1. 金融そもそも講座

第263回 鋭い対立の米中。ともに株価が上値追い

スマホやPCで、世界の主要な株式市場の動向を一覧してほしい。あまり長いタームでなく、せいぜい1年。最近の動きが鮮明に分かる範囲で。日本や欧州市場の株価が底堅くはあるものの、どちらかと言えば上抜けできないでいるのに対して、「鋭い対立」の当事国である中国と米国の株価が7月初旬の段階で上抜けの兆しを示している。

まるで両国の株式市場が鋭い対立を嫌気するどころか、囃(はや)しているように見える。上海市場の総合指数は2年5カ月ぶりの高値を更新しつつあり、7月に入って上げの勢いには拍車がかかっている。一方の米国市場はNasdaq(ナスダック)中心の上げ相場の最中で、同指数は史上最高値を更新中。つられてダウ工業株30種やS&P500も上に引っ張られている。

両国とも抱える問題は大きい。中国は米国を中心とするアングロ・サクソン諸国から「新たな包囲網」を形成されつつあるように見えるし、インドなどとの確執も大きい。経済も期待したほどには上向いておらず、失業者も増えている。一方の米国は新型コロナウイルスの感染者爆発(サンベルト中心:米国南西部)の最中にあり、大統領選挙を控えて政治の行方も混沌だ。ではなぜ、両国での株高なのだろうか。

中国:“官製”の上げ相場?

まず中国に触れる。“官製”の臭いがある。米CNBCは、中国証券報(China Securities Journal)が、

  • 「投資家は資本市場の資産効果(wealth effect of capital markets)と、健全な強気市場(healthy bull market)を心待ちにすべきだ(should look forward to)」

と伝えた後に中国の株価は大幅に上昇したと指摘。同報は新華社がスポンサーなので、「中国当局が株高を歓迎している」と読める。その点をはっきり指摘しているのは7月7日付けの日本経済新聞だ。6日の中国国営中央テレビ(CCTV)が午後7時のメインニュース番組で

  • 「6日の上海総合指数は6%近く上昇しました」
  • 「優れた新型コロナウイルス対策が景気底入れと株価上昇の原動力だと専門家は指摘しています」

という内容で株高に関して1分以上報じたと伝えた。午後7時のニュースと言えば、国民が一番目にする時間帯のニュースで、中国当局が国民に「中国の株高」とその「メリット」を知らせたがっていることが分かる。国が音頭をとっているのだ。銀行間金利を低めに誘導し、財政も動かし、そして市場に新規上場の動きを誘発して投資家の歓心を買う。よくできた戦略だ。社会主義の国・中国が「株高の資産効果」を喧伝(けんでん)するのが興味深い。日本なら「このコロナ禍で」と発言自粛ムードなのに。

その背景に関して日経新聞は、「6月30日に施行された香港国家安全維持法が資本流出につながらないと強調するため」と分析している。重要なポイントだ。米国を中心とする新包囲網にくじけるように中国の株価が落ち、人民元が下げたのでは中国のメンツは丸つぶれ。人民元も値を戻しつつある。それが“官製”であったとしても、中国の株高の世界の市場への波及効果は大きい。

米国:感染増の中でも

一方の米国。接触型の従来産業(航空、小売など)にとっての最大の懸念材料は、日々6万人、累計300万人に達した新型コロナウイルス感染者だ。米国の株価指標のダウやS&Pなどを見ると、「上がることへの逡巡」が見られる。これら指標の「rolling Ws」(相場の上げ下げをWとして、その繰り返し)が顕著だ。

感染者増加の数はすさまじいが、中身は見ておく必要がある。日本と同じように米国でも最近は若者が中心ということだ。患者数増加の割には、初期のニューヨーク州ほどの死者増加に直結していない。筆者は以下の可能性を考えている。

  • 1.新型コロナウイルス感染拡大の初期において顕著に症状悪化に見舞われたのは当然ながら高齢者であって、こうした人たちの症状悪化が結果的に死に至ったケースが多かった。なので、感染者の増加と死に至った人の数はともに増加した
  • 2.その間若者も感染していたと思われるが、軽症か無症状の人が多く入院に至るケースは少なかったし、検査能力が世界的に限られていた初期段階ではそもそも若者への検査は少なかった
  • 3.感染拡大からしばらくすると「高齢者は重症化のリスクが高い」というのが世界的常識になって、高齢者は自ら感染リスクを制御する行動を取ったし、世界的に老人ホームなどでの対策が進み、「感染→入院→重症化→死」に至る高齢者が減った
  • 4.この間に各国で検査態勢が充実して、無症状の若者にまで検査が行きわたるようになって初めて「若者にも感染が広がっている」という隠された実体が見えてきた。しかし彼らが死に至るケースは稀(まれ)である

だからといって、今の米国での感染者増加が懸念に値しないと言っているわけではない。若者でも一定数は重症化するし、患者の増加は医療崩壊を引き起こす。米国の南西部州ではその兆候が見られる。しかし感染者の数だけを見るのではなく、その中身に注意を配る必要がある。マーケットはそれを咀嚼(そしゃく)していると思う。

むろん患者数は少ない方がよい。誰もが安心してリベンジ消費、リベンジ旅行に出掛けられる。経済が本当の意味で回復期を迎えるからだ。だから感染者増の米国は要注意だ。

しかし繰り返しになるから多くは書かないが、今の米国のマーケット全体を支えているのは、アップルやグーグル、ネットフリックス、アマゾンなどのハイテク企業で、これら非接触型企業の、ある意味「コロナ禍故の」事業成長が米国のマーケットを支えている。

ポイント:共にハイテク国家

違いは大きいが、米国と中国には一つの共通点がある。それはともに「ハイテク国家」だということだ。中国に関して「ハイテク国家」という言葉を使うことに違和感を持つ読者も多いかもしれない。ハイテク国家とは自由を保障された上での常時創造的な技術優位の国というイメージだ。しかし中国には国民の多くに自由(言論、集会、デモなど)がなく、ハイテクはむしろ統制に使われている印象がする。

しかし中国は5Gのような新しい分野でファーウェイ(華為技術)を中心に世界の最先端を走り、国民の決済手段が世界でも最もリアル貨幣離れ、つまりハイテク化している。米国的なIT国家ではないが、人々の日常生活の現状からして中国は別の意味の「ハイテク国家」だと言える。むしろ、我々投資家が中国に関する認識を改める時期だと思う。昔ながらの貧困など古き中国を残しながらも、中国は世界でも冠たるハイテク国家になった。故に米国と対峙している。

「統制・規制」が強く企業が伸びそうもない中国で、なぜハイテク企業が伸びてきているかに関しては第245回 中国企業、なぜ成長?で取り上げた。現実に米国が妬み、弱体化を狙うほどのハイテク企業が育ってしまった。米国が懸念しているのは、そのハイテク力と中国共産党の統制力が合体し、世界の覇権を狙うことだ。中国が現実にハイテク国家でなければ、米国は警戒しない。

依然として政治的な抑圧国家でも、恐らく中国のハイテクパワー・産業は伸びる。中国科学技術部の王志剛部長は昨年初めに開かれた全国科学技術工作会議において、「(中国は)重要中核技術の難関突破を強化し、革新力の建設を強化した。政策の実行を拡大し、革新・開放協力を掘り下げた。機構改革を徐々に推進し、気風・学風を変えた。基礎先端・戦略ハイテク分野の重大革新成果が次々と打ち出され、科学技術の実力がさらに強化された。主要科学技術革新指標が着実に上昇し、質の高い質発展のサポートで新たな成果を収めた」と述べた。

中国の科学技術部のデータによると2018年の同国の全社会R&D(研究開発)支出の対GDP比は2.15%になる見通し。国際科学技術論文総量と被引用数は世界2位で、発明特許出願件数・取得件数は世界一なったという。また中国のハイテク企業は18万1000社に上り、テクノロジー型中小企業は13万社を突破したという。

残念なことに、日本や欧州には世界に冠たるハイテク企業がない。あっても少ない。それが今の株価の米中との足取りの違いに出ているような気がする。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

目次へ戻る