投資や資産運用にITを活用する動きについて教えてください
ロボアドが提案する資産配分にはばらつきがある
IT(情報技術)を使った新たな金融サービス「フィンテック」が、いま相次いで実用段階を迎えつつあります。そのなかでも、私たち一般個人の投資や資産運用に関係が深そうなのが「ロボアド(ロボット・アドバイザー)」と「AI(人工知能)投信」です。
ロボアドは、利用者がインターネットを通じて投資に関するいくつかの簡単な質問に答えると、コンピューターが自動的に最適な資産配分や投資対象を提案してくれるというサービス。銀行や証券会社などが提供しており、いずれも提案を受けるだけなら無料なので、初心者でも気軽に投資の基礎を学べるツールとして期待されています。
ロボアドの提案する内容そのものは別段、目新しいものではありません。個人の年齢や年収、投資経験、運用期間、目標リターン、リスク許容度などを考慮しながら、国内外のどのような金融資産にどの程度の比率で投資すれば、より少ないリスクで収益性が高められるかを確率統計学的な計算手法によって割り出します。計算手法にはさまざまな種類がありますが、その多くは米国の経済学者ハリー・マーコウィッツ氏が1952年に唱えた理論に基づいています。
こうした確率統計理論を用いた提案は、90年代から大手証券会社が「資産管理営業」として注力し、それがいわゆる「ラップ口座」の原型になったという経緯があります。FP(ファイナンシャル・プランナー)による資産運用アドバイスも、基本的には同じタイプのものと考えていいでしょう。異なるのは人に会って話をする手間ひまも費用もかからないことですが、個人投資家の間ではそのような気軽さに加えて、コンピューターによる提案の方が客観性が高く信頼できそうな点も評価されているようです。
ロボアドでは利用者が手数料を支払えば、資産運用の一任契約を結んで運用をお任せしたり、提案された資産配分に沿って投資信託などの金融商品を購入することもできます。サービスを提供する側の最終的な目的はまさしくそこにあるわけですが、ロボアドの提案がそのまま実際の投資行動に結びつくかというと、そう単純ではないような気がします。
例えば個人投資家が同じ条件で複数のロボアドを試してみると、提案される資産配分の内容が大きく異なるケースがあります。これは各ロボアドが使用する相場データやリスク許容度の判定法に違いがあるためで、結局のところ、私たちはどのロボアドによる提案が最も適しているのかを自分自身で判断しなければならないわけです。
初心者をはじめ個人投資家がロボアドに関心をもつ背景としては、資産配分や投資対象を自分で決められなかったり、選べないことが大きいのではないでしょうか。そのロボアド自体についても取捨選択の必要があるとすれば本末転倒といえるわけで、その点を個人投資家が今後どのように考えていくのか注目したいところです。
AIに質的な企業分析や投資判断ができるのか?
AI投信は昨年(2016年)から日本でも設定・販売が増えてきた新しいタイプの株式投信で、その名のとおり株式運用にAIを活用しているのが特徴です。こちらも個人投資家の関心は高いようで、今年2月に新規設定されたゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントのAI投信には、設定から4日間で1,100億円を超える資金が集まりました。
AI投信においてAIが担うのは、ひとことでいえばビッグデータの解析とパターン分析です。解析対象のデータは商品によって異なりますが、個別株や株価指数先物の過去の値動きから為替や金利などのマクロ経済指標、アナリストリポート、ニュース記事、ウェブサイトのアクセス数、交流サイト(SNS)の書き込みまで、世界中のさまざまなビッグデータが対象となっています。
そうしたデータをもとに、過去の相場から再現される可能性の高いパターンを見つけ出したり、個別銘柄における価格変動のクセを捉えて将来の値動きを予測できるというのが、AI投信のセールスポイントです。現状では短期的な予測が限界のようですが、AIには機械学習を繰り返して賢くなる特性もあるため、今後はさらなる進化が期待できるといわれています。
しかしながら、たとえAIがさらに進化を遂げたとしても、AI投信が私たちの長期的な資産運用の柱になれるかというと、その保証はありません。確かにコンピューターは大量のデータ処理には圧倒的な強みを発揮しますが、社会構造や技術トレンドの変化、さらには経営者の性格やブランドの持久力など、企業を取り巻く質的な動向の分析・判断において人間に勝るとは限らないからです。
最終的な投資判断を人間が下すのであれば、単にデータ分析の部分が強化されるだけで、従来のアクティブ型投信とさほど変わらないことになります。AIを使って著名な長期投資家ウォーレン・バフェット氏の完璧なコピーをつくるというなら話は別ですが、少しでも人間が関わっている限り、AI投信の長期的な運用成果はその人の力量に左右されることを忘れない方がいいでしょう。