2025も賢く、楽しい投資を--値動きある1年に
第371回2025年(令和7年)が始まった。2001年に始まった21世紀も四半世紀目。かなり今100年も進んだ印象だが、今年は大きな切り替わりの年になるかもしれない。なによりも米国でドナルド・トランプ氏が政権に復帰する。世界にトランプ氏嫌いは多い。しかし彼の登場は世界に激震を走らせながら、株式相場を既に大きく引き上げている。今年も賢く楽しい投資が可能な、値動きのある1年になりそうだ。
前回指摘したように彼が本当に「平和好き」だったら、世界は常に戦争や紛争がつきまとったバイデン氏の4年間とは違った展開も考えられる。パナマ運河やグリーンランドを欲しいと言い出すトランプ氏は、「理念」や「良識」「べき論」からほど遠い。しかしそれは米国国民の選択の結果であって、マーケットも発想を多極化・多面化するだろう。
このコラムで早くから指摘した「世界のマネーの米国集中」は、今や広くマスコミのキーワードになりつつある。しかし世の中はとかくそうだが、人々の口に登り、それが“当然”と認識され始めると、「それとは逆の事」「ひっくり返すような事態」がしばしば起きる。今回はまず「世界のマネーの米国集中の現状と理由」「持続性」を検証する。
次に「その後に世界で起きること」を展望できたらと思う。可能性として一つあるのは「集中」がバストするケースで、米国の株が自らの重みに耐え切れずに下方に大きく修正(20%以上)するシナリオだ。しかし2025年の、少なくとも前半に関しては可能性として少ないと思う。むろん、数%の短期間調整はあるだろう。その理由は後述する。前半にもっとあり得るのは、「さすがに集中は過ぎているので、セカンドベストの投資場所探し」の開始だ。日本か、欧州か。それともインドか。
米国への「集中」
米国への世界のマネーの集中度を見る。“時価”とはその瞬時瞬時に変わる株や為替の値動きのトータルだから常に変化していて、読者がこの文章を読む頃にはまた少し変わっているだろう。しかしこのコラム執筆時点(2024年12月)で把握できる世界の株式時価総額をグーグルの生成AI(人工知能)Gemini(ジェミニ)などに聞くと125.7兆ドルと出てくる。これは前年末比14.3兆ドル、12.8%の増加らしい。
問題は中身だ。そのうちなんと半分強の63.6兆ドルは米国株。全体の50.6%を占める。世界のGDPに占める米国の割合(2023年10月末)はどのような資料でもほぼほぼ25%となっているから、GDP比では米国株の評価が「非常に高い」ことが分かる。ちなみに日本の株式時価総額は同時点で6.3兆ドルと全体の5.1%。対して日本の世界GDPに占める割合は4.2%だから、「やや高い」程度だ。
その他を見ると、中国の株価時価総額は10.2兆ドルで世界第2位。世界におけるシェアは8.1%だが、これは世界のGDPに占める中国のシェア17.7%よりかなり低い。やはりここ数年の中国株不振(中国経済不振や中国政府の企業に対する冷たい態度を背景とする)が響いているようだ。
昨年10月の日経の米利下げ1カ月、リスク選好鮮明 世界株の時価総額最大という記事の二番目のチャートは、過去数年の世界の株式時価総額の動きを示していて興味深い。問題はその中身。2021年、22年にかけては米国株の時価総額が世界の半分以上を占める図式にはなっていないことが分かる。それよりかなり下回るケースも多い。しかしその後の2年は米国株への資金集中が進んで「世界の株式時価総額の半分以上は米国」という現状となっている。
問題は「集中」の先
このコラムは、「なぜ米国に世界のマネーが集中するのか」に関して長く書いてきた。一番大きいのは「世界から資金を集める新しい企業が米国で生まれる」「安全第一のマネーにとって、今の不安な世界情勢の中では米国が一番信頼出来る」ということだろう。この2点は要因として大きいのでしばしば触れてきた。もう少し具体的なポイントに関して言えば、
- 上場に際しての企業のディスクロージャー制度と会計基準が厳格
- 投資家保護のインフラの整備
- BRICsの大手企業もニューヨークに上場
- ADR(米国預託証券)という形で世界の主要銘柄が容易に取引可能
などか。また「金融商品の充実」も指摘できる。筆者は最近日本のマーケットに米国でいうところの短期のドル建てMMF商品を探したがなかった。通貨が違うので当然だが、米国の市場にあって日本にない金融商品がいくつかある。「世界にとってのマネーの首都」はロンドンのシティだったが、今や完全にニューヨークだ。
その現実から言えば、米国の株式時価総額のシェアが世界経済における米国GDPの割合を上回っても当然だろう。株や債券など「高い投資利回り」と「常なる流動性」、それに「安全」があるのだから、マネーは集まる。昨年末の世界の主要金融機関の見通しも、「2025年も米国市場が中心」となっている。減税や規制緩和を柱とするトランプ政権の二期目は2025年の年初がスタートで、それへの期待も大きい。ウォール街もそれを支援するだろう。それらが2025の米国に対する楽観論の根拠だ。
— — — — — — — — — — — — — — —
しかしマネー集中のモメンタムが少し高すぎる気もする。米国の個々の企業を見ても、株価がPER的にかなり割高になっている。これに関しては既に多くの記事が存在するので改めては書かない。一番の問題は2025年が進み株価が強気に上値を追う中で、「米国株はやはり買われ過ぎではないか」という印象がマーケットで静かに強まることだ。ウォーレン・バフェット氏はもうそう考えているし、「強気相場は陶酔の中で終わる..」というウォール街の格言もある。
買われすぎたものはいつか調整される。それが長いマーケットの経験で、皆知っている。問題はそれ(調整)がいつ来るか分からない点だ。強気マーケットは外部環境の変化を借りながらも、しばしばその相場水準の重みそのもので調整局面に入る。割高の度合いが過ぎているほど調整は深い。「山高ければ、谷深し」の諺通りだ。それはマーケットの値動きを観察しながら大枠でメドを付けるしかない。ささいな所にも兆しはある。
一つ言えるのは、2025年には改めて「他に投資出来るマーケットはないか」を探る動きが出るだろうということ。その場合、日本のマーケットは有力候補の一つだ。候補という点では欧州やインドもそうだが、日本の場合は「割安株が多い」「ニューヨークに次ぐディープで安全なマーケットがある」という点が魅力的。必要なのは日本企業が行動で投資家にどの程度寄り添えるか、それに国としての規制緩和を進めて既存企業がどの程度活力を高め、さらに新しい企業が生まれてくるかどうかだ。
トランプ制約環境も
マーケットで期待の強いトランプ第2期政権。しかし既に今後マーケットに影響を与えそうな気になる兆候も出てきている。それは以下の点だ。
- トランプ氏が目指している政策の実現可能性がやや低下する事態。発足する前から、議会共和党の一部にトランプ氏の政策・人事に対する嫌悪感がやはりあって、「all redだからトランプ氏の思い通り」とはならない可能性がある。下院の議席数は共和と民主でかなり接近している
- トランプ氏の関税政策がもたらすインフレ促進的意味合い故に、既に今年の利下げの回数を2回と従来見通しの半分に減らしたFRB(米連邦準備理事会)が、更に慎重になって政策金利の据え置き状態をキープし、場合によっては引き上げる事態も
- その過程で世界的なドル高の進行が予想されるが、このドル高に対してトランプ大統領がどう対処するのか。「製造業に不利」と言ってドル高是正の為の「プラザ合意」的シナリオを提示した場合、世界の金融市場には相当な激震が走る。それに彼の仮想通貨に対する姿勢(基軸通貨ドルを持つ国としての仮想通貨の位置づけ)も定まらないところがある
- 就任初日からウクライナの戦争を止めてみせるといった「トランプ氏の約束」がうまく実現せずに同政権に対する期待感が低下するケース。それと急速な老い(可能性は少ないが)と二期目で次がない大統領としてレームダック現象の早期発症
など。数多い。「1」のトランプ氏の思い通りに行かないケースは、マーケットに良い場合も悪い場合もある。業界によっても差がある。就任は1月20日なので、特にその後数日の動き(大統領令を多数出し、国際機関からの脱退も表明する見込み)は注視したい。
— — — — — — — — — — — — — — —
多分2025年も、多くの人が予測したのとはかなり違った展開になるだろう。私もそれを覚悟している。多くの年には全くの予想外が起きる。恐らく今年も多くの「想定外」が生じ、それをマーケットは瞬時瞬時に咀嚼(そしゃく)して新しい方向を探すだろう。
一つ言えるのは、今年もかなり値動きのある一年になるということだ。恐らく上げ下げもかなりの幅で生じ、それを先導するのは米国のマーケットだろう。それを賢く予想し、早め早めに適切な投資・リスク回避行動を取れれば、投資が楽しい1年になりそうだ。新型NISA(少額投資非課税制度)も2年目を迎える。
いつも思うが、投資は世界や経済・マーケットに対する自分の見方の妥当性を計る一つのバロメーターだ。「常なる変化」を楽しみながら今年もマーケットと付き合っていきたいし、皆さんと情報を共有できたらうれしい。