預貯金+αのリターンを安定化できる
そもそも私たちは、なぜ株式や債券などのリスク資産にわざわざ投資しようと考えるのでしょうか。その動機はほとんどの場合、資産運用にあたって預貯金の金利だけでは物足りないから、あるいは心もとないからだと思われます。つまり私たち一般個人にとっての投資とは、安全資産である預貯金に何らかのリスク資産を加えることにより、「預貯金+αのリターンを追求する」という意味があることになります。
その投資において問題となるのは、預貯金に何を加えるかということです。例えば日本株は、30年以上の長期で保有すると年率換算で10%以上のリターンが得られる(東証1部上場銘柄の平均値)という統計があるように、期待できる収益率の大きさという点では断トツです。しかし一方で、リスク(価格のブレ幅)も大きいため、10年程度の中期で見た場合には、収益率がマイナスになることも少なくありません。実際に1999年~2008年の10年間で、日経平均株価の騰落率はマイナス36%でした。この間、預貯金以外のリスク資産として日本株のみに投資していたら、私たちの資産は大きく目減りした可能性が高かったわけです。
ところが、そこに日本株以外のリスク資産も加えると、結果は大きく異なってきます。日本株式、日本債券、外国株式、外国債券という4種類のリスク資産へ25%ずつ均等に投資した場合、前述した1999年~2008年の10年間はもちろん、1990年から2008年までの期間中で「どの10年間」をとっても収益率はプラスになります。また、1970年から2008年までの期間中に存在する「すべての10年間」の収益率を平均すると、年率換算でプラス6%超になるというデータもあります。
4種類のリスク資産は、基本的にそれぞれ異なる値動きの性質(方向性や変動率)をもっています。これらを組み合わせることで、結果としてリターンをそれほど犠牲にすることなく、資産全体のリスクを低く抑える効果が得られるようになります。すなわち、複数のリスク資産を組み合わせたポートフォリオを構築することにより、私たちは「預貯金+αのリターンを安定化させる」ことが可能になるのです。
各資産への配分比率は自由に決めてよい!?
ポートフォリオに関連して非常に興味深い話があります。国内外のさまざまな研究を通じて、「運用パフォーマンス(資産全体の増減)の80~90%は、資産配分の比率をどうするかによって決まる」ことが分かってきたというのです。
この話は2つの大きな事実を示唆しています。ひとつは、資産運用にあたって個別の銘柄や金融商品を選んだり、投資のタイミングを測ったりすることよりも、ポートフォリオにおける資産配分の比率をどうするか考える方が、はるかに有益だということ。
ここで重要なのは、あくまでも資産配分の比率が運用成果に大きく影響することが分かっただけであり、どの時代にも有効でモデルとなるような資産配分の比率が分かったわけではない、ということです。将来の株価や金利がどうなるかは誰にも予測できないため、例えば今後10年間の資産運用において、ある資産配分の比率が有効かどうかは結果論でしか語ることができません。これは裏返せば、ポートフォリオの配分比率は私たちが自分のリスク許容度などに照らし合わせて、「好きに決めてよい」ことを意味します。
もうひとつの事実は、ポートフォリオの各資産にあてはめる銘柄や商品を選ぶ際も、それほど悩む必要はないということです。将来的に有望かどうかという視点で銘柄や商品を選んでも、ほとんど報われないことが分かっているのですから、それよりむしろ、コストや分かりやすさ、換金性といった「使い勝手の良さ」を重視して選んだ方がいいことになります。
こうして見ると、ポートフォリオの構築といってもそんなに堅苦しいわけではなく、意外と自由度の高いものであることが分かるのではないでしょうか。ただし、100年に一度と形容される世界的な金融危機を通じて、最近ではポートフォリオの配分比率を機動的に見直すべきではないかという議論も活発になってきました。そのあたりの話は次回以降、改めて考えてみたいと思います。