1. 金融そもそも講座

第245回 中国企業、なぜ成長?

筆者がこの原稿を書く直前に、日本経済新聞に「米、中国『監視技術』に制裁」(10月9日付朝刊)という記事が掲載された。米中貿易協議の直前のこの記事、それに米国のファーウエイ制裁姿勢を見て分かることは、「中国の様々な新興ハイテク企業が、覇権維持を目指す米国にとって実に目障りな存在になりつつある」ということだ。

なぜ、一部の中国企業は世界に販路を広げ、強大な米国企業のライバルになり、時にそれを上回り(特にファーウエイ)、米国に目障りな存在と認識されるまで強くなったのか。むろん、米国による中国の監視技術関連企業への制裁は、中国が新疆ウイグル自治区で少数民族を弾圧しており、これらの企業がそれに加担しているというのが理由だ。しかしそこには米国として中国の監視関連企業やハイテク企業全般をけん制する目的がある。

追い越せないはずが

我々の今までの認識はこうだった。「技術革新で先頭を走れるような企業は、自由な発想が許され、表現の自由が確保されており、そして世界から人材が集まる資金力が豊かな企業だ」というもの。

「自由な発想」「表現の自由」という前提であれば、それは「西側諸国」のイメージが強い。だからロシアや中国のような、権威主義的な社会では、企業は「追いつけても追い越せない」「真に革新的な企業は生まれない」という認識だった。

加えて、「世界から人材が集まる資金力豊かな企業」の環境は、従業員の入れ替わりが激しくても企業体としての変容をうまくやり続けられる米国の企業が優位であり、人事制度で硬直性を残す日本や欧州の企業は不利だというもの。筆者もずっとそう考えてきたので、低賃金を背景に中国企業が伸びるとしても、せいぜい「追いつく存在」にしかならない。「米国企業の競争相手ではない」との認識だった。

「おや?」と思ったのは、世界における5G関連機器の販売で中国のファーウエイが急速に伸びて、世界全体で同社が「5G技術では世界でもっとも進んでいるし、安くて機器も良い」との認識が一般的になった時だ。米国政府が同社を目の敵にするのは、枢要な5G技術で米国企業よりも前を走っているからだろう。米国の安全保障にとって脅威になるからこそ、目障りになったと考えられる。

表現の自由、選挙の自由など西側諸国で許されない窮屈な社会である中国で、なぜ個々のハイテク企業がそれほど突出した存在になり得たのか。むろん、中国政府がハイテク分野で米国の先を行こうとあらゆる面で助力していることはある。しかし米国が中国の監視技術企業への制裁にまで乗り出したことは、ハイテク分野全体で中国が世界の先頭を走り始めているのではないか?

私にとっての最大の疑問

実は筆者はこの数カ月、「なぜ窮屈なはずの中国で、米国をして脅威だと感じさせる企業が生まれるのか」というのを最大の疑問としてきた。その原因を、いろいろな人との対話で探ってきた。インタビュー相手にそれを直接ぶつけたこともあった。「常識では追いつくだけで精一杯のはずなのに、中国企業はハイテクの分野(特に5Gや監視技術)でなぜ世界で優位に立つことができたのか」というのが端的な問題意識だった。

筆者なりに結論らしきものが出てきた。第一に、「今の中国企業、特に民間企業にはモメンタム(勢い)がある」という点だ。ある人は「7%を超えるような成長が続いた中国では、それ以上に売り上げ、利益を伸ばしている企業も多く、成長スピードが速い。そうした企業では何でも前向きにやる比較的自由な気風がある」と述べた。

そうだろう。日本の企業も高度成長の勢いの中で、硬直的な終身雇用制を残しながらも鉄鋼、自動車、電気などの各分野で先頭を走っていた米国に追いつき、そして追い越した。高度成長は当該国の企業の成長を加速する。

第二に「豊かな資金力」。中国経済そのもののパイは「13億人の人口」で、3億ちょっとの米国に比べればかなり大きい。国民一人当たりのGDPは米国よりはるかに少ないが、日本に大挙してくる中国人観光客を見ても分かるのは、国民が潤沢な消費市場を形成し始めているということだ。こうした国にある企業、そして対米を中心に巨額の貿易黒字を出している国の企業は、資金を潤沢に使える。技術を買えるし、人も買える。

ポンと50億円

ある通信関連の技術者は筆者に、「伊藤さん、中国のハイテク民間企業は我々が思うよりも自由で、皆言いたいことを言っていますよ。私がある交渉に行ったら気にいられたのか『50億円の研究費用を出すから我が社に来ないか』と言われました」と述べた。日本の企業がここまでするかといえば無理だろう。つまり中国企業の資金の出しっぷりは我々の想像の範囲を超えている、ということだ。

第三に指摘できるのは、直前の話と関連するが「人を集めている」ことだ。日本の通信技術者であろうと関係ない。「こいつはできる」と思ったら、人(技術者)を集める最大限の努力をする。中国企業は、中国を一度出て海外に留学した人材、そして米国などの企業に一旦就職した人材の取り込みにも忙しい。中国にない技術を持っているからだ。なかなか外部の人間が企業の内部に入りづらい日本企業にはまねできない、資金力を使った人材の確保をしている。

筆者は別に中国企業のやり方を賞賛するつもりはない。むしろ批判的だ。きっと日本を含めて西側企業から膨大な技術の盗用をしてきたと思われる。それには米国が厳しく指摘する「技術の移転強要」も含まれる。中国に進出した企業に、その企業の最新技術を中国に残すことを強要するものだ。許せない手法もいくつも使ってきているかもしれない。米国を初めとする世界の企業に対するサイバー攻撃もそうだ。

しかし問題は、その望ましくない権威主義的な政治体制の中でも中国の企業が力を伸ばして、それが国家権力と密接に結びつくことだ。それはしばしば世界、それにマーケットにとって望ましくない結果をもたらす危険性がある。

一番良いのは中国の政治体制が選挙も許される形で民主化されることだが、今のところその望みはない。その中での一部ハイテク中国企業の力は伸び続けているように見える。マーケットの人間としても、注視すべきポイントだ。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

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