金融そもそも講座

ビットコインをどう考える懐疑派と肯定派、2つの見方

第198回

仮想通貨(具体的にはビットコイン)についての第2回だ。今回は米国の金融界の巨人2人のビットコインについての意見を紹介する。1人は銀行業務を手がけるJPモルガン・チェースの最高経営責任者(CEO)であるジェイミー・ダイモン氏。ビットコインに慎重というよりも強い疑念・反感を持つ。

もう1人は証券業務、トレーディングが中心のゴールドマン・サックスのCEOであるロイド・ブランクファイン氏。同氏はどちらかといえばビットコインを肯定し、そして事業への取り入れに前向きだ。1つのテーマについて意見を異にするケースは、「自社事業の立ち位置」の問題もあって米金融界ではよくあることだが、それにしてもビットコインについて2人の見方は大きく割れている。

利用者も増加?

本題に入る前に、最近筆者がビットコインに関して行ったことを2つほど紹介しておきたい。1つはビックカメラでビットコインを使用していくつかの買い物をしたこと。買ったのは11月に発売される安室奈美恵のアルバム「Finally」など。決済手段として便利だし、最近は従業員がビットコインでの支払い業務に慣れてきたと感じることも多くなった。何の問題、滞りもなくスムーズに進む。当初とは違う。

その関連でいうと、ビックカメラでのビットコインによる支払いは、当初の有楽町店など一部店舗限定から、今では全店で使えるようになった。傘下のコジマの一部店舗でも導入を始めた。同社は「想定を上回る利用があり、全国への拡大を決めた。訪日外国人だけでなく国内の利用者も多かったことから、郊外を中心に出店するコジマの店舗でも対応を広げる」としている。筆者もその利用者の1人ということだ。

もう1つ、ビットコイン関連で行ったことがある。それは先の分裂騒動の際に、その時持っていたビットコイン(BTC)と同量付与された「ビットコイン・キャッシュ(BCH)」をリアル通貨である円に転換したことだ。なぜそうしたかというと、BCHを実際に使う場がないこと、そして今後もビットコインが分裂を何回かする可能性が強まる中で、「いくつもの仮想通貨を持つことは煩雑」と思ったからだ。

実は付与されたものなので、筆者はそれに関して何らコストを支払っていない。しかしそれを売却するとなにがしかの(相場通りの)円貨が私の口座に入る。以前は「ビットコインが分裂」という報道があるとビットコイン相場が下がったものだ。しかし新たな分裂の際に同量の新通貨(前回はBCH)が付与されたために、「それ(同量の付与)を狙った買い」が入る状況もある。やや不思議な感じもするが、それが今のマーケットの実態だ。

一種の詐欺?

話を戻して、対立する2つの意見を紹介する。まず懐疑派というか否定派の見方。代表は最初に述べたようにJPモルガン・チェースのダイモンCEOだ。彼は金融分野へのテクノロジー導入には積極的な姿勢で知られるが、「技術と仮想通貨は分けて考える必要がある」と話した上で、現在のビットコイン・ブームに関して「投機により価格が上昇しているからといって価値が上がっているわけではない」と批判した。

その上でビットコインの価格高騰は「(17世紀のオランダで発生した)チューリップバブルよりひどい」「それは一種の詐欺だ」と酷評した。その上で、「自社にビットコイン取引に関わる社員がいれば規則違反だし、バカだからクビにする」とまで述べた。ただし話がややこしいのは、複数のコンピューターで情報を共有管理する仮想通貨の技術基盤「ブロックチェーン」には肯定的で、「政府は通貨をコントロールし、中央銀行がその役割を握る」と指摘している点だ。

ダイモン氏は「政府はまだビットコインを珍しい物として見ている。一段と普及して悪用が目立てば、締め出すだろう」と述べた。例として中国政府がビットコインの規制を強化したことを挙げた。つまり同氏は「中央銀行というバックがなければ“通貨”というものは存在し得ない」との意見のようだ。

確かに今のビットコインをはじめとする仮想通貨は「具体的な管理者不在」で取引されており、そこで使われているのはスカイプでおなじみのピア・トゥ・ピア(Peer to Peer、P2P)の分散型のネットワーク技術だ。それをベースとして、ネットワークに参加する全員で一つのブロックチェーン(取引記録)を作成している。中央銀行ではない。これはビットコインを保有する際の投資家のもっとも根源的な疑念、不安感を突いた指摘といえる。商業銀行トップという立ち位置もあるのだろうが、「通貨は中央銀行ありき」というスタンス。

当初は紙幣にも疑念

これに対して、「(業務への取り込みの)最終的な結論をまだ出していない」としながらも、ビットコインは自社の証券・トレーディング業務に役立つとの考えを披露しているのは、ゴールドマンのブランクファイン氏だ。

同氏の発言で一番注目されるのは「紙幣が金(ゴールド)に取って代わった時も、人々は懐疑的だった」というもの。確かにそうだ。今の世界はとっくに金本位制を脱している。しかし世界は長く金の裏付けを紙幣の価値の源泉としてきた。今はない。だから中銀のバックがなくても仮想通貨は人々がそれを認知すれば価値を維持できるとの見立てだろう。JPモルガンのダイモン氏の拒否発言に比して、仮想通貨の可能性を考えているように見える。

これは同社の業務からしてある意味当然だろう。金融調査・分析を手がけるオートノマス・ネクストによると、すでに70を超えるヘッジファンドがビットコインなどの仮想通貨に投資しているという。顧客がビットコインなど仮想通貨の取引を行っている以上、同社が「需要」に手をこまねいていることはできない。投資家が顧客のゴールドマンとしては、ビットコインを無視できない。

ビットコインなどの仮想通貨取引業務を正式に本業に取り込む際には、同社は仮想通貨の値動きの解説をしたり、顧客の注文を受けて売買を手がけたりすると見られる。また買い手と売り手をつなげるマーケットメーカーの役割を担う可能性もあるとされる。

同氏と同じような観点から仮想通貨取引に関心を寄せているシカゴ・オプション取引所(CBOE)のジョン・ディタース最高戦略責任者(CSO)は、「(仮想通貨の)デリバティブ市場創設の機は熟した」と述べている。対してシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)のブライアン・ダーキン社長は、「先物上場計画はない。規制が不透明」と述べて消極的だ。

ここまで見てきて1つはっきりしてきたことがある。それは仮想通貨、その1つの形としてのビットコインの今後に大きな影響を与えそうなのは、「世界の中央銀行の考え方・動き」だということだ。次回はこの問題を取り上げる。むろん各国の中銀の方向性はまだ決まったわけではないが、当然ながら各国で検討が進められている。(

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。