1. 金融そもそも講座

第284回 動揺に輪を掛けるBTC2

前回の最後に「次回はもうちょっと踏み込んでビットコインを分析してみたい」と書いたので、今回は筆者の仮想通貨(暗号資産、今はその代表がビットコイン)に対する基本的な考え方を記した後、コロナ禍対応と日本の株式市場との関連をワクチン接種進展の側面から考察したい。

チャートを見る限り、仮想通貨市場は株式市場の日々の動きに大きく影響する動き(急落)をした後は、横ばいの比較的狭い範囲で動いているように見える。あれだけ世界各国の中央銀行が仮想通貨を敵視する声明・措置を出している中でも急落に次ぐ急落とはなっていない。またビットコイン相場が「反発」することが、ニューヨークなどの株式市場で好材料とされることが多い点には注目すべきだ。

それは既に仮想通貨が機関投資家を含めて「資産」の重要な一部になっていて、韓国の若者のようにその上昇に資産形成のかなりの希望を託している人が多いことを示している。つまり世界に数ある通貨(的なものを含む)の中でも、仮想通貨が存在感を高めている証左だ。

時代の要請

筆者の仮想通貨全体に対する基本的な考え方は、

  • 1.時代の要請、テクノロジーの変化(進歩)に沿った存在であり
  • 2.故に少なくとも人々の少額決済に関わる分野では早急に認められるべきだ

というものだ。「時代の要請」とはコロナ禍で一時ストップしているが、世界における人々の動きがかつてないほど頻繁になり、米中摩擦の激化にも関わらず「モノの移動」は高水準で続いている。世界経済が不可逆的にグローバル化しているからだ。二大国の対立は「経済のブロック化」をもたらしても良いようなものだが、その言葉を適用できる事態は生じていない。米中間の貿易は、テクノロジー分野など一部を除けば相変わらず高水準だ。

筆者はヒト・モノのグローバル化進展の中でフェイスブックがリブラの構想を打ち上げたとき(2018年)に「これは便利なものが出てくる」と思った。何せ同社はFacebookをコアにInstagram、Facebook Messenger、WhatsAppの合計4プラットフォームを持ち、その合計ユーザーの数は30億人(世界人口は約80億)近く(直近統計)に達するからだ。

同社を信頼できる企業であるかどうかの評価を別にすれば、各国通貨に代わる決済可能のツール(当初“リブラ”と呼ばれた)を同社が出して広く普及すれば、世界どこに行っても「為替」の必要性が生じなくなると思われたからだ。世界どこにいてもリブラ払い、リブラ受け取りなど。「テクノロジーの変化(進歩)」は既にそれを可能にしている。世界各国をクロスして移動している出稼ぎ労働者の送金も桁外れに容易でコストダウンになる。

強烈な反発

しかし一方で、「中央銀行を含めて既存の金融システムから強烈な反発が出るだろうな」とも思った。なぜならそれは明らかに各国通貨の存在を前提にした現在の金融システムのかなりの機能を不要なものにするからだ。

従来の“決済”は金融機関(最終的には中央銀行)を通じて行われ、それが各国金融システムの大きな収益源になっている。Facebookがそれを奪おうとしている。中央銀行も失うものが大きい。FB決済が一般化すれば、中銀の通貨発行権が脅かされるし、発行益も大幅に減少する。“権威”の問題もある。何のための中銀、何のための金融システム(銀行を中心とする)かという問題が生ずる。

既存勢力から総スカンを食ったFacebookは、マネーロンダリングを容易にしてしまうという批判もあって、その後計画を変更・縮小した。リブラ協会を改組して、さらには「リブラ」という呼称も協会も「ディエム」に変えた。リブラが金融業界に与えた恐怖感を和らげるためとも言われる。

しかしFacebookのリブラ構想がもたらしたインパクトは、その後各国中銀行のCBDC(中銀発行デジタル通貨)実験を促し、将来はどういう形にせよ「デジタル通貨」が世界的に受け入れられ、コストの安い便利な決済・投資手段が生まれるとの期待も強まった。だから将来は分からない。しかし今その期待を担うのはビッドコインやイーサなどだ。そこに人気の秘密がある。

各国中銀が発行の現行通貨(ドル、円、ユーロなど)に対する潜在的な不安感もある。コロナ禍とは言え、なりふり構わぬ発行増。「価値を保てるのか」「何か別の決済・投資手段を持っていたほうが良いのでは」と考える個人や機関投資家は多い。イーロン・マスクもその一人だ。なので筆者は、いくらたたかれても仮想通貨への期待は残り続けると思う。また今のテクノロジー状態からしても、「少額決済は仮想通貨(ビットコイン、ディエムなど)の役割担当を許すべきだ」というのが私の意見だ。

日本でも急ピッチ=ワクチン接種

やや話は変わるが、タイミングとして今回ぜひ書いておきたいことがある。それは「日本の新型コロナを巡る環境は今後1〜2カ月で大きく改善する可能性がある」というものだ。これは出遅れ日本株を考える上で重要だ。

政府は6月早々に「少なくとも1回のワクチン接種(ファイザーかモデルナ)を終えた日本人が1000万人を超えた」と発表した。日本の人口の12分の1とやや薄いが第1シールドを得たことになる。政府が目標としているのは「1日100万回」だが、それは打ち手不足の問題もあって、なかなか早期実現は無理だろう。

しかし現行1日50万回も徐々に増えていくと考えられる。筆者も5月24日の朝一番に大手町で第1回接種を終えたが、流れもスムーズで「今後接種者の数はかなり増えていく」との印象だ。国の大規模接種以外にも、地方自治体、職場・大学でも今後大規模接種が増える。仮に今後1〜2カ月の1日当たり新規接種者が平均70万人とすると、今後5週間で新たに2450万人が接種を受けることになる。これに1000万人を加えると3450万人だ。

この文章を書いているのは6月3日の朝だから、オリンピック開幕を前にして7月中旬には日本のワクチン接種者(少なくとも1回)の数は4000万人を超え5000万人に接近する。欧州の例を見ると接種者の割合が人口の4割に達すると感染者も減り、特に死者が劇的に減る。そして経済活動がコロナ禍中では想像できなかったほど緩和される。

もちろん「画餅」のきらいはあるが、日々の切迫感あるコロナ報道の中にあっても、本当にこの禍を軽減してくれる可能性がある「ワクチン接種」の進捗具合は重要だ。それと市場との関連を、シナリオを持って頭の中に作っておくことは必要だろう。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

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