1. 金融そもそも講座

第259回 「その後」の企業は?

これまで「『ポスト・パンデミック』のマーケットや世界経済の回復のパターン」、「その中でどんな業種が経済的・社会的に必要とされるか」を考えた。

今回は「どんな企業が経済的・社会的に必要とされるか」を考えてみたい。

これから我々が迎える「with Corona期」は、人間が一番好きな「寄り集まる」ことが規範的、心理的に規制される社会だ。「立錐(りっすい)の余地もない」という言葉は、少なくとも1年半は日本語から消える。そして「stay home(家にいよう)」、できれば「stay alone(ひとりでいよう)」の状態が望まれる期間が続く。

日本では5月14日に緊急事態宣言が大部分の県において解除されたが「stay alert(油断しない)」は今後も変わらない現実だ。

今後も感染再拡大の懸念は常に残る。行動規制を緩和したドイツや韓国での最近のクラスター(感染者集団)の発生を見れば十分だ。

行く場所、そして買う物もがらりと変わる。時間の過ごし方も大きく変化した。家にいる時間が過去想像しなかったほど増えた。それは総体として日本と世界の経済のかたちを大きく変え、多くの企業の立ち位置が変わってくる。

キッコーマン

筆者が最近もっとも「あ、なるほど」と思ったのはキッコーマンだ。共同通信の「キッコーマンが最高益 コロナで自宅調理の需要増」という記事を見た瞬間に膝を叩いた。気が付かなかった。我が家もキッコーマンの醤油を使っているが、毎回使う量は以前とそれほど違わない。少量だ。しかし家で食事をする回数は確かに増えた。料理を作るにしても、買ってくるにしても。そうした一つひとつの家庭での積み上げの総和はすごいことになる。記事にはこう書いてある。

「キッコーマンが12日発表した令和2年3月期連結決算は、最終利益が前期比2.3%増の265億円で過去最高になった。海外事業が好調だったことに加え、国内で新型コロナウイルス対策の外出自粛が進み、自宅で調理して食べる『内食』の需要が増えて具材調味料や豆乳飲料が好調だったことが寄与した。売上高は3.3%増の4686億円だった。国内では2月下旬から3月にかけて在宅勤務や休校などにより、家庭で食事をする機会が増加。このため自宅で手軽に調理できる商品として、具材調味料『うちのごはん』などの売り上げが伸びたという。」

「うちのごはん」は我が家も買った。記事があまりにも面白かったので筆者のSNS(交流サイト)アカウントに投げたら、すさまじい勢いで「いいね!」とコメントが増えた。米国の友人からは、「今や米国のスーパーマーケットでフツーに『きっこマン』買えます。凄い」とリプライが付いた。尾道の倉庫業者の友人からは、「我々食品に関する産業は、武漢コロナの脅威に負けないで、忙しく頑張っていますよ! 何も医療業界だけじゃない、これからも食品流通の現場で支え続けます」(ともにコメントは原文)という返事だった。

東芝

経営者の言葉に思考を刺激されることもある。5月の連休明けに「休業期間は延長せず7日から事業活動を再開する」ことを決めた東芝。NHKが車谷社長とのインタビューを放送しているのを見たが、同社長の一言が面白かった。「我々は社会のインフラをつくり、保持している。なので需要が蒸発するということはない」と言ったのだ。

我々は日々の報道で何かと「需要が蒸発した業界・企業」の話を繰り返し聞いているが、食品やインフラ関連企業の需要蒸発はない。

むろん新幹線や航空機の乗客需要が大きく落ち込んでいる。しかしメンテナンスのニーズはずっと存在するし、それを担当する東芝のような企業は基本的にはずっと仕事がある。

それと関連して、今年の日本の夏は「過去に経験したことのない夏」になることが確実だ。それは「マスク着用が基本の中での蒸し暑い夏」ということだ。

中国では、体育の授業でマスクを着けたままで運動をしていた中学生が急死するという報道があった。中には医療業界で使われる高性能マスク「N95」をしていた生徒もいたという。普通のマスクでも運動時の着用は体に良くない。5月でも少し気温が上がるとマスクをした口の周りには汗をかく。夏のマスク着用は十分気を付けないといけないし、冷却グッズなどの対策が必要だ。

いくつかの放送局が「今年の夏はエアコン需要が高まる。今のうちに点検や修理を」と呼び掛けていた。今年の夏は例年に増して「暑さ対策」製品が売れるだろう。そうしないと日本は危険だし、エアコンの売れ行きも増加が予想される。

欧州や米国でもだが、「外出時にはマスク」は世界中で社会生活の基本になるだろう。スーパーのレジ係が一番恐れるのは「マスクをしていない人」と聞くと、「必要なときは、我慢してもマスクはしよう」と思う。今後北半球の人間にとって「マスクをしながらの暑い夏の過ごし方」は重要なテーマだ。

トヨタ自動車

トヨタ自動車は5月初め「リーマン・ショックより自動車業界へのインパクトははるかに大きい」と豊田社長が評した3月期決算と来期見通しを発表した。3月期は売り上げが前年度より1%減って29兆9299億円、本業のもうけを示す営業利益は1%減って2兆4428億円だった。問題は2021年3月期。新型コロナウイルスの収束時期は依然として不透明であることから、今後の状況などによって変動する可能性があるとした上で、営業利益は5000億円とした。2020年3月期と比べて80%近く減るという厳しい見通しだった。

自動車産業を取り巻く環境は確かに厳しい。しかし一方で、筆者は別の視点を持っている。なぜなら筆者はタクシーに全く乗らなくなり、一番乗る乗り物はマイカーになった。以前は税理士が驚くほど多くの回数、タクシーに乗っていた。しかし全く乗らなくなった。しばしば一人、時に家族を乗せるくらいのクルマは、感染症対策が可能な移動手段として最適だ。誰もそういうことをあまり言わないが、私はそう思っている。

そう思っていたら、NHK BSの「ワールドニュース」でスペインの放送が「コロナ禍でクルマは売れるようになるか?」という特集をやっていて面白かった。結論は私の考え方と一緒で「クルマ、特に電気自動車は売れる」というものだった。理由はそこでも、クルマは「感染症対策として安全であり、できれば地球に優しい電気自動車が良い」との結論だった。私の意見と一緒で興味深かった。

この原稿を書き上げる直前にトヨタレンタカーは「通勤用にクルマを借りられる割安プラン」を発表した。時宜(じぎ)にかなったプロモーションだと思う。公共交通機関での通勤を怖がる人は多い。筆者もそうだ。フランスのように自転車での移動を強く推している国もある。それは各国で様々だろうが、個的移動手段にはニーズが高い。

テレワークの普及でパソコンが非常に売れしていることは既に前回に述べた。それは今後「住む」と「働く」のかたちが変わることを意味する。各人がリモートワークするため部屋数の多い住宅が必要とされるようになる一方で、都心のオフィス需要は減退すると考えるのが自然だ。

筆者は株式アナリストではないので、取り上げたのは数社だ。エコノミストの視点でいくつかの企業を取り上げた。需要は変化する。蒸発するばかりではない。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

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