1. 金融そもそも講座

第301回 今年の中国、大きな変動も(後編)

目立つ地政学的プレーヤーとしての地位をすっかりプーチンのロシアに奪われた形の中国。ウクライナ情勢はまた別の機会に取り上げるので、今回もこの講座では中国を続ける。長期的な世界経済の行方にとっては、依然として中国の変化の方が大きいからだ。GDPの規模が違う。

その中国とロシア。実は共通の悩みを持つ。世界の国々や諸国民、それに自国民からも「素晴らしい体制だ」という尊敬を集めていないことだ。自国民の中にある多様な意見さえも押さえつけながら国の形を保ち、1人の指導者が長く国を統治する。西側的自由がない。

世界の人々が「ああいう国に住みたい」とは思わない。「民主主義の危機」が叫ばれるが、ロシアと中国は共に「尊敬されない」という焦りをずっと持ち続けている。それ故の権威主義的超大国だ。両国が国民をあおる手段として使っているのがナショナリズム。クリミアを併合してプーチンは、「中国の夢」を語って習近平は自国民の愛国心をくすぐり、統治継続に使っている。

そこにあるのは「焦り」だ。超大国の「焦り」やその衝突は大きな問題だ。この「焦り」は今後のマーケットを考える上で重要だ。また取り上げるが、その上で今回は、前回の講座で取り上げなかった「中国の人口の頭打ち」「習近平が3期目を許されない可能性」などを取り上げたい。

人口と不動産の問題

やや長い視点になるが、中国を考える上では人口問題を頭に入れておく必要がある。既に「減少フェーズ」に入っているのだ。国家統計局の1月半ばの発表によれば、中国で昨年生まれた新生児の数は1062万人。2020年は1200万人だったから大幅な減少だ。少なくとも1950年以来最少となったという。

2021年末時点での中国の人口は14億1000万人だが、仮に年1000万人前後の出生が長く続けば、中国の人口は時間をかけて8億人に収れんして10億人を大きく下回る。新生児数が去年大きく落ち込んだのは「新型コロナウイルス禍」が原因との見方もできるが、中国では既に長く「子供をあまり作らない」という社会風潮が続いている。去年の出生者数減もその流れの中にある。

中国では「子供に高い教育を受けさせねば」という親の願いが強い。そのためにたくさんの子供を持てない。1人にかかるコストが高いからだ。加えて農村が減り都市化した中国では「働き手としての子供」も必要ない。人口減少は東アジアなどで見られる世界的な傾向だが、中国の場合は人口構成が著しく高齢化し、既に始まっている生産労働人口の減少がGDPの水準にまで響くという大きな問題がある。

不動産問題も深刻だ。人口の減少もそれに拍車を掛ける。既に恒大問題で中国の不動産問題の深刻さは世界に知れわたった。特に地方での不動産(主に建物の)価格は今後も下落が続くと予想される。共同富裕の考え方も、中国の不動産問題の深刻化を招来するだろう。

習近平の3期目?

そうした中で開かれる秋の共産党大会。世界中のメディアは「(習近平の統治に関して)3期目が確実視される」と当然視する見方を強めている。しかしその一方で喧伝(けんでん)される同氏の実力が、実はかなり化粧を施したものであることは世界中が、そして中国の国民も知っているだろう。

中国共産党の創立100周年でただ1人人民服を着て天安門広場でのパレードで主役を張っても、彼が毛沢東や鄧小平のような「実力」や歴史に残る偉業を成し遂げた訳でないことは明らかだ。北朝鮮の金正恩が一生懸命虚実入り交じった“実績”を宣伝してやっと統治の正統性を示しているほどではない。しかし「習近平は本当に毛沢東や鄧小平に伍(ご)す人物か」という疑問は今でも強い。中国でもそうだ。

その疑問が秋の党大会までの顕現化する、という見方は少数だが世界には存在する。例えばマーケットの人間にはなじみのジョージ・ソロス氏だ。ポンドを大幅切り下げに追い込んだことでも有名だ。最近はあまりお目にかかれないが、しっかりと資産家として活動している。

彼は北京冬季オリンピックを間近に控えた今年1月末にスタンフォード大学フーバー研究所主催会合で、「中国共産党内の強い反対を踏まえると、習主席が慎重に演出された形で毛沢東、鄧小平両氏の地位に上り詰めることは決して起きないかもしれない」と指摘した。

具体的には党内の政敵や不動産危機、効果の薄い新型コロナウイルスワクチン、出生率低下などを挙げ、中国内部の分断は「非常に激しく、さまざまな党出版物からそのことが読み取れる」と指摘し、さらに「鄧氏の思想に感化され、民間企業の役割拡大を望む勢力から習氏は攻撃されている」と分析。

今後数カ月が鍵

今後習近平政権がどう展開するかを考え上で重要なのは、今年6月までの数カ月だとソロスは指摘する。非常に悪かった昨年最終四半期に続いて第一・四半期のGDPも発表され、そして冬季オリンピック後の「ゼロコロナ政策」の結果が出てくるからだ。

前回も書いたが、昨年第4四半期の中国のGDP伸び率4.0%は衝撃だったが、「その数字も実体を表していない」との見方が専門家の間で強い。「実体は2〜3%の成長率だったのではないか」との見方だ。中国のGDP統計は各省がまとめた数字を足しあわせ、中央政府が「このくらいだろう」と算出する。

しかし「各省から上がってくる数字」は、しばしば嵩上げされている。各省の幹部は出世争いの最中にある。良い数字が欲しい。中央もそれを希望する。それを覆い隠せるかどうか。北京冬季オリンピックの感染対策は苛烈を極める。オリンピック後の国内での厳しい感染対策は、経済に与える影響が大きいだろう。

今でも毛沢東時代末期の混乱を乗り切った鄧小平の手腕を高く評価する人達は、中国共産党の幹部の中にも多いとされる。その鄧小平を凌駕(りょうが)する地位に習近平が昇ることをこころよしとしない人は多いだろう。実績(成長率やコロナ対策、対外関係など)の落ち込みが今年の半ばまでに顕在化すれば、秋には習近平氏は大きな試練に立つ可能性は十分あると筆者は見る。

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筆者がこうした一般の見立てと違う見方を紹介するのは、「そうなってほしい」と思っているからではない。頭の体操をしておく必要があるからだ。「習近平の後釜は誰か?」という問題もあるし、その人があの大国をうまく治められる保証もない。「共同富裕」構想はどうなるのかも、対米関係の変化も見通せない。いつもの事だが、引き続き世界は不安定だ。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

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