ヘッジファンドの破綻がきっかけ
サブプライムローン問題による世界の金融市場の混乱は、まずヘッジファンドから火の手が上がりました。今年(2007年)6月以降、サブプライムローンを証券化したRMBS(住宅ローン担保証券)などで運用していた世界中のヘッジファンドが、RMBS相場の下落にともなって巨額の損失を被り、清算や解約停止などの措置に追い込まれるケースが相次ぎました。
その背景には、高利回りを追求するあまり、米国の住宅バブルにもとづく危い投資を大きく膨らませてきたヘッジファンド側の問題も当然あります。しかし同時に、ファンドに運用を委託していた機関投資家などが投資資金の引き揚げに動いたり、ファンドにRMBSの購入資金を融資していた金融機関が追加で担保を差し出すよう要求したことなども、ファンドの破綻を加速させた原因のひとつと言えます。
そんななか、7月には米国の格付け会社が、昨年(2006年)中に発行されたRMBSを大量に「格下げ」しました。投資家のあいだでは高リスク商品に対する警戒感が急速に強まり、不安心理が世界の株式市場にも波及していきます。
米国の代表的な株価指数であるダウ工業株30種平均は、7月19日に終値で初めて1万4000ドル台(14,000.41ドル)に乗せた後、乱高下を続け、8月16日には終値で12,845.78ドルまで下落。日経平均株価も7月20日の18,157.93円から8月17日の15,273.68円まで、終値ベースで16%近くも下落しました。7月末から8月にかけて株安の連鎖は欧州やアジアの市場にも広がり、2月末に起きた上海ショック以来の大規模な世界同時株安となりました。
為替市場では、それまでの円安傾向から一転して急激な円高が進み、8月17日には1年2カ月ぶりに1ドル=111円台を記録しました。昨年来、ヘッジファンドなどは低金利の円を借りてドルやユーロなど高金利の通貨を購入し、それを各国の株式や債券などの購入にあてる「円キャリー(円借り)取引」を拡大させてきました。この取引が円安の大きな要因となっていましたが、世界同時株安による損失を穴埋めしたりするために、取引の一部解消を迫られることになります。借りていた円の返済用に市場で大量の円が買われることになり、それによって円高が急速に進んだのです。
事態収拾へ向けてFRBが利下げ
もうひとつ、今回の混乱に拍車をかけたのが、欧州の短期金融市場における「流動性不安」の拡大です。8月9日にフランスの最大手銀行BNPパリバが、傘下にもつ3つのファンドの解約凍結を発表しました。3つのファンドはいずれもサブプライムローン関連の金融商品で運用していましたが、これらの商品は市場で買い手がつかないため現金化できず、投資家からファンドの解約を求められても応じられなくなってしまったからです。
銀行などの経営が悪化するケースも出てくるのではないかと、欧州の投資家や市場関係者のあいだで一気に不安が広がりました。銀行間で資金をやり取りするインターバンク市場では、資金の出し手が極端に少なくなり、短期金利が急上昇。金融システムの機能不全も懸念されました。事態の沈静化に向け、ECB(欧州中央銀行)は8月9日から4営業日連続で金融市場に資金を緊急注入し、その額は合計で2,100億ユーロ(約35兆円=8月9日の為替レートで換算)にも上りました。
ECBの資金注入額があまりに大きかったことが、皮肉にも世界中の不安をかえって増幅させることになりました。サブプライムローン問題によって、どこの誰が最終的にどの程度の損失を被るのかよく分からないこともあり、世界の金融市場ではいわゆる「信用収縮」が拡大。実体経済に及ぼす影響も懸念されるようになりました。
FRBは8月17日に臨時の米連邦公開市場委員会を開き、公定歩合を0.5%引き下げて年5.75%とすることを決定しました。これにより市場はようやく落ち着きを取り戻し、日米ともに株価は反発。円高の進行にもひとまず歯止めがかかりました。
しかしながら、これでサブプライムローン問題が終わったわけではありません。リスクの所在も大きさも見えにくい投資がグローバルに広がっている以上、今後も何かひとつの事件をきっかけに再び連鎖的な混乱が広がる可能性は否定しきれません。当面は米国の住宅市況を注視するとともに、投資家も金融機関もリスクの再評価を急ぐ必要があるでしょう。