1. いま聞きたいQ&A

この記事は2020年1月16日に更新されていますので、こちらをご参照ください。

日米欧の金融政策について、最新動向と今後の見通しを教えてください。
(2020年1月16日)
Q

日米の追加金融緩和策について、それぞれの特徴を教えてください。

「質の日銀」に対して「量のFRB」

日銀は今年(2010年)の10月5日に、FRB(米連邦準備理事会)は11月3日に、それぞれ追加の金融緩和政策を打ち出しました。金融緩和の当面の目標について、日銀がデフレ脱却と円高抑制、FRBが日本型デフレの回避と、若干ニュアンスの違いこそありますが、両者ともに量的緩和などのいわゆる非伝統的金融政策を総動員して、なりふり構わず景気回復を目指すという点では一致しています。

あえて両者の政策を差別化するならば、「質の日銀」に対して「量のFRB」といったところでしょうか。日銀は今回、政策金利を0~0.1%に引き下げて4年ぶりにゼロ金利を復活させるとともに、消費者物価上昇率が安定的に1%程度のプラスになるまでゼロ金利を長期継続することも示唆しました(時間軸政策)。また、基金を創設して買い取る5兆円規模の資産に、ETF(上場投資信託)やREIT(不動産投資信託)といったリスク資産が含まれているのも特徴です。

日本では中小企業における借り入れの大半が不動産担保であり、一方でその融資を担う銀行は多額の株式を保有しています。こうした状況のもと、地価や株価の下落が銀行による貸し渋りや信用収縮を起こしやすいという事情を抱えています。今回の購入額はETFとREITを合わせて5,000億円程度と小さいものの、日銀がリスクを積極的に引き受けることで投資家に安心感を与え、低迷市場を刺激して金額以上の緩和効果を引き出す狙いがあるようです。

FRBによる「QE2」と呼ばれる量的緩和の第2弾は、文字どおり資金供給量の大きさが特徴といえます。来年(2011年)6月末までに長期国債を6,000億ドル購入し、同時にFRBが保有する住宅ローン担保証券などの元本償還分も長期国債の購入に充てていく計画です。FRBによる長期国債の購入額は、全体で8,500~9,000億ドル(円換算で70兆円前後)にのぼり、日銀による5兆円規模の資産購入額をはるかに上回ります。

さらにFRBは今回の金融緩和でも不十分な場合に、年2%程度の物価上昇率が望ましいとの考えに基づき、「インフレ目標」や「物価水準目標」の設置を検討するなど、さらなる緩和措置も辞さない構えです。

米ドルの大量流通がバブルを呼ぶ

こうして見るかぎり、デフレ克服にかける本気度は日銀よりもFRBの方が大きいように思われます。もともと日銀は金融政策をアート(芸術)ととらえる傾向が強いうえに、インフレ退治を本業と考えている節があります。一方で、FRBのバーナンキ議長はかつて日本のデフレ研究で名を馳せた人物であり、デフレに対する嫌悪感も恐怖心も人一倍強いのかもしれません。

ただ、本気度の大きさは結果として副作用の大きさにもつながると考えられます。FRBの8,500~9,000億ドルという国債購入額は、米国が2011年度上期に予定している国債の新規最大発行分を丸のみする数字に相当します。こうしたことから、今回のFRBによる量的緩和は事実上のマネタイゼーション(中央銀行による財政赤字の穴埋め)にあたるのではないか、という指摘も出てきています。財政規律の低下が市場で問題視された場合、FRBの思惑とは裏腹に長期金利が上昇してしまったり、米ドルへの信認が大きく揺らぐというリスクもあります。

そもそも日米は、過去2年近くにわたって大規模な金融緩和を継続してきましたが、思うように効果は上がっていません。今回の追加金融緩和についても、その効果を疑問視する声が多いのが実状です。これまで市場に大量供給されてきた資金は、本来のターゲットである企業や個人への貸し出しにはほとんど回らず、高い運用益を求めて新興国の株式や通貨、国際商品などへと流れ込んでいます。

特に世界の基軸通貨である米ドルにおいて、いわゆるカネ余りがすさまじい勢いで拡大しています。米ドルの世界流通量を測るうえで目安となる「ワールドダラー」は、今年10月末の時点でリーマン・ショック前の2倍まで膨らみました。過去の歴史は、米ドルの世界流通量の伸びが高まるとバブルが発生しやすいことを教えてくれます。

デフレの主因は需給ギャップであり、中央銀行の資産規模や通貨供給量をどれだけ増やしても物価上昇には結びつかない――という日銀の基本認識が正しいならば、例え市場や政府からの評判が芳しくないとしても、これ以上の金融緩和は本気度が低い方がむしろ好ましいのかもしれません。もちろん、自国経済の再建にバブルを利用しようと考えている場合は別ですが。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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