1. いま聞きたいQ&A
Q

現状の為替レートは日本経済にとって好ましいものなのでしょうか?(前編)

円の実力は1ドル=300円時代と同じほど弱いのか?

円・ドル為替レートは昨年(2014年)12月初旬に1ドル=120円の大台を突破し、7年4カ月ぶりの円安水準を記録しました。その後は少し円高に戻しており、今年1月26日の時点では1ドル=118円台となっています。

ドルに対する円安の要因としては日銀による追加金融緩和や米国の景気回復などを挙げることができます。しかしながら、いわゆる名目為替レートで何年ぶりの円安だといわれても、円の通貨としての実力(相対的な強さ)が具体的にどの程度なのか、いまひとつピンときません。

私たちが円の実力を知るうえで参考になるのが、日本の貿易相手国通貨に対する円の強さを表す「実質実効為替レート」です。これはドルやユーロ、人民元などさまざまな通貨との交換レートを貿易額に応じて加重平均し、そこに物価の変動も加味して円の総合的な価値を求めたもの。数値が低いほど、円が他の通貨に対して安く(弱く)なっていることを示します。

日銀によると円の実質実効為替レートは2010年を100とした場合、昨年11月が69.96、12月が69.12で、73年1月の68.88以来、約42年ぶりの弱さになっています。当時は変動相場制への移行直前であり、円相場は1ドル=約300円でした。これらの数字だけから判断すれば、円はいま歴史的な全面安の水準にあるといえます。

実質実効為替レートに関しては、10年10月6日付の当コーナーで以下のような趣旨の考え方を紹介したことがあります。

「実質実効為替レートで見る限り、円の価値すなわちその背景にある日本の経済力は、経済成長率の低下やデフレ傾向が鮮明になってきた95年以降、他の主要国に対して低落傾向が続いていると考えられる。この傾向はやがて名目為替レートにも反映されてくるかもしれない」

紹介時の円相場は1ドル=82円台だったので、それから5割近くも名目為替レートで円安が進んだ現状を見ると、確かに日本経済の低迷ぶりが名目為替レートに反映されてきたともいえそうです。ただし、今日の円および日本経済の実力が1ドル=300円の時代と同程度というのは、さすがに過小評価され過ぎではないかという意見もあります。

米国と日本の金利差が拡大に向かっている関係から、ドルに対して円が下落するのは分かるとしても、他の通貨に対しても円が大きく下落するというのは、どうなのでしょうか。例えば、長らく続いたデフレや少子高齢化による経済規模の縮小懸念によって円が過小評価され、潜在的な経済成長への期待から新興国の通貨が過大評価されるなど、何らかのバイアス(圧力)によって為替市場にゆがみが生じている可能性もありそうです。

円安メリットが発揮されないことで生じた疑念

残念なことに、実質実効為替レートの適正水準は誰にも分からないし、レートの今後の動向を正確に予測することもできません。ならば私たちにとって大切なのは、実質実効為替レートの水準が高いか低いかを論じることではなく、現在の水準がもたらす効果や影響を検証することではないでしょうか

一般に実質実効為替レートが低くなるほど、日本企業の輸出には有利に働くといわれています。実際に日本ではかつて、円安によって輸出数量と国内生産が増え、設備投資も増加するという好循環が働いていました。JPモルガン証券の試算によると、1996年~2010年の期間中には、実質実効為替レートで円安が10%進むと輸出数量が5.5%増える関係にあったようです。

ところがアベノミクスによって12年末に円安への大転換が起きて以降、輸出関連業種を中心に日本企業の業績が大幅に改善された一方で、輸出数量はほとんど増えませんでした。反対に、原発の代替エネルギー燃料などの輸入量が増えたことで貿易赤字が定着。その貿易赤字が円安要因のひとつとなり、さらに円安が進むという状況が過去2年ほど続いてきました。

すなわち今回の円安局面では、実質実効為替レートが低くなったことの効果(円安メリット)が十分に発揮されず、逆に物価上昇などの形でマイナス効果が目立つ結果になったことから、これ以上の円安は日本経済に悪影響を及ぼすのではないかという疑念が広がったわけです

ここにきてそうした状況にも変化の兆しが見えつつあります。財務省の貿易統計によると、14年12月の輸出量は前年同月比で3.9%増加しました。円安基調が定着したため、輸出品を値下げして市場を開拓する企業がようやく増えてきた模様です。企業が国内生産に回帰する動きも見られるほか、原油安によって貿易赤字が縮小に向かう可能性も出てきました。

次回はこうした最新状況も踏まえながら、円安が日本経済にもたらす効果や影響について、さらに詳しく考えてみたいと思います。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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