1. いま聞きたいQ&A
Q

いま何故、円高・ドル安が進んでいるのですか?

「米ドルの全面安」という側面が強い

このところ外国為替市場で、円高・米ドル安が非常に急速に進行しています。今年(2008年)3月17日の東京市場では一時、1ドル=95円77銭を記録しましたが、これは約12年7カ月ぶりの円高・ドル安水準にあたります。逆に昨年(2007年)の6月後半には1ドル=124円台と、約4年半ぶりの円安・ドル高水準にあったことを考えると、この9カ月足らずの間に為替相場のトレンドが円安から円高へ、いかに急激にシフトしたかがわかります。

今回の円高・ドル安には大きな特徴があります。それは、米ドルが円だけでなくユーロや豪ドルなど他の主要通貨に対しても著しく安くなっていること。いわゆる「ドル全面安」「ドル独歩安」の傾向です。たとえばユーロ・ドル相場は3月14日の東京市場で1ユーロ=1.5652ドルと、1999年にユーロが導入されて以来の最高値(ユーロ高・ドル安)を更新しました。

一方で、最近の円はユーロに対して1ユーロ=155円前後と、ユーロ導入以来の安値圏を推移しています。円・ドル相場が前回1ドル=100円の大台を突破した1995年と比較すると、円は英国のポンドやカナダドルに対して20%以上、中国の人民元や豪ドルに対しても10%以上、それぞれ安くなっています。すなわち円は現在、米ドルに対しては高いものの、それ以外の通貨に対しては総じて安いという奇妙な状況に置かれているわけです。

原油価格とドルの逆相関関係

円高・ドル安の実態を象徴するかのような、興味深い事実が2つあります。

ひとつは、これだけ急ピッチで円高・ドル安が進むなかにあっても、日銀が円売り・ドル買いの市場介入に乗り出す気配が見られないことです。日銀は2003年1月~2004年3月の円高・ドル安局面において、1ドル=105円前後を防衛ラインに設定し、合計35兆円の大規模な円売り介入をおこないました。ところがその後、今日にいたるまで丸4年にわたって介入ゼロを続けています。これは日本の通貨当局が、今回の円高・ドル安に対してそれほど大きな懸念を抱いていないことを意味します。

もうひとつは、今年2月の月例経済報告で景気の基調判断が1年3カ月ぶりに下方修正されたこと。月例経済報告は内閣府が輸出や鉱工業生産、雇用などの動向を勘案してまとめるもので、2月の報告では日本の景気の先行きについて「下振れリスクが高まっている」と明記されました。つまり、日本経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)から見ても、円がいま積極的に買われる理由はないわけです。やはり今回の円高・ドル安は、世界的な「ドル売り」による特殊なケースと考えた方がよさそうです。

ここまでドル売りが進んだ背景としては、サブプライムローン問題に端を発した米国の景気後退や金融不安、相次ぐ金利引き下げによる他国との金利差縮小など、さまざまな理由が考えられます。しかし、なかでもとくに注目しておきたいのは原油価格と米ドルの関係です。

原油価格は今年の3月12日に初めて1バレル=110ドルを突破し、連日のように史上最高値を更新しています。実は過去十数年にわたって、原油高が進むとドル安(円高)になる傾向が非常に強いのです。これは、米国経済の石油依存度が相対的に高いことや、米国企業の原油価格上昇に対する抵抗力が相対的に弱いことなどに起因すると思われます。

そもそも原油や金など商品市場の高騰は、金利差縮小によって行き場をなくした投機マネーの影響が少なくないと言われています。ドル安がドル建て取引の原油相場にいっそうの割安感をもたらし、原油高がさらなるドル安を呼ぶという構造を見るかぎり、米ドルの先行きは投機マネーの動向が握っていると言っても過言ではないかもしれません。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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