個人株主の反対票がM&Aを潰した!
2007年に入って目立つのが、企業の買収価格(株式交換比率)に対して、株主が「異議申し立て」をおこなうケースです。
2月22日に開かれた東京鋼鉄の臨時株主総会では、同社が株式交換によって大阪製鉄の完全子会社になる計画が、株主の反対によって覆されました。経営陣どうしが合意したM&Aが株主総会で否決されたのは、日本初の出来事です。
計画では、東京鋼鉄株1株に対して大阪製鉄株0.228株を割り当てる予定でした。ところが、東京鋼鉄の大株主である独立系投資ファンド、いちごアセットマネジメントが「株式交換比率が東京鋼鉄の株主に不利」だとしてこれに反対。東京鋼鉄の個人株主500人以上から委任状を集め、議決権の42%にのぼる反対票を確保したのです。この結果、東京鋼鉄は大阪製鉄との経営統合を断念しました。
4月には、HOYAとペンタックスの合併にも株主から「待った」がかかりました。両社が発表した株式交換比率は、ペンタックス株1株に対してHOYA株0.158株を割り当てるものでしたが、ペンタックスの大株主である独立系運用会社、スパークス・グループと米国フィデリティ投信がこの比率に難色を示しました。
株式プレミアムの不透明さに厳しい目
これを受けて、HOYAは統合手法を合併から、TOB(株式公開買い付け)による買収に切り替えました。これには、あくまでも経営統合への道を探りながら、ペンタックスの株主に割り当てる株式へのプレミアム(上乗せ)を引き上げることで、株主の同意を得ようという意味合いもあります。このTOB切り替えに対して、大株主は一応、高い評価を下しています。
一方、スパークスはHOYAとの統合そのものに反対とみられるペンタックス新経営陣に対しては反旗を翻しています。合併を推進した浦野文男前社長らの取締役留任を柱とする株主提案をおこないました。ペンタックス新経営陣は留任提案を「断固拒否する」としており、大株主と経営陣が対立する異例の構図になっています。
上記の2つのケースからわかることは、もはやM&Aが経営トップどうしの決断や判断だけでは立ち行かなくなってきたということです。とくに、被買収企業の株主に割り当てる株式へのプレミアムについては、その算定の根拠やプロセスに不透明な部分が多く、一般の株主や投資家からも厳しい目が向けられています。M&Aを実施する企業には今後、株主利益を意識した情報開示が強く求められることになるでしょう。
株主はもちろん、従業員や顧客、取引先も含めたステークホルダーが納得できるM&Aの実現へ向けて、日本企業が取り組むべき課題はまだ多いように思われます。