金融そもそも講座

バフェット式投資術とは

第330回 メインビジュアル

毎年話題となる米投資会社バークシャー・ハサウェイの株主総会。率いるウォーレン・バフェット会長が92歳と高齢になる中での開催だったが、今年も大きく報道された。とにかく日米をはじめとして経済関連を得意とする世界の放送局が「ライブ特番」を組んだほどだった。

筆者も大注目。そこで今回は同社総会や、そこでの各氏発言から「そもそも」的に「投資家として何を学ぶべきか(man@bow)」を取り上げてみたいと思う。総会で演台に上がって株主からの質問に長時間答えたバフェット氏と盟友のチャーリー・マンガー副会長(99歳)が極めて優れた人である事は明らか。そこから学べる。また彼ら自身が「後悔している」と語っていることもある。そこからも学べる。

何よりも驚くことは、お二人と会社としてのバークシャーがとても「目利き」なことだ。5月10日の日経新聞には「商社4社、資源高で最高益」という3面の記事がある。中見出しは「5社の利益 バフェット氏投資後4倍」だ。そしてその間に日本商社各社の株価は8割高から3.3倍になったとある。意外感もあったバークシャーによる日本の商社投資。結果が素晴らしい。

同社の投資方針は「長く競争優位を持つ企業を発掘」「割安で株を取得・長期保有」というもの。今はテクノロジーの進展で可能になった高速取引が大きな取引(投資)パターンとなる中で、伝統的投資手法を守る。日々職業として投資をしているわけではない我々にも参考になる。

日本への強い関心

まず筆者が強く印象として持ったのは、バークシャー全体としての日本への関心の高さだ。同社は日本の商社への投資を2020年に開始した。三菱、三井、住友、伊藤忠、丸紅の5社を対象に、各社の株を一律に7.4%保有している。重要なのはバフェット氏が「買い増しの余地あり」と述べたことだ。

現在、バークシャーのポートフォリオに占める割合は、アップル45%、バンク・オブ・アメリカ9%、シェブロン8%、コカ・コーラ、アメリカン・エキスプレス(ともに7%)と来て、日本の5大商社に対する投資が4%となっている。同社の上場株全体の保有は3440億ドル(46兆円)で、日本の商社への投資割合が高いわけではない。

しかし同社は2022年秋に買った41億ドル超相当の台湾TSMC株を、同年末には大部分売却した。それに比べると腰が据わっている。バフェットとバークシャーの関心はほぼずっと「米国株」だったが、そこに商社株が割り込んでいる形。なぜTSMCを売却し日本の商社株を残しているのか。「10年からその先の地政学的な緊張を考慮」と明らかにした。日本の政治的・地政学的安定性にお墨付きを与えたとも言える。

バフェット氏が「私に何かあったら、この人が会社の指揮を執る」と公言し、今回総会でもその意向を再確認したグレッグ・アベル副会長(60)も今年の来日時に「日本の文化に感銘した」と述べており、会社として日本への関心が高い。

一つ指摘しておきたいことがある。それはバークシャーと日本の商社(英語ではtrading companyと表記)は今では事業形態が似ているということだ。バークシャーは投資会社(investment company)と表現されるが、実はシーズ・キャンディーズ(食品)、ガイコ(保険)などの株式100%を持って傘下企業としている。つまり「実業の会社」の側面も持つ。

逆に日本の商社は貿易・流通に関連する事業に加えて、様々な国内・国外の企業を傘下に置く「投資会社」としても機能している。アベル副会長は今回の訪日では日本の保険会社のトップとも会っている。バークシャーは日本の商社に対する持ち株比率(7.4%)を今後引き上げる可能性もあると指摘。さらに「日本の商社とは一緒に事業もしたい」とも述べている。似たもの同士で、その可能性はある。

米国へのイライラ?

対して、自社が拠点を置く米国に対してはややイライラを募らせているように思えた。一つは米国の中小金融機関で広がる危機に関して。今回の危機は「デジタル・バンク・ラン」(デジタル時代の銀行取り付け)と呼ばれるが、特徴は「SNSである銀行に対する負の情報が広がる→一斉にその銀行からネット操作で巨額の資金が流出→当該銀行が経営危機に」という流れ。

今の米国ではそれがいくつか連続していて、当局が預金の全額保護、危機に直面した銀行の大手との合併・買収勧奨などの措置を取ってなんとか抑え込みを図っている。バフェット氏は「地銀の危機は経営者の責任」としながらも、「預金保護がなかったら米国の銀行システムは壊滅的なことになっていた」と警告し、さらに「今後預金保護の上限金額の引き上げも必要になるだろう」と語った。その言葉には、「当局の危機対応の動きが遅い」というニュアンスも読み取れた。

今の米国の預金保護の上限は25万ドル、日本円で約3400万円くらいだが、シリコンバレー・バンク(SVB)破綻の引き金が企業預金の大量引き揚げであったことはよく知られている。これらの預金の動きは高速で、規制当局が想定していたような悠長なものではない。対処を素早くするか、保護の金額を上げて銀行に資金を預けている投資家の安心感を高める必要がある。当局はネットで夜間でも大規模な資金移動が起きる事態に備えていなかったとも思える。

バークシャーはずっと米国の企業を投資対象にし、TSMCや日本の商社株をポートフォリオに入れたのは例外中の例外。これは筆者の印象だが、今後同社は日本の商社に続いて非米国企業への投資を増やすのではないか。多分「世界で一番強く成長余力のある経済」としての米国への信頼は揺るがない。しかしこれまで程に確認に満ちているわけではないような気がする。

今の世界は変化が激しい。米国が今までのように軍事・外交、そして経済の世界で揺るぎなき地位を保てるのかについて、やや不安感もある。それはバークシャーも同じだろう。バークシャーは中国にも関心があるようだし、演台の二人にはやや米国の今後に関する一抹の不安ものぞけた。

バークシャーとしては繰り返される米政府債務上限の引き上げ問題に関して、米国の政治に不満も強いだろう。

バフェットの後悔

投資の世界で「無敵」に見えるバークシャーだが、実はバフェット氏など経営陣が「ああしておけば良かった」と後悔していることは結構ある。同社の投資哲学は「他と差異化できるサービスを持つ」「消費者から安定した需要を見込める」だ。

バークシャーが古くから買って今でも保有している株にはアメリカン・エキスプレス(1964年投資)、シーズ・キャンディーズ(1972)、ガイコ(1976)などがあるが、今最も多くを保有しているアップル株を買ったのは2016年になってからだ。今回の総会にはアップルのトップであるティム・クック氏も顔を出していた。

しかし筆者の印象を言えば、バークシャーがアップルに投資したのはやや遅かった。iPhoneが世に出たのは2007年の6月。それから約10年たってアップルをポートフォリオに入れたことになる。実はバフェット氏も「もっと早く買っておけば良かった」と言っている。バークシャーのテクノロジー株全体に対する動きの遅さは顕著だ。バフェット氏はアマゾンやマイクロソフトに関しても、「買っておけば良かった」ということを時々口にする。

間違いなく言えることがある。それは92歳のバフェット氏と99歳のチャーリー・マンガー氏がバークシャーを率いる時代は、まもなく終わる。バークシャーの投資哲学の素晴らしさは言うまでもないし、我々にとって参考になる。しかし過去10年について言うと、バークシャーがもっと米国のIT関連会社に投資していたら運用成績はもっと高かっただろう。

バフェット氏は「iPhoneのテクノロジーは良く分からないが、アップルに投資しているのは同社製品に対する人々の消費行動は分かるからだ」と述べている。筆者はそれがバークシャーの限界だとは思わない。しかし投資家としては「テクノロジーを分かった上での製品評価、そしてそれに関する人々の消費行動観察」がベターだと思う。

多分我々は、バークシャーより今の急速な技術進展の先行きを素早く展望できると思っている。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。