本株が久方ぶりに上昇基調を強めています。日経平均株価は今年(2017年)10月2日から24日にかけて16営業日連続で上昇し、戦後の1949年に東京証券取引所が取引を再開して以降の連騰記録を更新しました。同27日には約21年ぶりに2万2,000円台へ乗せ、96年6月につけた2万2,666円というバブル崩壊後の戻り高値まであと一歩と迫っています。
今回の株価上昇には主として2つの要因が考えられます。ひとつは10月22日の衆議院選挙で与党が圧勝し、安倍政権によるアベノミクスや金融緩和政策が今後も継続するとの見方が広がったこと。日銀の黒田総裁は来年(18年)4月に任期を迎えますが、続投・交代のいずれの場合でも、政権の意向に沿った人物が日銀総裁になるという流れは変わりません。欧米と日本で金融政策の方向性が異なることから円安・株高が期待できるほか、日銀のETF(上場投資信託)を通じた事実上の株価下支えも引き続き見込めるため、投資家は安心して日本株を購入できるというわけです。
もう一つの株高要因は、日本企業の業績拡大です。日本経済新聞社が集計したデータによると、日本の上場企業における今期の純利益は前期比18.8%増となり、約10%増の米国企業を上回ります。日経平均株価が前回高値をつけた96年6月当時と比べると、全上場企業(金融を除く)の経常利益は3倍超に増加し、日経平均採用銘柄の1株利益(EPS)は4倍近くまで膨らみました。日本企業の稼ぐ力は、「失われた20年」を経て飛躍的に高まったといえるでしょう。
一部の市場関係者からは「近い将来に3万円台の回復も見えてきた」という声も上がっていますが、日本株の今後についてはひとつ、冷静に考えてみる必要がありそうです。まず注目したいのは、今回の上昇局面で日本株を買っているのは誰かという問題。
東京証券取引所が11月2日に発表した投資部門別売買動向によると、海外投資家は9月第4週から10月第4週まで5週連続で日本株を買い越し、この間の買越額は累計で2.4兆円に達しました。一方で、国内勢は全般に売り越し姿勢が目立ちます。日本の個人投資家と金融機関はいずれも10月第4週まで7週連続で売り越しており、両者の売越額の合計は3.4兆円に上っています。
市場では世界的な金融緩和と低金利によるカネ余りおよび低成長が常態化しており、これらが続く限り、投資マネーが少しでも高いリターンを求めてさまざまな金融資産を物色する構図は変わりそうにありません。その際、とくに海外投資家が重視するのは「投資する理由」です。
今回は前述した2つの要因に加えて、世界的に景気が拡大傾向にあって株式に投資しやすい環境が整ってきたことや、米国株の高値リスクが警戒され始めていることなどから、相対的に日本株の投資魅力が向上したという背景があるように思われます。日本株への注目が高まりそうとの臆測が広がれば、これまで日本株を軽視していた投資家の間でも「日本株を持たざるリスク」への意識が強まります。つまり、日本株を取り巻く諸条件がたまたま海外投資家にとって「買い」の理由になりやすかった、とも考えられるわけです。
日本株という大きなくくりで株価を語ることの意味とは?
そのような前提に立つと、日本株の上昇基調が今後も長期的に続くとは言い切れないでしょう。これまで何度か紹介してきたように、少子高齢化の進行による内需縮小やさらなる財政悪化など、日本経済の将来についてはネガティブな要素に事欠かないのが実情です。日本が自国経済に関してよほど大きな変革の実行に踏み切らない限り、いずれ海外勢は日本株に見切りをつけることになるかもしれません。
海外投資家に代わって国内の投資家がもっと積極的に日本株を買うようになれば話は別ですが、それも日本人の嗜好や国民性からすると劇的な変化は期待薄です。となると、結局は海外投資家が今後も継続して日本株に注目するような仕掛けをつくり、日本株への投資を促していく程度しか方法は見当たりません。非常に消極的な考え方ではありますが、海外投資家が日本株取引の6割を占めているという現状をみれば致し方ないことでしょう。
例えば、日本株は「バリュートラップ(割安のわな)」にはまりやすいと指摘されています。要因としては、日本の株式市場には相変わらず低ROE(自己資本利益率)の企業が多いこと、欧米に比べて上場企業の顔ぶれが入れ替わる新陳代謝が乏しいこと、日本国内に資産運用会社を含めて割安株に粘り強く投資できる真のバリュー投資家が少ないこと――などが挙げられます。これらを改善して日本株の魅力を恒常的に高めていくことが当面の課題になりそうです。
一方で身も蓋もない話をするならば、日本株という大きなくくりで株価の動向を語ることに、どれほど意味があるのだろうかという気もします。市場平均(株価指数)を投資対象とする人にとっては一大事かもしれませんが、個別銘柄への投資がメインの人にとって“相場”は参考程度でしかないこともまた事実ではないでしょうか。この辺りの考え方については、まだまだ議論の余地があるように思われます。