記録的な株高・円安により景況感が大きく改善
さまざまな経済指標は、日本の景気回復やデフレ脱却が順調に進んでいることを物語っています。昨年(2013年)12月末に発表された11月の有効求人倍率(季節調整値)は、1.00倍と6年1カ月ぶりに1倍台を回復しました。同月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除くベース)は前年同月比1.2%の上昇となり、こちらも5年ぶりに1%台へ乗せています。
商店主などに街角の景況感を聞く内閣府の景気ウォッチャー調査では、2~3カ月先の見通しを示す指数が昨年1月から11月までの間、好不況の分かれ目となる「50」を一度も下回っていません。12月に日銀が発表した全国企業短期経済観測調査(日銀短観)では、大企業と中小企業の製造業、非製造業の業況判断指数(DI)が22年ぶりにそろってプラスとなっています。
こうした景況感の改善をもたらしたのは、言うまでもなく、この1年で大きく進んだ株高と円安です。昨年12月30日に、日経平均株価の終値は1万6,291円31銭と約6年2カ月ぶりの高値を付けました。昨年1年間で日経平均株価は5,896円(56.7%)上昇しましたが、これは上げ幅としては24年ぶり、上昇率としては41年ぶりという記録ずくめの大きさです。
外国為替市場では同12月30日に、円・ドル為替レートが一時1ドル=105円台半ばと5年3カ月ぶりの円安水準を付けています。昨年1年間に円はドルに対して、1ドル86円台から105円台まで19円下落。下落率18%は34年ぶりという、こちらも歴史的な値動きです。
「大胆な金融緩和」「機動的な財政出動」という2つのルートで株高と円高是正(円安)を実現し、企業や消費者の景気回復期待を醸成したアベノミクスに対して、主に産業界からは高評価の声が相次いでいます。今年(2014年)は4月に消費増税があるため、4~6月期には一時的な景気の落ち込みが見込まれるものの、その後は政府の経済対策や海外の景気改善に支えられて、日本経済は緩やかに本格再生へ向かうという楽観的な見方が多いようです。
実質金利が下がっても企業の国内投資は低調
一方で、日本の経済再生に懐疑的な意見も少なくありません。アベノミクスが経済再生の「土台」を築いたことは評価しつつも、その波及効果や持続性に限界があるのではないかという指摘です。
例えば前述した日銀短観では、業況判断指数に地域差が見られました。具体的には公共工事の恩恵を受けやすい北海道、東北、沖縄や、自動車産業を多く抱える東海、九州などで指数が伸びる半面、電気機器関連の中小企業が多い近畿などでは伸び悩みが目立ちます。これはすなわち、現時点で経済の明るさが鮮明なのは、日銀の大胆な金融緩和による円安や政府の財政出動が一時的な効果をもたらした、一部の地域や産業に限られることを意味します。
同じく日銀短観では、大企業製造業の2013年度の設備投資計画が下振れるなど、企業経営者がいまだ景気の先行きに自信を持ちきれていない様子もうかがえます。エコノミストの間からは、公共投資の効果が今年の後半から息切れするとの観測も出てきています。さらなる景気拡大を実現するためには、政策頼みから民需主導の経済成長へ転換を図る必要があるわけですが、企業の国内投資意欲がいささか盛り上がりに欠けるのは何とも気がかりです。
企業の投資行動を左右する指標のひとつに、名目金利から物価の影響を除いた「実質金利」があります。一般に実質金利が下がると、お金を借りる実質的なコストが安くなるため、企業の設備投資を促す効果が期待できるといわれています。日本では昨年8月から物価上昇率が長期金利を上回り、実質金利がマイナスの状態が続いています。それでも企業の国内投資が増えないのは、どうしてでしょうか。
過去に欧米で実質金利がマイナスだった期間を検証すると、必ずしも設備投資が大きく伸びるとは限らないことが分かりました。企業が積極的な設備投資に動くためには、実質金利の低下という資金調達環境の好転に加えて、その国が持続的に高い経済成長率を維持し、需要拡大が続くとの見通しを企業自身が持てることも重要になるようです。
ここで注目すべきは、実質金利が低下した国では例外なく、株高や通貨安がもたらされているという事実でしょう。うがった見方をするならば、日本経済はアベノミクスが実現した景況感の改善からその先のステップへ、まだほとんど踏み出せていないといえるのかもしれません。
実は日本経済が次なるステップへ進むにあたって、大きなカギを握ることになりそうなのが米国の動向です。次回はその辺りの話も踏まえながら、日本経済再生の道のりについて、さらに大きな視点から考えてみたいと思います。