金融そもそも講座

「その後」の職種は?

第258回

前回「『ポスト・パンデミック』のマーケットや世界経済の回復のパターン」を考えたので、今回は「その中でどんな業種が経済的・社会的に必要とされるか」を考えてみたい。

メディアなどは盛んに「この業種や企業がこんなに苦しい」という話題を中心に据えているが、マーケットにとっては「業種でどのような浮き沈みが出るのか」「どんな対策を打っている企業が業績を残せるのか」が重要だ。

前提として「今後の日本と世界の経済はwith coronaの時期が少なくとも1年半は続く」だ。

前回使った「ポスト・パンデミック」という単語は「第一波後」という意味で使ったが曖昧(あいまい)だった。今回の新型コロナウイルスはしつこい。その後も第二波、第三波がありそうなので、今後「with corona期」と定義しよう。

10のポイント

それを考える上で、4月22日に政府専門家会議が提言した「人との接触を8割減らす10のポイント」は参考になる。専門家会議が想定しているのは一応5月6日までだが、新型コロナウイルスの脅威はその後も続くと考えられる。

挙がったポイントは、「これまで日本ではこれができていなかった。今後しばらくは気合いを入れよう」というポイントだからだ。つまり日本社会の課題列挙とも受け取れ、また進むべき方向性ともとれる。10のポイントは以下の通り。

1.「ビデオ通話でオンライン帰省」
最初にこれかという驚きがあった。「オンライン帰省」という新語にまず驚く。連休を控えて最初に言いたかったのだろう。連休に「物理的移動を控え、オンラインで帰省しろ」と言うのだから尋常ではない。それだけ人の移動、特に都会から地方への人の移動を専門家達が脅威と考えている証拠だ。with coronaの時代はこれが恐らく普通になる。田舎のおじいちゃんやおばあちゃんもiPadなどのタブレット端末やパソコンを使う時代になるのだろうか?

2.「スーパーは1人または少人数ですいている時間に」
現状スーパーに人々が押し寄せている状況は危機的だと捉えられている。特に土日。つまり今はスーパーがテーマパークになっているということだ。この業種の冬は終わった。実需も引き受けており、絶対に必要な業種だ。

3.「ジョギングは少人数で、公園はすいた時間、場所を選ぶ」
これが何を意味するかというと、ジョギングだから良い、公園だから良いということはない。どこでも「2メートル弱のphysical distance(人と人の間の物理的距離)を保て」という意味だ。オープンエアでも危険だ、と言っている。
stay home(家にいよう)と言っているが、実はstay alone(一人でいる)が良いという意味でもある。前者には家族内感染のリスクがある。

4.「待てる買い物は通販で」
今日必要な生活必需品はスーパーや薬局で買い、そうでないものは店舗へ行かずに通販で買えということ。通販業界、配送業界が今以上に忙しくなることはあきらかだ。一方で「待てる物」を売っている実店舗は厳しい。ネット通販を手がけないといけない。

5.「飲み会はオンラインで」
筆者は既に飲み会はZoom経由になっているが、日本を全体として見たときにはまだまだなんだと思う。だから専門家会議があえて言っている。オンライン飲み会が普及すると、今まで飲み会の場所だった実店舗(居酒屋とか)の経営は厳しくなる。地域のオンライン飲み会に食べ物を出前するといったビジネスが生まれるだろうか。

6項目がオンライン関連

6.「診療は遠隔診療」
今までなかなか重い腰を上げなかった厚生労働省や医師会も、今後は初診を含めて遠隔診療に真剣に取り組まざるを得ないことを意味する。ここでもオンラインがポイントだ。一気にオンライン化が進む可能性がある。

7.「筋トレやヨガは自宅で動画を活用」
これはオンラインで授業を受けるか、YouTubeなどの動画を先生に、筋トレやヨガ(代表的な例を挙げたと考えられる)のレッスンを受けてくださいということ。スポーツジムやヨガ教室にオンライン、ネット動画対応を迫ったと受け取れる。既に一部で行われているが、加速する可能性が高い。

8.「飲食は持ち帰り、宅配も」
レストラン、居酒屋、ファストフードの営業形態は大きく変わる。客はいずれにせよ家で食事をすることになり、家に居る時間が長くなる。テイクアウトや宅配にシステムを切り替えないと飲食業は厳しくなることを意味する。

9.「仕事は在宅勤務」
通勤するな、少なくとも減らせということで、テレワークが進んでいない日本の中小企業も対応を迫られるし、通勤(交通)需要が減少することを意味する。

10.「会話はマスクをつけて」
日常生活にマスクが欠かせなくなることを意味する。専門家会議が「何気ない日常の会話」(密接・密着)を感染源の一つと見ている事が分かる。実はマスクはphysical distanceの代替にはならない。マスクをしても距離は必要だ。日本でも公共の場所でのマスク着用が近く義務付けとなるかもしれない。関連の感染防止グッズは消毒液などを含めて今後も強い需要を集め続けることになる。

10項目のうち、実に6項目は「オンライン」に関わる事項だ。日本全体がオンライン化率で課題が多いことを如実(にょじつ)に示している。

オンライン化を進めないと、企業(何であれ)の存続が危うくなる。日本ではオンライン関連のビジネス(機器設置、アプリ取りそろえ、教育など)は急拡大し、それはコロナ後でも変わらない。具体的には既に急増しているパソコン需要はさらに拡大する。パソコンの方がスマホよりも画面が広い分テレワークやオンラインの飲み会には便利だ。スマホを使う場合は斜めに立てて充電できる台座が必要になる。筆者も買った。

オンライン、オンライン、オンライン…

株式市場を見る目も、業種、さらには個別企業の視点がますます重要になる。企業でも個人生活でもオンラインが普及せざるを得ない状況は、パソコン需要の増大以外に以下のような変化を促す。

  • 1.動画配信の急増に伴う通信量の大幅な増加によって、既存のネットワークの軋(きし)みが増加し、今後通信会社は通信量増強を急がざるを得ない(既にネットワークへの負荷は凄まじいし、時に危険だと聞いている)。
  • 2.大都市のオフィス需要は大きく減少する。オフィス市況はいったん大きく下がるだろう。また少し長い目で見た人の移動が「大都市→地方」になるので、都心のマンション市況も軟化する可能性が高い。
  • 3.人間の物理的移動量が減少することにより、交通インフラは現状の規模・密度を維持する必要性が薄くなる。それは陸海空のどこでも言え、交通需要が戻るには相当な時間がかかる。

「スーパーは1人、または少人数」というのは、それだけ多くの人がスーパーに押し寄せていることを意味する。東京のデパートでは高島屋などが食品売り場だけ開けているが、その他のデパートは店全部を閉めている。デパートの食料品以外のフロアの売り物は「(少なくとも短期的には)実は不要不急だった」ということが分かった。これは小売業にとって、またそれを見つめる我々にとって大きな変化だ。

「宅配」も注目の業種だと分かる。通販と合わせて2回出てくる。もともと配達業務はネット時代に伸びる業種に考えられていたが、今後さらに伸びる。他の分野で大きく減少する雇用の受け皿としても有力だ。医薬品関連企業への期待も高いだろう。ワクチンや治療薬関連はなおさらだ。衛生関連商品はドラッグストアでいまだに品薄だ。

ニューヨーク株式市場の有力指数で3月20日過ぎの底値からの反発具合を見る。ダウ工業株30種平均とNasdaq(ナスダック証券取引所)では明らかにNasdaq優位だ。反発力が強い。日本のメディアはまだダウ中心の報道だが、筆者はもうNasdaq中心で良いのではないかと思っている。個々の企業、業種へのインパクトに関しては次回に取り上げる。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。