金融そもそも講座

今年も良い年になるのか

第202回

2018年を読者の皆様はどうお迎えでしょうか。「去年のマーケットは良かった。今年も環境的に去年の“再来”になるだろう」なんてお考えでしょうか。それとも「世の中そんなに甘くない。上がっている今こそ警戒し、注意深くマーケットを見ることだ」と思っておられるでしょうか。多分この2つの気持ちが多くの投資家の心の中に、共にあるのだと思います。

だからこそマーケットは売る人がいて、それを買う人がいる。常に2つの考え方、ニーズがぶつかって成立していることになります。今年も様々な角度からマーケットを「そもそも」的にできるだけわかりやすく解説していきたいと思います。文章処理と編集・ページアップ作業などで私が書いた時から皆さんが読むまでには若干ずれますが、なるべく他にない視点で新鮮な情報をお届けできたらと思います。

実は“保ち合い”が大方の予想だった

2017年当初、大方のマーケット予想は「一年間上下はあるが年末の相場はほぼ今程度ではないか」との“保ち合い”予想が圧倒的だった。しかしマーケットは大幅に上昇した。ニューヨークの米S&P500種株価指数は19.4%も、日経平均株価も19.1%上がった。2018年初も基本的にはその勢いを保っている。大きな要因は3つあったと思う。

第1に、リーマン・ショック後は厳しく激しかった各国間の景況の差が良い方向にシンクロナイズして、世界的に「経済が良い状態」になったこと。つい最近で「景気が悪い」と明確に判断される国はベネズエラなど、ごく一部だ。欧州などその他の国は何らかの形で国内景況感は改善し、深刻だった雇用問題も改善に向かっている。「これだけ世界の多くの国の景気がシンクロナイズするのは珍しい」と専門家も驚く。

筆者がメディア出演する際などによく受ける質問に、「こんなに世界中で株価が上がって、世界の景気は本当に良いんですね。実感はないんですが……」というものがある。いかにもマスコミ的発想の質問だが、私は「すごく良いとは言えないが、適度に良いので株価が上がっています」と答える。

そこで第2のポイント。景気は総じて良い。しかし世界の主要中央銀行が足早に政策金利を引き上げるほどには強くない、という点だ。労働賃金の伸びも鈍い。だから大部分の人にとって実感はない。もし本当に景気が強ければ、株式市場にとって大きな競争相手が出現してしまう。長期金利だ。今は多くの投資家が「投資魅力に乏しい」と判断している。あまりにも利回りが低いからだ。それが上昇すれば株に回ってきていた資金が債券投資に戻ってしまう。つまり世間は「(株価が高いのは)景気がとっても良いから」と考えるが、本当のところは「良すぎないから」が正しい。

企業の破綻ニュースがマスコミをにぎわすことも多いが、それは既に経済活動での役割を縮小し、経営に失敗した一部の企業のケースである。第3のポイントは、世界各国では健全な経済活動をし、そして収益を伸ばしている企業が多い、という点だ。これは株価を考える上では重要だ。企業の健全な経済活動、それに伴う企業収益あってこその株価上昇だからだ。今の各国企業は様々な新技術を使って技術革新を行い、コストの劇的な引き下げに成功している。販路さえ確保できれば収益は付いてくる形となっている。

株価を押し上げた3要因

この3つが要因だったら、2018年も好循環が続くように見える。崩れるかもしれないと思える前提は、逆説的な表現だが「世界各国の景気の良さが穏やかなまま続く」という点だろう。世界経済が実に久しぶりにシンクロナイズして良くなっているので、思わぬ過熱や供給のボトルネックもありうるからだ。

そうは思ってみても、改めて日本の景気を見ると「そう強くはならないな」という印象だ。今の世界経済はインフレ率の上昇を伴った形での拡大パターンの加速にはなっていない。企業の経済活動そのものが、テクノロジーがもたらす新技術を自社活動にうまく溶け込ませ、インフレの大きな要因である生産や流通の隘路(あいろ)はふさがれ、時に除去されている。

なので安心、だろうか。いやいや違う。筆者はマーケットを長く見てきた人間として、一つだけ強調しておきたい。それは「マーケットは自身の体重を持つ」ということだ。高値を追えば追うほど、その時間が長くなればなるほど、その体重は重くなる。よく「環境は変わっていないのに、マーケットは突然方向性を変えている。それはおかしい」という解説を聞く。それは間違いだ。その間に相場水準は切り上がっている。マーケットにはマーケットの体重があるので、それを支えきれなくなる時がある。周囲の環境が変わらなくてもその時が来ればマーケットは大きく調整するし、もしそれが暴力的な調整だったら、経済の環境(ファンダメンタルズ)そのものをも変えてしまう。

「マーケットが経済環境を変える」というのはあまり理解されないかもしれない。しかし3万9000円近かった日経平均が、一時は8000円前後になった。それは日本という国を大きく変えた。つまりマーケットが日本という国の「経済の形」を変えたのである。その点が重要で、そのマーケットの変節点は周辺環境よりも「自身の体重」というケースが多いように思う。

各種の指標を見ていれば「今が体重過多かどうか」「今はまだ適切か」がある程度わかる。2018年の相場もマーケットが自らの体重を調整する局面があるかもしれない。問題は調整の幅と期間だ。

2018年のマーケットは波乱含み?

既に調整期に入ったかもしれないと思われる投資対象がある。ビットコインだ。昨年末に1ビットコイン=200万円の水準を一瞬突破して以降、高値更新ができていない。マーケット的に見ればそれまでの急激な上げの消化をしているとも受け取れる。もっとも「大きく下げる」との予想にも関わらず、短期的な上げ下げはあるものの大幅で持続的な下げには見舞われていない。

この新しい資産について最近見方を変えた人物がいる。去年のビットコイン特集で「ビットコイン批判の急先鋒」として紹介したJPモルガン・チェースのダイモン最高経営責任者(CEO)だ。「ビットコインを“詐欺”と評したことを後悔している。その背後にあるブロックチェーンの技術は本物だ」と述べたことが1月9日に報じられ、話題を呼んでいる。今年もビットコインは色々な意味で人々の興味を引くだろう。

ところで、今私が一つ気になっている数字がある。この原稿を書いている時点で9.67と10を割っている。リーマンショックの頃は90近くまで上がったこともある。こう書けば「米VIX(ビックス)指数」のことだと、勘の良い人はすぐに思い当たるだろう。日本では「恐怖指数」とも呼ばれるマーケットのボラティリティー(変動率)を示す指標だ。

S&P500を対象とするオプション取引の値動きを元に算出・公表され、投資家心理を示す数値として参照される。相場の先行きに不安が生じた時に数値が大きく上昇する特徴があり、過去の代表的な金融危機時には、

1998年8月 ロシア通貨危機 45.74
2001年9月 アメリカ同時多発テロ 43.74
2002年7月 エンロン不正会計事件 45.08

と、40台に上昇している。そのVIX指数を10年のチャートなどで見ると2017年は一番低い水準にまで下降しているのがわかる。ネットでも簡単に調べられるし、iPhoneの標準アプリ「株価」でも簡単にチェックできる。

株価は上がったが、VIX指数は下がった。今の相場には安定感があると考える人にとっての一つの根拠だ。しかしVIX指数が「今年は少し上がるのではないか」との見方も強い。筆者もその意見に賛成だ。つまり2018年相場はやや波乱含み、と。今年もそうしたマーケットを追い続けたい。一年間よろしく。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。