1. いま聞きたいQ&A
Q

円・ドル為替レートの今後について、見通しと注目点を教えてください。

安全通貨としての性格が薄らいだ円

先ごろ、円・ドル為替レートに興味深い変化が表れました。米国の財政問題で市場が動揺し、ドルの全面安が進んだ今年(2013年)10月初旬のこと。投資家の心理が弱気になった際に買われやすい「安全通貨」として代表的なスイスフランが、ドルに対して1年7カ月ぶりの高値を付けました。一方で、同じく安全通貨とされてきた円は一時1ドル=96円台半ばと、約2カ月ぶりの円高水準にとどまったのです

今年9月から、米国の財政協議がひとまず決着した10月中旬までの対ドル為替レートを見ると、円の上昇幅はスイスフランの半分に過ぎません。FRB(米連邦準備理事会)による量的緩和の縮小観測で市場が揺れた5~6月に、両通貨がともに対ドルで6~9%上昇したことを考えると、ここにきて円の安全通貨としての性格が薄らぎ、円高に振れにくくなってきたと言うことができます。

円の性格が変わった理由のひとつとして、日本の貿易赤字の拡大が挙げられます。財務省の発表によると、輸出から輸入を差し引いた貿易収支(通関ベース)は9月に9,321億円の赤字を計上しました。これで赤字は15カ月連続となり、第2次オイルショック時の14カ月連続を抜いて過去最長の記録です。2013年度上半期(4~9月期)の貿易赤字も4兆9,891億円と、年度半期ベースで過去最大を記録しています。貿易赤字すなわち輸出に対する輸入の超過分が増えれば、その支払いに充てるドルを得るために、円売り・ドル買い(円安圧力)が増えることになります。

貿易赤字の主因は、東日本大震災後の原発稼動停止にともなって原油や液化天然ガス(LNG)の輸入が増えていることですが、ほかにも見逃せない要因があります。内需の縮小や長らく続いた円高を背景に、日本企業はこれまで海外への生産移管を積極的に進めてきました。その結果、電気機器などを中心にいわゆる「逆輸入」が増えており、製品の魅力など国際競争力の低下も重なって、円安が進むなかでも輸出が増えにくくなっているのです。

FRBの量的緩和縮小が円安の呼び水に

日米による金融政策の方向感が異なる点にも注目が必要です。日銀が掲げる「2年で2%」というインフレ目標について、市場では達成は困難との見方が強く、積極的な金融緩和が長引くことはもちろん、どこかで追加の緩和強化策に踏み切らざるを得ないだろうとの指摘さえ出てきています。対してFRBは量的緩和の縮小時期を探る段階にあり、今後はどうみても「米国金利の上昇→日米金利差の拡大→円売り・ドル買いの増加→円安」という連想が働きやすくなるでしょう

気になるのはFRBによる量的緩和の縮小時期ですが、いまだ不透明な部分が多いのが実情です。11月8日に米国労働省が発表した10月の雇用統計は、前月比の雇用者増加数(非農業部門)が20万4,000人となり、12万人程度という事前の市場予想を大きく上回りました。過去の雇用者増加数もさかのぼって修正され、8~10月の3カ月平均でも毎月20万人を超える増加ペースとなっています。

こうした想定外の雇用改善を受けて、市場では「来春まで先送り」と考えられていた量的緩和の縮小開始時期が、早ければ年内の12月や来年(2014年)1月に前倒しされるのではないかという見方も広がってきました。市場の心理的な変化を反映するかのように、11月12日には円・ドル相場が一時1ドル=99円80銭と、2カ月ぶりの円安・ドル高水準をつけています。

ただし、米国でGDP(実質国内総生産)の約7割を占める個人消費は、2013年1~3月期の2.3%増から7~9月期の1.5%増まで、2四半期連続で減速中です。全米小売業協会が11~12月の年末商戦における個人の支出額を前年実績比で約2%のマイナスと予想するなど、米国の個人消費はまだ本格回復とまでは言えない状態であり、景気の先行きに対する不安は拭えません

来年の1月半ばには暫定予算が、2月上旬には債務上限引き上げがそれぞれ先送りの期限を迎えるため、米国議会では年末から年明けにかけて財政協議が再開される見込みです。同じく2月には、イエレンFRB新議長の就任も控えています。イエレン氏は今年11月の米上院銀行委員会の公聴会で、量的緩和の縮小開始について「特定の時期は決めていない」と明言しました。しかしながら、こうした過渡的な状況なども考慮すると量的緩和の縮小開始は時間の問題であり、それがさらなる円安の呼び水となることは確かでしょう

最後に、興味深いデータをもうひとつ。今年9月の消費者物価(総合指数)の前年同月比は、日米欧がいずれもプラス1%程度で並びました。米欧で物価上昇率が低下する一方、日本ではアベノミクス効果により物価が上昇傾向にあるからですが、このように日米欧の物価上昇率が横並びになるのは、1997~98年前半以来という非常に珍しい現象です。

通貨の相対的な価値を示す「購買力平価」の考え方に従えば、物価上昇率が他国より低いほど、その国の通貨の価値は高まることになります。つまり、デフレは円高につながるわけです。日本の物価上昇率が欧米に並んだという事実は、デフレに起因する円高圧力の弱まりを意味し、物価上昇率という観点から見ても円安が進みやすくなっていることが分かります

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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