1. 金融そもそも講座

第283回 動揺に輪を掛けるBTC

前回(282回)の最後にマーケットが動揺しやすいフェーズに入ったとタイトルし、『マーケットは「取り巻く環境・その枠組み変化の時期」は総じて不安定になる。今までの前提を入れ替えて、思考・投資パターンを切り替える必要がある。それは誰にとっても容易な作業ではない』と書いた。今その容易でない作業を一段と難しくしている存在がある。ビットコインだ。

一部の投資家はよくご存じだが、実は株価以上に世界の暗号資産(仮想通貨)市場は大きな動揺に見舞われている。登場するのはテスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)、中国の金融当局など。株価は一日に上がり下がりしてもせいぜい数%だが、仮想通貨は過激にごく短時間に数十%も平気で動く。ビットコインも高値からあっという間に半値近くに落ちた。その後の動きも不安定。

「株と仮想通貨は別物」と思われる方は多いかもしれない。資金の流れから見るとそれは間違いだ。機関投資家を含めて資産を運用している人の多くは、様々な資産を手掛けている。株、債券、ゴールド、不動産、そして仮想通貨。どこかの資産が大きく下げると、それを取り返そうとする。売りの波はあっという間に他の資産に及ぶ。しばしば逆も真だ。

そこで今回はビットコインを中心とする仮想通貨市場で何が起きているかを確認しておきたい。

高値から半値近くに

いくら「そもそも講座」でも「仮想通貨とは」「ビットコインとは」といった説明は省略する。ビットコインが最初に大きな話題になったのは2017年末から2018年年初にかけて。

筆者はラジオ番組でビットコインの急騰を扱った2017年に「知らないで語るのも」と思い少量買った。それをビックカメラとか聘珍樓で実際に使い「支払い手段になった」とラジオで語ったのを覚えている。確か日比谷の聘珍樓で最初にビットコインを使った客は私で、店側は処理が分からずレジ担当者が交代するなど大変だった。

確かその当時の高値は1ビットコイン=2万ドル強だったと思う。当時から値動きは激しかった。そもそも多くの人が支払い・貯蓄ツールとする通貨は、ずっと国など政府が管理してきた。国の権威の象徴の一つだ。しかしビットコインはブロックチェーンという技術を使い、公的権威とは別のところに位置する。通貨を発行している国にしてみれば、そもそも煙たい存在なのだ。しかも現通貨に対する信頼度に疑問符が付くときにビットコインは人気増大となる。

その時のブームは経済・社会の混乱や政府批判につながらないかを懸念した中国政府が規制措置を取ったことから反落。当時は世界各国の政府もおおむね同通貨に対しては批判的だった。売りを浴びビットコインは低迷。時に5000ドルを大きく下回った。それが2020年の秋から急騰していた。背景は株価の大幅上昇(投資家の余力増大、投資多様化の欲求など)、もう一つはコロナ禍。コロナ禍で仕事を奪われた若者は米国でも韓国でも株や仮想通貨取引を始めた。それに加わったのが機関投資家だ。

イーロン・マスクの変心

価格は2020年の春から静かな、しかし持続的な上昇傾向を示してきたが、同年12月に2万ドルを突破した後は一気にチャートを駆け上がった。2021年の春には一時同6万ドルを越えた。筆者はごく少量のビットコイン使い残しを「ビッドフライヤー」というアプリに残しており値動きは常に確認できる。

ビットコインを一気に高値に駆け上がらせたのはテスラだ。同社が米証券取引委員会(SEC)に提出した2020年度の年次報告書によると、同社は「投資に対する方針」を1月に更新し「会社の資金15億ドルをビットコインに投資」した。これが「米国の一般事業会社の間でも仮想通貨、特にビットコインを将来の事業展界の視点から導入する動きが活発化する」との見方を強めた。

「テスラ車をビットコインで買える」という状況は、同資産を「仮想」の世界から「リアル」に深く引き込むものだった。ビットコイン投資家は興奮し、新規投資家も増えた。ビットコインはその段階で「ライジングな会社であるテスラのお墨付き」を得た形となった。イーロン・マスクはその際「Clubhouse」で「8年前にビットコインを買っておくべきだった。現時点でビットコインは良いものだと思うし支持している」とコメントしていた。

そのイーロン・マスクがわずか数カ月後に変心する。BBCが記事にしたのは5月13日だ。「気候変動に対する懸念故に、ビットコインでのテスラ車購入を中断する」と発表した。はしごを外されたのは「ビットコインは立派な代替通貨になる」と購入を勧めていた投資家だった。高値から数日間にわたってドスンドスンと落ちて4万ドルを割り3万ドル台に落ちた。

その一方でイーロン・マスクは「購入したビットコイン(公表時で15億ドル相当)は持ち続ける。長い目で見れば良い投資だと思う」とも語っている。ではなぜ今はビットコインでのテスラ車購入を停止したのか。彼は「ビットコインのマイニングとトランザクション(共に電力をかなり使う)に化石燃料、特に石炭が使われるケースが急激に増えているからだ。石炭はあらゆる燃料の中で最悪の排気を出す」と環境保全面での配慮を強調した。

テスラが作っている電気自動車は排ガスを出さない。クリーンで売っていた会社が、ビットコインの利用を促進することで化石燃料(特に石炭)利用を急増させてはならない、と考えたのだ。かねて環境保護団体などから受けていた批判を受け止めた形だ。ということは、ビットコインのマイニングが太陽光発電などクリーンな電力でできるようになれば再び「テスラ車をビットコインで買える」という状況が出来上がると予想される。

続く綱引き

さらに中国銀行業協会の通達に関する報道も相場動揺の背景となった。報道によると同協会は5月19日までに金融機関に対し、ビットコインなど仮想通貨の関連業務を禁じる通知を出した。「ビットコイン価格の乱高下が中国の金融システムを混乱させることを防ぐ」狙いだという。また一部地方では新たな仮想通貨を生み出す「マイニング(採掘)」の取り締まりも始まった。

筆者がこのニュースを聞いて最初に思ったのは、「中国では批判的な当局の目を盗んで、ビットコインの取引やマイニングが結構盛んだったんだ」という事。盛んだからこそ当局は直近のビットコイン乱高下を懸念している。18日付の通知は、「仮想通貨に関わる直接、間接のサービスを顧客に提供してはならない」と強調している。「仮想通貨を人民元や外貨に交換する業務や、仮想通貨に関連する金融商品の販売」を禁止事項として例示した。

ビットコインは不思議な存在だ。最初に構想したのは日本人とも言われるが、これだけ世界中の金融当局に警戒されながらも根強い個人・企業ファンがいて、繰り返したたかれながらもその存在感を高めているように思える。既存の貨幣・通貨とそのシステムに不安感がある限り、人々は代替決済・貯蓄手段を欲しがる。そのせめぎ合いが続く。

最近の株式市場を見ていると、時にビットコイン連動の動きが見られる。コロナ禍の状況、企業業績、そして世界的な金利の動き、1次産品の動向など気配りが必要な時期だが、その中には「ビットコイン動向」を入れておく必要がある。次回はもうちょっと踏み込んでビットコインを分析したみたい。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

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