金融そもそも講座

仮想と現実 - 企業活動への影響(後編)

第216回

「仮想と現実」の2回目だ。今回は具体的な事例が多いことをあらかじめお断りしておく。なぜならこの台頭しつつある「新しい動き」に詳しくない方々には少し丁寧に、「こんな事象も起きている」「こんな具体的な例もある」ということを説明する必要があるからだ。

今回も仮想ゲームであるPokémon Goと現実世界との相互関係を見ていく。どのように両者がインターラクト(=相互作用)し始めているかが、お分かりいただけると思う。前提は、Pokémon Goには年齢性別を問わず非常に強固で膨大な数のファン層が存在し、それは各企業の伝統的顧客でない層を含む、つまり企業にとって「新しい顧客」との接点を作れる機会になっていると思われることだ。このゲームに限らず、今後ますます「仮想と現実」は相互作用を強めると思われる。

アンノーン

前回の最後の方で、「アンノーンに関連する企業のイベントは、このあとイオン、ジョイフル、タリーズ・コーヒーなどと続く予定」と書いたが、それらは本稿執筆時点ではすべて終わっている。このほかにも、TOHOシネマズも参加券配布の仲間に入ったが、こうした「リアル企業」がどのような形で仮想的「参加券配布」を行ったのかをリポートしておきたい。仮想と現実の接点を理解する良い例と思うので。

前回の繰り返しになるがもう一度説明しておくと、「参加券」とはPokémon Goの公式スポンサー企業のポケストップで、アンノーン(レアもので人気が高い)と呼ばれる「英語アルファベット・ポケモン」をゲットできる券だ。英語アルファベットなので基本は26文字だが、それに「+α」があり今後もその数は変動(増える)する可能性がある。

運営側がアンノーンをリリースするペースは、おおかたにおいてイベント開催地名の文字の数(横浜ならyokohamaだが重複を除くのでyokhamの6文字、砂丘ならsakyuとなりそのままの5文字)と少なく、すぐには26+αはそろわない仕組みになっている。今回のスペシャル・ウィークエンド3日間では各日2個(7月27日=「T・J」、28日=「M・D」、29日=「A・E」)となっていて、その収集は「アンノーン26文字+α」完成への一歩でもある。アンノーンはイベントばかりでなく、ごくたまにnon-event(普通)でも出ることがあり、ゲーマーの仲間内では「完成に接近した人ほど尊敬と賞賛を集める」ことになっている。

前回、ソフトバンクの参加券配布はシステムが目詰まりを起こしてダウンし、次のマクドナルドでは「夏限定 肉厚ビーフ×パワフルエッグ アツいぜ!ロコモコ」のセットメニューの販売が好調で、発券も比較的スムーズに進んだことをお伝えした。その後ソフトバンクはリカバー措置を取っていないので、当初4日間だったイベント予定日程が3日間に短縮された。

新しい顧客

その他の各企業の「仮想と現実の接点」の作り方を見ておこう。タリーズ・コーヒー、TOHOシネマズ、ジョイフル(ファミリーレストラン)の3社。それぞれ実施期間は違ったが、タリーズ・コーヒーとジョイフルでは一定条件の飲み物・食べ物の注文によって、TOHOシネマズでは映画鑑賞によって、それぞれ参加券が配られた。ここで1つのポイントは「参加券ゲットは先着順」という前提。例えば都心にはあまり店舗のないジョイフルの場合、赤坂店では配布開始予定の午後3時の前から長蛇の列ができ、参加券は“瞬間蒸発”だった。筆者は同店の前を通りかかったのだが、あの酷暑の中、非常に多くの老若男女が列を作っているのが印象的だった。

タリーズ・コーヒーの参加券配布は、指定メニューであるアイスコーヒー、抹茶リスタ、ロイヤルミルクティークリームスワークルのいずれかのTallサイズ以上を買うことが条件だったが、数多くの店舗でかなり早い時間に参加券枯渇の状態になったと報じられている。筆者は歌舞伎座店へ昼ごろコーヒーを飲みにたまたま行ったら、まだこの案内(下の写真)が出ていてそこでゲットすることができた。

タリーズ・コーヒー歌舞伎座店にて

タリーズ・コーヒー歌舞伎座店にて

前回マクドナルドについて書いたが、飲食系の企業では「一定金額以上を飲み食いする」ことが条件になっているが、それは

  • 1.直接的に関連したメニューによって店舗、企業全体としての売り上げを伸ばす
  • 2.今まで当該店の存在を知らなかった、足を運んだことがない種類の顧客に店の存在をアピールし
  • 3.かつ、メニューを試してもらって、その店舗、企業の魅力を少しでも知ってもらい、拡散する

などの効果が考えられる。タリーズ・コーヒーについてもそれはあてはまる。

広がる技術

イオンやTOHOシネマズについても、同じようなことが言える。例えば筆者がよく行く小売りの店は近くのコンビニか都心のデパートだ。しかし今回はたまたまいた場所からグーグルマップで「イオン」を検索したら「東雲店」と「品川シーサイド店」の2店舗が出てきた。取材もあってその2カ所とも回ったが、これらの店の特徴、そろえている商品の多種多様なこと等々、イオンの特徴が本当によく分かった。「ここに来れば、あれとあれがそろうんだ」とも実感した。むろんイオンでは「当面必要ないくつかの商品」の買い物もした。いつも行くわけではないお店で買い物をするのは、ちょっとワクワクするものだ。一定金額の買い物をして、その領収書をもとに参加券取扱カウンターで参加券をもらうという手順。

TOHOシネマズには普段でもよく行くが、今回のチケットと渡し方はなかなか考えられていた。チケットを買ってそのままサヨナラできないように、「ちゃんと映画を見て下さい」という仕組みが考えられていた。

今回は「仮想と現実」の接点をやや具体的に書いた。仮想と現実については様々な議論が進行中で、その境目を巡る議論も盛んだ。技術として筆者が注目しているのは、強化現実とか増強現実とも呼ばれる拡張現実(AR:Augmented Reality)。科学番組を持っていた時に何回も取り上げて、かねて非常に強い興味を持っている。それと似たものには複合現実 (MR:Mixed Reality) があり、仮想と現実を橋渡しする技術も徐々に充実してきた。

重要なのは、これらの技術の下で仮想と現実が「相互に需要」を生んでいるということだ。需要は経済活動の原点であり、それが増えるということは経済活動にはプラスだ。実際に仮想(ゲーム)の世界を持つと、今までの「ケ=日常」中心の自分の世界が、常に「ハレ=非日常」の世界に転化するほどの衝撃を覚えることが分かる。

前回「筆者の考え方は、『実は仮想と現実はかなり混然一体として存在する』というものだが、ネットのパワーが伸張していることでその境界線は一段と入り組んできていると思う」と書いた。その“論”をあまり進められなかったが、今回取り上げた事例は仮想ゲームの持つ力をご存じない方々には参考になったかもしれない。この問題は引き続き機会を見て取り上げていきたい。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。