複数の要因による価格高騰の連鎖
小麦やトウモロコシなど「食糧資源」の価格と、原油や石炭など「鉱物資源」の価格が、いま同時に高騰しています。双方に共通するおもな要因としては、
- ・中国やインドなど新興国の需要増に供給が追いつかない
- ・ドル安などを背景に商品市場へ投資・投機マネーが大量流入した
- ・輸出制限やM&Aなどを通じて資源国の市場支配が進みつつある
――などが挙げられます。
これらを中心とした複数の要因がからみ合い、構造的に上昇しやすくなっているのが今日の資源価格の特徴と言えます。典型的な例として、食糧資源のひとつであるトウモロコシの需要増加と、それが他の穀物に及ぼした影響を見てみましょう。
ここ数年、中国などの新興国では経済成長による所得増加で牛肉や豚肉の消費量が大幅に増えており、その飼料として使われるトウモロコシの需要が急増しています。一方でトウモロコシは、自動車向けの新エネルギーとして注目を浴びるバイオ燃料(バイオエタノール)の原料にもなります。米国ではブッシュ大統領がバイオ燃料の増産計画と生産優遇措置を打ち出し、それを機に農家が食用ではなく燃料用にトウモロコシをつくるケースが増加しました。そのあおりを受けて、小麦や大豆など他の穀物の作付面積が減少し、これらの価格上昇に拍車をかけることになりました。
サブプライムローン問題により米国が断続的に利下げを実施したのにともない、世界の投資・投機資金がドルを離れて原油先物市場に向かったこともあって、1バレル=130ドル超の歴史的な原油高が現在も続いています。原油高は石油に代わるバイオ燃料の需要増、すなわちトウモロコシをはじめとする穀物の需給ひっぱく(供給不足)を連想させ、結果として穀物先物市場にも世界中の資金が大量に流れ込みました。それがまた穀物全体の価格を押し上げるという価格高騰の連鎖が続いています。
世界4大穀物と言われるトウモロコシ、小麦、大豆、コメの価格はいずれも過去2年から3年の間に2倍~3.5倍にはね上がりました。これらの輸出国であるBRICsなどの新興国では、食料品の値上がりによるインフレを抑えるため、生産した穀物を自国の消費や備蓄に回すケースが増えています。
資源が汎用品だった時代が終わりつつある
資源価格高騰の影響に関して2つの数字に注目してみます。ひとつは、総務省が発表する「全国消費者物価指数(CPI)」です。生鮮食品を除いたベースで、CPIの前年同月比上昇率は今年(2008年)の2月に1.0%、3月には1.2%と、10年ぶりの高水準を2カ月連続で記録しました。この数字を裏づけるように、日本国内では小麦粉や食用油、乳製品などの食品価格が昨年から今年にかけて続々と値上がりしています。
もうひとつは、日銀が集計する「交易条件指数」です。これは製造業がどれだけ収益を上げやすい環境にあるかを示すもので、原材料コストの上昇分を販売価格に反映しきれないと指数が低下します。交易条件指数は今年の4月に前年同月比で3.8ポイント低下し、統計を取り始めた1990年以降で最悪の数字となりました。とくに交易条件の悪化が著しい鉄鋼メーカーでは現在、4割近い鋼材の値上げを打ち出しており、今後は鋼材のユーザーである自動車や建設、船舶、家電など幅広い業種において販売価格へのコスト転嫁が広がっていく可能性もあります。
いま日本国内では、多くの分野で最終製品の価格が上昇に向かっています。国民の所得がそれほど上がらないなかでの物価上昇は、消費の落ち込みと企業収益の悪化、ひいては給与所得の減少とさらなる消費減退を招く恐れがあります。こうしたスタグフレーション(景気が後退するなかでの物価上昇)への危惧はもちろんありますが、今回の資源価格高騰は同時に、もっとシンプルな問題を日本に突きつけているような気がします。
それは、食糧や鉱物が安価な汎用品であった時代が終わりつつあるという現実です。食料自給率が40%を切り、鉱物資源をもとにハイテク産業で稼いできた日本はいま、その経済構造を根本から見直す必要に迫られているのかもしれません。