いま聞きたいQ&A

東証2部指数が上昇している理由について教えてください

東証1部との間で銘柄が入れ替わる特殊性

「東証2部指数」は、東証2部市場に上場する全銘柄を対象に、TOPIX(東証株価指数)と同じく時価総額の加重平均によって算出されている株価指数です。1968年1月4日を100としてポイントを計算しており、今年(2017年)7月27日に一時、6342.84の史上最高値を付けました。昨年末の終値5229からは21%の上昇となり、リーマン・ショック前の06年に付けた直近の高値5531からも14%上昇したことになります

ちなみに、パッシブ運用(インデックス運用)の連動対象として多く採用されているTOPIXは今年8月3日現在の終値が1633.82となっており、バブル期の89年に記録した史上最高値からは44%、07年に付けた直近の高値からは11%、それぞれ下落しています。日経平均株価も89年の史上最高値と比べると、いまだに半値近くで足踏みが続いていることから、東証2部指数の好調ぶりが余計に目立つといえるでしょう。

指数上昇の一因としてまず挙げられるのが、1部と2部の間で銘柄の入れ替えが発生するという東証市場ならではの“特殊性”です。

例えば、ある銘柄が東証2部から東証1部へ昇格すると新たにTOPIXの構成銘柄となるため、TOPIXへの連動を目指すETF(上場投資信託)や投信などから一定量の買い注文が入ることになります。こうしたいわば自動的な買いによる近い将来の株価上昇を見越して、その銘柄にはまだ東証2部に在籍している段階から「先回り買い」が入りやすいのです

今年5月25日に東証2部から東証1部への指定替えを発表した東邦アセチレンの株価は翌26日に、ストップ高水準に相当する26%の上昇を記録しました。同社株が正式に東証1部への指定替えとなるのは6月1日だったことから、これは先回り買いが入った事例と考えられます。

反対に東証1部から東証2部へ降格した銘柄が、指数の上昇に大きく寄与するケースもあります。最近ではシャープが好例でしょう。同社は債務超過問題によって16年8月に東証1部から東証2部へ指定替えとなりましたが、その後、鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入って業績改善が進みます。それに伴い、シャープの株価は東証2部降格時の92円から今年8月3日現在の終値392円まで、4倍以上に上昇することとなりました。

特にシャープ株は時価総額が1兆9500億円(今年8月3日現在)と圧倒的に大きく、東証2部では2位にあたる朝日インテック株の6倍超にも上ります。時価総額が大きな銘柄ほど、時価総額を加重平均して割り出す指数への影響度は高まることになるため、少なくとも過去1年ほどの間に限っていえば、東証2部指数の上昇に占めるシャープ株の貢献度は大きかったと考えられるわけです。

官製相場やパッシブ運用への反動という見方も

もうひとつ見逃せない要因として、いわゆる官製相場やパッシブ運用の影響があります。日銀は現在、金融緩和策の一環として、株式相場が下落した局面ではETFを通じて1日に700億円規模の株式を買い入れています。他方、日本株市場における投資形態をみると、低コストで株価指数に連動した投資成果を目指すパッシブ運用が急速にシェアを伸ばしつつあります。

日銀によるETF購入もパッシブ運用も、基本的には各企業の業績の良しあしにかかわらず、TOPIXや日経平均株価を構成する大型株を中心に特定の日本株群を「まとめ買い」する行為に過ぎません。こうした機械的な投資スタイルの存在感が高まった結果、日本株市場ではこのところ業績内容に見合った値動きをしない銘柄が目立つようになってきました。これは投資家にとって、株式の個別銘柄を購入するうえでの根拠が見出しづらくなったことを意味します。

特にTOPIXへの連動をめざすパッシブ運用が増えると、指数計算において比重が高くなる時価総額の大きな銘柄ほど多く売買され、相対的に時価総額の小さな銘柄はなかば軽視されることとなります。そのような投資が繰り返されることによって時価総額の大きな銘柄は割高になることが多く、投資家にとっては事実上の「高値づかみ」のリスクも増してきます。

そんな中、株価が業績を素直に反映しやすく、割安さなどの判断材料も含めて投資戦略を描きやすい「中小型株」に投資妙味を感じる投資家が増えている模様です。流動性の問題から東証2部指数はパッシブ運用の対象から外れているため、業績を株価に反映した中小型株が集積した市場といえましょう。実際に東証のデータによると、今年の年初から7月末までの東証2部市場における株式買越額は、個人投資家が190億円超、投資信託が30億円超などとなっています

パッシブ運用隆盛の時代にあって、そのような指数の騰落率が他を凌駕(りょうが)するというのは何とも皮肉な話ですが、見方によっては無分別に広がり過ぎた官製相場やパッシブ運用への反動が出ていると考えることもできます。今後もそうした正攻法な株式投資への揺り戻しが進むのかどうか、しばらくは東証2部指数の動向に注目したいところです。

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