将来的な値上がり期待による国債の異常人気
日本国債がバブルかどうかをを判断するうえで、ひとつの参考となるのが長期金利の水準です。長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは、今年(2012年)7月11日に0.785%と、2003年6月30日以来、約9年ぶりの水準まで低下しました。
銀行や生命保険会社などの国内金融機関は国債を大量に保有していますが、全国銀行協会によると都市銀行6行の資金調達コストは0.85%といわれています。都市銀行6行では従来のように預金を国債で運用しても、もはや金利面では利益を出すことが難しくなっているわけです。
そうした状況にもかかわらず、全体として投資家の国債購入意欲が衰える気配は見られません。国債は相変わらず買われ続けており、7月11日には5年物国債の利回りも0.185%と、約9年ぶりの水準まで低下。財務省が7月10日に実施した30年物国債の入札では、投資家の国債に対する需要の強さを示す応札倍率が4.09倍と、約1年半ぶりの高水準を記録しています。
背景にあるのは、国債が今後もさらに買われて将来的に利回りが低下する、すなわち国債価格が上がることによって利益が得られるという期待でしょう。「皆が買うから値上がりする、値上がりするからまた皆が買う」という状況は、まさしくバブルの典型といえます。
2011年末現在、償還(満期)までの期間が1年以内の国庫短期証券を除くと、日本国債の累積発行残高は755兆円に上ります。そのうち604兆円が国内金融機関による保有です。保有額が大きい分、金融機関が抱えるリスクも大きくなります。長期金利がこの先1%上昇した場合、大手銀行で3.5兆円、地銀などの地域金融機関で2.8兆円の損失が出るといわれています。
もちろん、金融機関もリスクを認識していないわけではありません。大手銀行を中心に、償還までの期間が10年を超える国債の保有額をゼロにしたり、保有国債における償還までの平均残存年数を短縮化するといった動きが目立ちます。
しかし、仮にいまから数年後にバブル崩壊(国債価格の暴落)の危機がくると予想されても、実際に長期金利の上昇傾向が続くなど、その危機が明確に意識されるようになるまでは、銀行などは国債に投資せざるを得ないのが実情です。景気低迷による資金需要の減少で貸出先が不足しているため、本来は融資に回すべき資金を、値動きが相対的に小さい国債のような投資対象で運用するしか、確実に収益を得る方法がないからです。このようにして国債バブルは大きく膨らんでいきます。
国は借金返済のために新たな借金を続けてきた
国債バブルのもう一方の担い手である、国の「国債発行」に目を転じてみましょう。ここ数年、日本では各年度の予算に対応した国債(新規財源債)の発行額は44兆円程度ですが、「借換債」と呼ばれる国債も含めると全体で160兆円以上の国債を発行し、金融機関などの投資家に買ってもらっています。
国債は主に入札を通じて発行されますが、その額は月平均で約13兆円にも達します。逆にいえば、これだけ巨額の国債が毎月のように消化されて、国の財政が成り立っているわけです。将来的なバブル崩壊は国債の未消化によって起こる、といわれるゆえんです。
どうしてこんな“国債頼み”の状況になってしまったのでしょうか。過去に発行した国債が償還を迎えると、その時点で国は投資家に元本を返済しなければなりません。その返済資金を調達する目的で発行される国債が、借換債です。1990年代末から年度ごとの国債発行額が増え続けたのにともなって、借換債の累積発行残高も大きく膨らんできました。
借換債が増えた理由のひとつが、いわゆる「借り換え金利低下ボーナス」の存在です。国債の大半が償還まで金利を固定しているため、例えば10年物国債を発行すると、国が支払う金利は10年間変わりません。ところが10年後に国が借換債を発行すると、その時点での市場金利が借換債の表面利率(支払い金利)に反映されます。この間、金融緩和やデフレの進行などによって市場金利が低下傾向にあれば、国債の発行残高が膨らんでも、利払い費の伸びを低く抑えることができます。
借換債の発行額は新規財源債のように年度予算で縛られることがないため、政府の裁量によって決まる余地が大きくなります。国は景気低迷による金利低下を逆手にとって、借金返済のためにまた新たな借金をするという“安易な方法”を選択し続けてきたともいえるのです。
さて、次なる問題は国債バブルが日本経済にどんな影響を及ぼすかということです。次回で考えてみたいと思います。