金融そもそも講座

可能性と脆弱性=日本株本格回復の条件

第331回 メインビジュアル

前回の(「バフェット式投資術とは」)では、文中の副見出しとして以下の3つを使った。

日本への強い関心
アメリカへのイライラ?
バフェットの後悔

その後の世界のマーケットの動きが「33年ぶりの高値に達した日本の株価」「対するニューヨークを含めた世界の株価の相対的伸び悩み」であったことを考えると、バフェット氏の慧眼(けいがん)に驚かざるを得ない。さすがの「目利き」という感じだ。

様々な要因が重なっての日本株の高値チャレンジだったが、今回はそれが「持続的になるためには」という観点から書いてみたい。筆者は日本株の高値追い、ひいては1989年末に到達した39000円近くの旧来高値を更新するには、日本にはどうしても乗り越えねばならない壁があると思うからだ。

持続の3条件

端的に言うと、筆者は以下の条件が日本株の持続的上昇、最終的な高値更新、さらにはその後の上値追いに必要と思っている。

  • 1.“新しい”日本企業の登場と、その世界シーンにおける活躍
  • 2.人材を集められる賃金構造の構築
  • 3.AI、製薬などで世界の先頭技術集団を走り続けること

「新しい」に“”マークを付けたのは、日本では経済の大企業支配の構図が明らかで、勢いよく伸びる新興企業というのはなかなか生まれない(過去の経験から)ので、「古い名前で出ているが、新しいことをやる体質転換が自ら出来る企業」を含めたかったからだ。

米国でなぜ新しい企業が次々に生まれ、市場の時価総額ランキングが入れ替わるかと言えば、それは社会全体が流動的だからだ。まだ建国300年を迎えていない新しい移民の国。大統領やその候補を見ると「年老いた国」に見えるが、そうではない。

雇用も日本とはイメージが大きく違う。米国の企業では大体4〜5年に従業員のかなりが入れ替わる。技術革新が激しい時代にはとっても有利な企業文化だ。常に新しい人を入れてこられる。社会的抵抗なしに。対する日本は大分変わったとは言え、依然として「長く一つの企業に勤める」ことの社会的受容性が高い。

そこで「昔の名前」でも企業活動の中心が名前にそぐわない新しい事をメインとしている企業も「新しい」に含めることにした。そうすれば、日本でも「新しい企業」が増える。この手の日本企業は増えてきたし、今後も増えるだろう。

それが望ましいし、重要なのはそうした“新しい”日本企業が、世界のマーケットで伸びることだ。既にマーケットとしての主戦場は日本(人口1億2000万強)ではなく世界(80億人)だ。

人材を集められる賃金構造

「人材を集められる賃金構造」とは、「入社年次同一賃金」の桎梏(しっこく)から企業・組織を飛躍させることを意味する。「もうかる企業体質」を作り上げて全体的な環境を改善した上で、今後の企業の成長に役立つことが明らかな最新テクノロジーに関わる知識・技術、それに経営、統治、管理などの能力を持つ人を厚遇するシステムだ。

「入社年次同一賃金」は既にかなりなくなってはいるが、望ましい賃金体系としての名残が官庁を含めて日本の組織に根強く残っている。それを変える必要があり、それによって初めて面白い、とがった組織が稼働し始めると考える。

今の日本では「中小を含めて日本企業の賃金を上げる」に政治やメディアの関心が向かっている。確かに賃金が上がれば消費が活発になり、それが日本の経済活動全体を底上げする。しかし人々の「消費への動機付け」は、現在の賃金レベルよりもむしろ「将来の自分の所得に対する確信」だと考えられる。自分が勤める企業と、そこにおける自分の立ち位置に対する自信がなければ、消費は確信に満ちて増えはしない。

だから無理して各レベルの賃金を上げても、中で働いている人々が「無理しているよな、この会社」と思うようでは、消費は長続きしない。そういう意味では今政府が中心となって進めている「賃上げキャンペーン」は核心に触れずに無理やり推し進めている印象がする。無理やりでは駄目だ。いつかほころびが出る。企業自体の強靱(きょうじん)化が必要だ。

残る脆弱性

「人工知能(AI)、製薬などで先頭技術集団を走り続けること」は非常に重要だ。世界の主要な経済国は、軒並みなんらかの分野で世界の最先端を行っている。北欧の国々は人口的に見ると小さい。しかし世界で存在感があるのは、その斬新的な社会システムもあるが、ITなどの分野で強い企業を抱えているからだ。

どこかで芯(となる技術、企業活動)がないと、ちょっとした環境の変化で社会全体が貧しくなりかねない。発展途上国やグローバル・サウスの国々が抱える問題は、「芯となる産業がない」という面が強い。援助だけで生き残ることは不可能だ。

日本には芯がいくつもあった。しかしそれが減少しているのが気がかりだ。目立つ輸出商品の数は減り続けている。むしろ今は増やさないといけない。恐らく観光は今後かなりの期間、日本はずっと強くいられる。だから多少の貿易収支の赤字は許容できる。しかし大幅な赤字継続は好ましくない。

やはり輸出できるソフト、ハードを増やす必要がある。世の中を変えるのはテクノロジーであり、よって基幹技術での秀逸性維持は、今後の日本経済にとって大きな課題だ。

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そう考えてくると、今の日本市場の全体的な「日本株再評価」の動きは好ましいことではあるが、かなり脆弱性を抱えていることが分かる。“新しい”企業の数はまだ足りない。企業や官庁は必要な、新しい人材を集められる風土・システムにはまだなりきれていない。航空・宇宙、ワクチン製造などで手痛い後退も続いている。だから消去法的に日本にお金が集まっていて、日本株が高くなっていると言われてしまう。

むろん、そもそも的観点からして、株価の上昇は国民経済の点から歓迎すべきことだ。今でも日本のマスコミの一部にある「株高は国民経済にとって弊害」という見方は間違っている。株価の上値追いは国民経済を活性化し、企業活動を後押しし、雇用と所得を増やし、国民経済や企業活動の低迷を遠ざける。

だから「消去法で上がっている」と言われても問題なしだ。「今現在は投資最適市場」であることは間違いない。今の日本の株価の上げ基調を歓迎しつつ、しかし課題は多いことを指摘しておきたい。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。