1. いま聞きたいQ&A
Q

為替相場は各通貨の実力をきちんと反映して動いているのでしょうか?

為替相場の適正値を物価でとらえる購買力平価

為替相場の先行きを予測するのはプロでも難しい、とよく言われます。その大きな理由として、為替相場を動かす要因が非常に多岐にわたることが挙げられます。景気の善し悪しや経常収支(貿易収支)、インフレ率(物価上昇率)といった各国経済の状況はもちろん、政策金利の水準(金利差)や世界的な投資マネーの動向、政財界の要人発言なども為替相場に少なからぬ影響を与えます。

例えば今年(2009年)の9月下旬に、ドル・円相場は一時「1ドル=88円」台の前半まで急激に円高が進みました。これは米国で超低金利政策が長期化しそうなため、金利面から見た米ドルの相対的な魅力が薄いことに加えて、わが国の民主党新政権の藤井財務相が円高容認ともとれる発言をしたことも一因と言われています。

このように、為替市場にはその時どきで注目されるテーマのようなものが存在し、とくに短期的に見た場合、為替相場はそれらの影響を受けやすいのが特徴です。そのため、特定の通貨が過大評価されて高くなったり、逆に過小評価されて安くなったりすることが珍しくありません。為替相場は必ずしも、その通貨や国の「実力」を正確に反映しているとは言い切れないわけです。

一方で、長期的に見れば、為替相場は通貨や国の状況に見合った適正な水準に収まっていくという説もあります。その目安になるのが「購買力平価」です。これは為替相場の適正値を各国の物価の均衡点でとらえようとする方法で、例えば同じタイプのハンバーガーが日本では200円、米国では2ドルで売られているとするならば、為替相場は両国の物価が釣り合う水準である「1ドル=100円」になるはずだと考えます。

いま仮に購買力平価が「1ドル=100円」であるのに対して、実際のドル・円相場が「1ドル=130円」だったとしましょう。米ドルは物価水準からみた通貨の相対的な本来価値に比べて、30%割高に評価されていることになります。その分、米国は日本よりも輸出競争力が低下するため、今後は経常収支の悪化が予想されます。結果として、米ドルは購買力平価という適正水準に向かって次第に下落していくだろうと考えられるわけです。

1ドル=80円を割り込んでも不思議ではない!?

実際にドル・円相場の購買力平価を割り出す際には、ある年を基準として米国と日本の今日にいたるまでの物価上昇率をそれぞれ計算し、両者の差に相当する分の為替変動率を同期間のドル・円相場にあてはめて、現在の均衡レートを割り出します。基準年としては一般に、日米の経常収支(貿易収支)が均衡していたという理由から1973年が多く採用されています。物価上昇率の計算には、輸出物価や企業物価、消費者物価などの各指数が用いられます。

財団法人国際通貨研究所のデータによると、今年7月の時点におけるドルと円の購買力平価は、輸出物価ベースが「1ドル=76.49円」、企業物価ベースが「1ドル=109.68円」、消費者物価ベースが「1ドル=139.02円」となっています(※基準年は輸出物価が1990年、企業物価と消費者物価が1973年)。

実はこの例からも分かるように、購買力平価には使用する物価指数の種類いかんで、さらには起点となる基準年をいつに取るかによって、数値が変わってしまうという難点があります。購買力平価はあくまでも物価という観点から為替相場の適正値を類推するに過ぎず、絶対的なものではありません。ただし、多くの通貨間の為替相場が各国の物価動向と高い関連性をもつことは、すでにさまざまなデータによって証明されています。購買力平価が為替相場の推移を理解するうえで、大いに参考になることは確かです。

例えば、プラザ合意によって円高傾向が鮮明になった80年代後半以降に限ると、実際のドル・円相場は、上記データにおける輸出物価ベースと企業物価ベースという2つの購買力平価の間でほぼ推移してきました。すなわち購買力平価から見れば、これからさらに円高が進んで、現状のドル・円相場が「1ドル=80円」を割り込む事態になったとしても、それほど不思議ではないわけです。

南アフリカやトルコ、ブラジルなどの新興国ではインフレ率が高いため、政策金利も7~8%台と高いのが特徴です。そのため、国外から高い金利収入をねらった投資・投機資金が流入し、通貨の価値が一時的に上昇しては、その後に急落するという現象を繰り返してきました。これらの国の通貨も、過去20年ほどの購買力平価で見ると、円に対して下落(円高)傾向が続いています。いくら経済成長率が高くても、物価動向を無視した為替水準は長続きしないことを、購買力平価が物語っていると言えます。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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