1. 金融そもそも講座

第225回 自分の頭で考える

今年最後の原稿をニューヨーク市場が臨時休場(ブッシュ元大統領の「国民追悼の日」のため)の翌日、12月6日に書いている。4日の同市場がダウ工業株30種平均で800ドル、3%を超える下げを記録した後のお休み。しかしそのつかの間、年末ということもあって筆者の頭には色々な思いが駆け巡っている。その大部分は「そもそも」的なものだ。改めて思うのは、「いままでの常識を一旦サラから考え直す時期なのではないか」ということだ。

マーケットは過去の知恵から、特定のニュースがあるとknee-jerk(反射的)に反応する。それは良い。マーケットは瞬時瞬時に動く。しかし、少し長めの投資サイドに立つ我々は、「それって本当?」と常に考えねばいけない時代に入っているのだと思う。

多分2019年も荒れる年になる。尋常ではない時代なので。その中で変わらない事柄は何か。そして何が変わって、自分の思考パターンをどう修正すればよいのか……と、改めて皆さんと考えたい。

関税男?

冒頭に触れた今月初めのニューヨーク市場の急落は2つの要因を背景としていると伝えられた。1つは対中交渉の米国側担当者に強硬派のライトハイザー通商代表が就任し、かつトランプ大統領も前日の「米中トップ会談は大成果」というコメントを忘れたかのように、「仮に失敗したら」という前提で極めて厳しい対中姿勢を改めて表明した。「I am a Tariff Man.」(俺は関税男)という彼の表現には笑えたが、市場は身構えた。これに関する緊張は交渉期限である来年2月末まで続く。息の長い材料だ。

もう1つの理由は、「長短金利の逆転」(いわゆる逆イールド)。通常お金のやり取りについては将来の方が当然リスクは高い(インフレなどがあり)ので、金利は高くなる。順イールドだ。しかし過去においてこれが短期高・長期低という金利体系になったことがあり、それは「景気後退の前兆」とされてきた。ニューヨーク市場でそれが起きた。

米国では政策金利が上がり続け、それにつれて2年くらいまでの短期金利は高い水準を保っている。当然だろう。しかし一時3%の水準に乗っていた長期金利、例えば10年債の利回りは「景気後退懸念も台頭する中で米国のインフレはあまり上がらない」「株が落ちればお金は債券市場に回ってくる」との見方もあって下落し、一時は2年債の利回りが10年債の利回りを上回ってしまうという、逆イールドが現実となった。

マーケットは今まで「米国経済は強い」という大きな前提の上で動いてきたから、「えっ、景気後退?」と動揺したという展開。

「謎」のまま?

しかし筆者はすぐに「本当だろうか」と考えた。なぜなら米国の景気が良くても労働賃金がなかなか上がらずにインフレ率も低かったことを、つい最近までエコノミストばかりでなく米連邦準備理事会(FRB)の議長(パウエル、イエレン、さらにその前のバーナンキの各氏)ら当局者も、「謎」(conundrum)と呼んでいたのではなかったのか。それは読者の方々もよくご存じだろう。

ITネットワークがインフラとなって様々なサービスが展開され、その中で人、モノ、資金が動く今の社会は、その前とは「違う」と考えるのが自然なのではないのか、と筆者は考えた。

だとしたら、過去の知恵である「長短逆転の逆イールドは景気後退の前兆」を、直ちにその通りと受け止める必要があるのか? 筆者もまだ結論が出ていない。しかし問題はもっと複雑なはずだ。筆者はずっとこの連載で「金利は上がらない時代に入った」と指摘してきた。

米長期金利の上昇と騒がれているが、それでも3%強。まずもって過去よりよほど低い。しかしそれでも高い金利レベルは持続できないと思っていた。それは今のネットワーク経済が「物価を押し下げる強い圧力」を内包しているからだ。「アマゾン・エフェクト」はそれを象徴するキーワードだ。この問題に関しては繰り返しこの連載でも取り上げてきた。なので、長期金利の3%割れは当然、というのが筆者の見方だ。問題は、短期金利が高い水準を維持していること。

疑問は続く……そして市場も

当然出てくるのは、「政策金利を引き上げ続けているFRBの政策は正しいのか」という疑問だ。その(徐々にではあるが)連続的引き上げは、「過去の常識」「過去の知恵」に依拠しすぎてはいないのか?

むろん過去は大事だが、今は経済の形にしろ、政治にしろ、大きな変革期にある。最近パウエル議長は案外早期に政策金利の引き上げを打ち止めにする可能性を示唆した。パウエル議長も今米国経済で起こっていることを改めて考え直しているのだろうか? まさかトランプ大統領のプレッシャーからではないだろう。

いずれにせよ、経済においては「ターム(期間)」が非常に重要だ。短期に解消すれば、それは「その時だけのことだった」で終わりだ。しかし長引けば、面白い現象が起きる。 短期金利は政策金利が水準を決める。関係が深いから当然だ。しかしこれだと過去の金融の基本姿勢・秩序、具体的には「短期で借りて長期で貸す」が、乱れる。逆イールドの世界では「長期で調達して短期で出す」と金利差が懐に入る。

2019年は……

2018年は、楽観、不安、そして期待が入り交じった状態で終わろうとしている。疑問は尽きない。英国がどうなるのか、そしてEUは。イタリアはどうか。米中の覇権争いが表面化する中で、この両大国はどのような関係を続けるのか。米国経済が減速するとして、どの程度か。金利が再び世界的に下がる事態になったときに、ではマネーはどこに流れるのか。

繰り返すが、2019年も一筋縄ではいかない。とっても興味深いリスクとチャンスが共存する年になりそうだ。引き続き目の回るような展開か。しかしだからこそマーケットは面白いと思うし、考えなければならないことは多い。

読者の皆様には良い年末年始をお過ごし下さい。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。

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