1. 金融そもそも講座

第300回 今年の中国、大きな変動も(前編)

読者の皆さんがこの文章を読む頃には冬季北京オリンピックの最中だろう。秋には中国は、次の5年の最高指導者を決める共産党大会を控えている。戦狼外交官達はあらゆる事象に日々コメントし、それには時に喧騒(けんそう)感さえ漂う。しばしば居丈高でもあるが、中国が世界第2位の経済大国なのは周知の事実であり、どう見ても「もう少し伸びる」国ではある。

そこで、今中国で何が起きていて、それが今年の世界のマーケットにどのようなインパクトを持ちうるかに関して考える。2月に入って世界のマーケットは大分落ち着いてきたが、ウクライナ情勢はどのような展開になるのか読めない。実は中国情勢もかなり流動的だ。「習近平再任」は既定事実のように言われているが、そうならない可能性もある。

経済の落ち込みが深刻だ。失業率も上昇しているし、新疆ウイグル自治区やチベットでの人権侵害は既に世界的な関心事だ。一帯一路関連国を中国支持の隊列に加える努力をしているが、世界的なイメージの悪化は止まらない。確かに“利”になびくのは人間社会の常だが、それを見せびらかされればされるほど反感も生まれる。

成長が大幅低下

中国経済の現実を如実に示した数字は、昨年第4・四半期の成長率4.0%(前年同期比)だろう。その前の期の4.9%に比べて1%近い低下。比率としては非常に大きい。中国と言えば成長率目標を最低6%程度に置き、実際には目標以上を達成し続けていた。それは共産党による「統治の正統性」を示す1つの柱であり、もう1つは「目標を下回れば雇用悪化が現実化し、社会不安が高まる」という恐怖があるからだ。

しかし中国の統計についてしばしば言われる「筆をなめる」が仮にあったとしても、昨期は「隠しおおせない成長率の鈍化」となった。無論「一期だけの現象」と当局者は言う。しかし直近最後の中国特集で取り上げた「共同富裕」下での「上をたたく」姿勢以外にも、大きな問題が浮上している。それが「ゼロコロナ政策」だ。

「ゼロコロナ政策」とは、新型コロナウイルスとの共存(姿勢)を社会(国)の政策として受容せず、感染者が出たら万難を排して抑え込むというものだ。実際に中国の感染封じ込め姿勢は苛烈で、例えば人口1300万人を擁する西部の大都市・西安はもう長く「都市封鎖」の中にある。基本的には必要最低限の必需品(食料品とか)の購入の為にしか外出できないなど。2年前の武漢を彷彿(ほうふつ)とさせる。

対処が難しいオミクロン

その結果は対象となった地域全体での経済活動の大幅低下であり、国全体での消費意欲の減退だ。中国の人口が14億に達すると言っても、豊かな大都市の封鎖の影響は大きい。しかも同様の措置が取られているのは西安にとどまらない。1月末から2月初めにかけての春節を経て、オリンピックの最中であろうとも全土に感染が広がる懸念がある。昨年第4・四半期の成長率を引き下げたのは消費不振と不動産取引の不調だった。当然だろう。

問題は今がオミクロン株の時代だと言うことだ。感染力が極めて強い。既に中国でも主流だ。日本を含めた諸国の例を勘案すると、中国のゼロコロナ政策が貫徹できる可能性は極めて低い。オリンピックが完璧なバブル方式で行われている北京でも、市中感染が既に広がっている。

多くの予測機関、専門家がゼロコロナ政策を、「今年の中国の抱える最大の矛盾」と指摘している。今回のパンデミック発生も見通したアメリカのシンクタンクであるユーラシア・グループは「China's zero-Covid policy will fail」(中国のゼロコロナ政策は失敗する)と断言し、それを「今年の世界の10大リスク」(https://www.eurasiagroup.net/files/upload/EurasiaGroup_TopRisks2022.pdf)の一番手に挙げた。「感染封じ込めに失敗し、よって感染は一段と拡大し、厳しい封鎖地区が増える。経済は混乱し、それによって人々の習近平体制への不満は増大する」と予想。

筆者は「あまりにも現状にそぐわない政策故に、北京オリンピック後は中国はゼロコロナ政策を変えてくる」と読んでいた。しかし同グループは、「中国はコロナを打ち負かした」という中国国営メディアの勝利宣言(習近平の業績と喧伝)故に、「ゼロコロナ政策を変えられない」との意見。同グループはさらに、「mRNAワクチンよりオミクロンに弱い不活性化ワクチンしか打っていない中国国民は大きな感染リスクにさらされる」と予想する。

いずれにせよ混乱?

筆者はゼロコロナ政策を中国が放棄する可能性は依然として残る(あまりにも現状無視なので)と見るが、結果は同じだ。ゼロコロナ政策を一生懸命継続しようとすれば、感染力の強いオミクロンの前に中国では都市封鎖が増えて経済は大混乱する。

一方でオミクロンとの共存を言い出しても、不活性化ワクチンしか打っていない中国国民の重症化リスクは同株でも高く、これが経済の動きに一気に急ブレーキをかける。2回目までmRNAワクチン接種が進んだ日本でも、これだけ社会機能の毀損が見られるのは想起しておく必要がある。

ということは、中国当局者の強気にもかかわらず中国経済は「さらに減速」する可能性が高いと言うことだ。株式相場はそれを読んでいる。ほぼ中国に組み込まれた香港の代表的株価指数のハンセンを見ると、過去1年の大きなトレンドはずっと右肩下がりで、他の世界のマーケットの傾向とは大きく乖離(かいり)している。

もし中国の成長率が中国共産党の「統治の正統性」を揺るがすほどに落ち込んで、失業率が低下したらどうなるのか。政治不安だ。また中国経済はGDP世界第2位になる過程で「世界の工場」の時期を通っている。その工業製品は今でも世界中に輸出され、さらに生産だけでなく流通でも大きな存在だ。その中国経済の混乱は世界経済にとっても大きなリスクだ。

政治的には中国はその劣悪な人権意識や少数民族への抑圧、それに国民を押さえつける権威主義的社会主義体制故にトラブル・メーカーと思われている。しかし経済は「共同富裕」構想故の葛藤はあるものの、依然として「活力あふれる資本主義」の経済体制だ。そして中国は「14億の消費者の存在」と「周囲を睥睨(へいげい)する成長力」をウリにしている。中国経済の動向を見ることは重要だ。

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中国特集はあと少し続けたい。「習近平の3期目獲得は既定路線」と見ている人が多いようだ。しかし本当にそうだろうか。次回はそれを取り上げたい。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

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