1. いま聞きたいQ&A

この記事は2020年1月16日に更新されていますので、こちらをご参照ください。

日米欧の金融政策について、最新動向と今後の見通しを教えてください。
(2020年1月16日)
Q

長期金利が低すぎると、経済や金融市場にどのような影響が及ぶのですか?(前編)

緩和縮小とともに長期金利が低下する不思議

金融市場でこのところ不可解な謎とされているのが、米国の長期金利の動向です。長期金利の指標となる米国10年物国債利回りは、FRB(米連邦準備理事会)による量的緩和の縮小観測が高まるなか、昨年(2013年)5月ごろから上昇基調を強め、年末には3%台まで上昇していました。ところが、実際にFRBが今年1月から国債などの購入額を減らし始めると、利回りは逆に低下基調となり、5月末には一時2.4%台と11カ月ぶりの水準まで低下したのです。

一般に中央銀行が金融政策を引き締める初期段階には、株式が値上がりするとともに債券が値下がり(利回りは上昇)しやすいといわれます。景気の改善が企業業績を押し上げて株価を上昇に向かわせる一方で、市場に資金を供給するための中央銀行による国債購入が減少し、そこに政策金利の上昇観測も加わって債券が売られやすくなるからです。

米国では景気が回復基調にあり、株価もダウ工業株30種平均が連日のように史上最高値を更新するなど、絶好調といえる状態です。本来なら長期金利は相当程度まで上昇してしかるべきところでしょう。それが逆の動きを見せていることについて、市場関係者の間では以下のようにさまざまな推論や憶測が飛び交っています。

  • ●短期的な要因
    →ヘッジファンドの売買、ウクライナ情勢の緊迫化、欧州における国債利回りの急低下による米国国債の相対的な魅力向上など
  • ●構造的な要因
    → 高齢化などの影響で潜在成長率やインフレ率が低下し、先進国の長期金利が構造的に切り下がりつつある

実は長期金利が上昇しないのは米国に限ったことではありません。例えばドイツでは米国と同様に、代表的な株価指数であるDAX指数が史上最高値を更新する一方で、長期金利は1.4%程度にとどまっています。日本でも今年6月に入って日経平均株価が約2カ月ぶりに1万5,000円台を回復しましたが、長期金利は相変わらず0.6%前後という超低水準を推移しています。

過去の歴史が示唆する資産バブルの兆候

いずれの国においても、景気回復の勢いに比べて長期金利が低すぎる状態にあるわけですが、過去の歴史に照らし合わせると、そこに資産バブルの兆候を見て取ることができそうです

OECD(経済協力開発機構)によると、米国とドイツでは2010年から、日本では13年からそれぞれ名目のGDP(国内総生産)成長率が10年物国債利回り(長期金利)を上回っています。これら3国では1980年以降、ほとんどの年で名目GDP成長率が長期金利を下回っており、過去に両者の水準が逆転したのは以下の時期に限られます。

  • ●日本:88年~90年(バブル経済の最盛期)
  • ●米国:98年~2000年(ITバブル)、03年~06年(サブプライムローン・バブル)
  • ●ドイツ:06年~07年(サブプライムローン・バブル)

名目GDP成長率を「資産の値上がり率」に、長期金利を「資金調達コスト」に置き換えて考えると、前者が後者を上回る局面では、ただ単純に資金を借りて資産を買うだけでもうかることになります。値上がり期待の高さから、資産の収益性やリスクの大きさを度外視したような投資も増えるため、資産バブルにつながりやすくなるというわけです。

実際に米国では現在、信用リスクの高い「ハイイールド債」や「ローン担保証券」が投資家の大きな人気を集めています。ハイイールド債とは格付けが「投機的」に相当するダブルB格以下の債券を指し、デフォルト(債務不履行)のリスクが高い半面、利回りも比較的高いのが特徴です。米国におけるダブルB格以下の社債発行額は、13年に4,617億ドルと過去最高を記録しています。

ローン担保証券は銀行の貸出債権を裏付けとした、いわゆる証券化商品のひとつで、リーマン・ショックの元凶になったことでも知られています。発行額は07年の1,047億ドルから09年に2億ドルまで落ち込みましたが、13年には831億ドルまで盛り返してきました。

日本では名目GDP成長率が長期金利を上回って間もないことから、国内市場にバブルの兆候が目立つわけではありません。ただし、今年4月に投資信託の純資産額で米国のハイイールド債に投資する商品がトップに立つなど、個人投資家がリスク志向を高めていることがうかがえます。米国における資産バブルの影響が間接的に日本にも及びつつあるといえるのかもしれません。

長期金利の低下もリスク志向の高まりも、背景に日米欧の強力な金融緩和の弊害があることは否めないでしょう。そこに前述した構造的な要因が相まって、経済・金融市場のさまざまなゆがみや変調をもたらしていると指摘する専門家もいます。そのあたりの話題を中心に、次回も引き続きこの問題について考えたいと思います。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

バックナンバー2014年へ戻る

目次へ戻る