前回はQ&A「景気とは何か?」を見てゆきました。経済の根本に関わる問題ですのでなかなかうまく答えられませんでしたが、英語で景気のことは「ビジネス」と呼ばれていて、「景気がよい」という状態は「ビジネスがうまくいっている」状態を指し、反対に「不景気だ(景気が悪い)」ということは「ビジネスがうまくいっていない」状態のことだと述べました。
今回は「景気の動きは何を見ればいいか?」という質問です。つまり「景気指標(business indicator)」に関する問いです。毎月さまざまな景気指標、経済統計が官公庁や業界団体から発表されていますが、果たしてその中のどれを見てゆけば景気(=ビジネス)の動きがつかめるのでしょうか。ここでは数ある経済統計をおおまかに区分けしてみましょう。
経済学の教科書には、「景気は国家全体の人(労働)、物(商品)、金(資本)の3つの要素によって構成されている」と書いてあります。いわゆる「経済の3要素」です。少しくだけた言い方に直せば、ビジネスを行っていくには「ヒト、モノ、カネ」の3つの要素が必ず必要である、ということになります。
会社を経営するには社長がいて社員がいます。その会社の製品を使ってくれる消費者も要ります。これらは「ヒト」に分類されます。売上をあげるには、何よりもその会社の製品がなければなりません。製品を作る工場、販売するための営業所も不可欠です。これらは「モノ」に分類されます。最近は人材派遣業や介護サービスなどのサービス産業が増えていますが、サービス産業の場合は「モノ」が「サービス」に置き換えられたと考えればいいでしょう。そして従業員に支払う給料、原材料を仕入れる支払い代金など「おカネ」が必要になってきます。
経済統計は毎月たくさんのものが発表されているので、それが何を示していて、どのような意味を持っているのか、わからなくなってしまいがちです。そこで「ヒト、モノ、カネ」という経済の3要素に分けて見てゆくようにすれば、むずかしい経済統計も少しは整理しやすくなってきます。この区分に従って代表的な経済指標を次に挙げておきます。
「ヒト」に関する経済統計
企業に勤める人がもらう賃金や残業代、あるいは就職のしやすさを測る失業率などを指します。
■失業率
総務省が毎月末にその前月分を発表しています。景気が悪い時はリストラが増えて失業者が増加し、失業率は上昇します。反対に、景気がよい時は失業者の数が減少するので失業率も低下します。
■有効求人倍率
厚生労働省が毎月末にその前月分を発表しています。職を求める人1人当たりの求人数の割合を示しています。この倍率が高いと職を求める人が職が見つけやすく、低いと見つけにくいので景気の状況を示しています。
■毎月勤労統計調査
厚生労働省が毎月末にその前月分を発表しています。会社から支払われる1人当たりの現金給与総額(給与やボーナス)が示されます。賃金とともに「所定外労働時間」、いわゆる「残業時間」も発表され、これは景気がよくなるとまず残業時間が長くなるため、景気の動きに最も敏感な指標と言われています。
「モノ」に関する経済統計
企業の生産活動に関するものです。景気に関する経済統計の中で最もポピュラーなものです。
■国内総生産(GDP)
内閣府が四半期(3カ月)に一度発表します。四半期が終わってから1カ月半後に明らかにされます。たとえば今年1~3月期のGDPは5月中旬に発表されました。日本国内での生産活動(厳密には付加価値)を消費、投資、輸出の側面から測って、それを合計して伸び率を出します。
■鉱工業生産
経済産業省が毎月末にその前月分を発表しています。鉱業と工業という代表的・伝統的な製造業の生産量を指数化して発表しています。1カ月間で「どれくらい作ったか」という生産量だけでなく、「どれくらい売ったか」という出荷量、「どれくらい売れ残ったか」という在庫量もいっしょに発表されます。
■第3次産業活動指数
経済産業省が翌々月の中旬に発表しています(5月分なら7月中旬)。鉱工業生産が製造業の活動を示しているのに対して、こちらは第3次産業、つまりサービス業や小売業などの生産活動を表しています。日本をはじめ先進国ではサービス産業のウェートがますます高まっているため、製造業を把握する統計数字とあわせて見ることがたいせつです。
「カネ」に関する経済統計
世の中に流通しているおカネの絶対的な量、おカネの持っている今現在の価値などを示しています。
■金利
マーケットで日々形成される長期金利や、日銀が決定する短期金利、銀行が提示する定期預金の金利、住宅ローンの金利などのことです。これは経済統計とは言えませんが、マネーの動きを知る意味では最も重要な指標です。なぜならば、金利とは「おカネの価値」を示しているものだからです。
■通貨供給量(マネーサプライ)
日銀が翌月の上旬に発表しています(5月分なら6月上旬)。代表的指標は「M2+CD」と言われるもので、これは現金、普通預金、当座預金、定期預金、譲渡性預金の合計で、前の年に比べてどれくらい伸びたか(減ったか)を表します。景気がよければおカネの需要が増えるので、マネーサプライも増えます。
■物価統計
消費者物価指数は総務省から、企業物価指数は日銀から発表されています。発表時期は、企業物価は翌月の中旬、消費者物価は翌月の下旬(東京都区部だけはその月の下旬)です。物価は直接的におカネの動きを示すものではありませんが、インフレやデフレの状況をを把握することに使われるため、金利やマネーサプライの動きに影響を与えます。
このほかにも「日銀短観」や「景気動向指数」、「法人企業統計」など、まだまだたくさんあります。が、代表的なものは以上です。これらをすべて発表されるたびにチェックしてゆくのは専門家でもたいへんな作業です。それでも経済指標が表している意味をつかんでおけば、これから耳にするたび、目に触れるたびにきっと役に立つでしょう。