金融そもそも講座

強さの秘密は? 現地から見る米国(2)

第219回

「強さの秘密は?現地から見る米国」の2回目として、今回は経済活動に関わる事柄で気が付いたことをいくつか報告したい。物価やサービスに関し、日本にはないいくつかの現象に注目した。同じ自由主義の国といっても、やはり日本とは異なった点が多い。それは文化や成り立ちに起因する。共通点が多い中での違いだが、それが案外日本と米国の「経済の形の違い」「企業の収益率の差」となっているかもしれない。

なんでも高い

米国に着いて最初に「おや」と思ったのは物価の高さだ。日本のそれと比べて。米国の場合、現地の価格にゼロを2つ付けるとほぼ日本の価格と比較できる。現在の為替相場は1ドル=100円からそれほど離れていないので、ゼロを2つ付けて、あとは1割増しという感じ。

何をするにも、何を食べるにも、何を買うにも、日頃日本に住んでいる筆者には「高い」と感じた。スターバックスなどのコーヒーショップでちょっとしたサンドイッチ系の食べ物を買う。すると直ぐに10ドル札2枚での支払いを余儀なくされる。1枚では足りない。2枚出してお釣りは来るが少ない。自動販売機でコーラを買うにしても、高いという印象を受けた。

エンゼルスタジアムの売店に行く。多くの日本の方、それに米国のファンで混み合っているが、売っている大谷グッズは印象として非常に高い。それでも「記念だからしょうがないか」と覚悟して買ったが、かなりの金額になった。西海岸ではレンタカーで数日間移動したが、筆者が駐在していた頃(1970年代の後半)から「米国では絶対的に安い」と確信していたガソリンも、高いと感じた。

そのレンタカー。「スリフティ(Thrifty)」という文字通りなら節約できる社名の会社から借りたが、「予約してくれた車種が出払っている」「一つ上のクラスならある」「さらに上のクラスは1日当たり本当は100ドル余計にかかるが、今回は50ドルにしておくがどうか」とかうまい文句を並べられそれは断ったが、結局、日本で予定していた価格よりかなり高くなった。

思ったのは「日本とは物価情勢が全然違う」「これでは中央銀行(FRB=米連邦準備理事会)が金利引き上げを続けているのはやむを得ないのではないか」の2点だった。

住居も高騰

こうした事情は、筆者が回ったのが主に都市部だったからかもしれない。しかし米国に行くに当たっては、アマゾン・エフェクトもあるし、米国の物価は「自分が知っているレベルからはそれほど上がっていないのではないか」とも考えていた。しかし行ったら全然違っていた。米国の物価上昇圧力は確かに高い。

アマゾン・エフェクトとは、「全国統一価格のアマゾンの影響で、物価には常に下方圧力がかかる」という考え方である。それがあっても日本人の私にはあちこちで「これは高い」と感じる事が多かった。物価上昇圧力は高い。日本ではとんと感じたことがない圧力だ。その体感からすれば、FRBの政策金利が早くも片足2%に着いたのは至極当然だ。

そうした中で1つ考えた。それは「米国の一般の人が暮らすには、かなり状況は厳しくなりつつあるのではないか」というものだ。日本では平気でワンコインで昼飯を食べられるが、米国ではなかなか難しい。加えて米国では住居費が都市部では高騰していた。

郊外ではどうか知らないが、マンハッタンのような代表的市街地では、ハーレムやイーストビレッジなどの従来だったらとても「住宅地」とは呼べないような危ない地区が、安全・きれいになっていた。住宅開発が進んでいるのだ。その代わり住宅相場、賃料が大きく上昇していた。あれでは一般の人は住めない。

また日本でもよく報じられているが、従来は低質で危険な住宅地だったブルックリンなどの郊外の一部も、グリニッジ・ビレッジ的なレストランとショップが並ぶしゃれた街になっていて、不動産業者の店舗で一帯の不動産価格をチェックしたが「これは高い」という印象だった。

郊外では空き家が増えて困っているのに、都市の中心やその郊外では不動産価格が上昇するという日本と同じ状況が生まれていた。これは「都市中心」の今の時代では世界共通の現象になっていると思われる。

そこにある格差

米国企業の「もうけ方」にも筆者は着目した。日本と違うのだ。日本にはない考え方が存在する。それは「お金を払った人を平気で優先する」というもの。日本のサービスが基本的には同一料金・同一サービスなのとは全く異なる。その考え方は本稿の執筆を終える直前に発表になった次世代のiPhone(Xsなど)にも感じた。一段と高くなる機種と、安く抑えた機種。高く払える人には高く払ってもらう、という考え方が共通だ。

オレンジ郡を離れて1時間余り車を走らせ、ユニバーサル・スタジオにも行った。ちょっと間が空いたので「日本にない乗り物に乗ろう」ということで。ホテルからレンタカーで行ったのだが、スタジオの駐車場に車を入れる段になって3つも選択肢があることに気付いた。

1つは「GENERAL」で、要するに一般。25ドルだった。日本のテーマパークの駐車場はおおむね1日1000円なのでこれでも高い。次が「PREFERRED」(優先)で、確か35ドル。我々が買ったチケットには駐車場利用権が付いていなかったので「さて選択」ということになった。

しかしよく見ると「FRONT GATE」だったかな、つまり「入場ゲートのすぐ前」という選択肢があった。それが50ドル。一般の倍。「駐車場に50ドルか」と思いながら、「面白い」と思ってそれを選択して入ったら、本当に人々が列を作っている入場ゲートのすぐ前の駐車場に誘導された。車に忘れ物を取りに戻るのにもとっても便利だ。車のフロントグラスには赤紙が。ま、便利だが駐車代金が1人当たりの入場料に接近する。「日本にはないうまいもうけ方」だと思った。

と思うとホテル。L.A.でもニューヨークでもそうだったが、ホテルの館内Wi-Fiにも2種類あった。セキュリティー保護がないWi-Fi(無料で使える)と、もう一つ「Preferred Wi-Fi」。確か15ドルほどだった。面白いのでこれも払うことにしたら、そのWi-Fiの速いこと速いこと。ただ、セキュリティー保護されていないという事情は変わらないようだ。つまり「速さ」にお金を払う。

「サービスにも格差を付ける」という徹底さ。「米国の企業の収益率が高い一因はこれだ」と思った。“格差”を作っても当たり前だと思われる社会。日本とは随分違う。同じ市場経済でも細かいところはとっても違うのだ。(

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。