1. いま聞きたいQ&A
Q

法人株主が増えると企業経営や資本市場にどんな影響を与えるのですか?

2003年春に株価が底入れ反転して以来、株式市場には個人投資家が戻ってきています。今やインターネット取引を通じた個人投資家の勢いは、株式市場では一大勢力となっており、その多くは値動きの軽さを求めて新興市場に集まっています。その影響は取引所のシステム負担が急増するという形となって現れており、大阪証券取引所は5月26日、急増する売買注文件数にヘラクレスの取引システムの処理能力が追いつかないため、新規上場の申請の受付を一時停止すると発表しました。たいへんな時代になったものです。

今回の質問は法人株主=法人投資家に関するものです。まず「法人投資家」とはどのような人たちを指すのでしょうか。個人投資家の対極にあるものが法人投資家ということになりますが、もう少し厳密に法人投資家という投資主体を定義してみましょう。

毎年一回、全国の証券取引所が「株式分布状況調査」を行っています。今年も6月中旬には最新のものが発表されますが、昨年6月に発表された平成15年度分の調査から見てゆきましょう。そこでは株式市場における投資部門を次の6つに分類しています。

  • (1) 政府・地方公共団体
  • (2) 金融機関
  • (3) 証券会社
  • (4) 事業法人
  • (5) 個人
  • (6) 外国人

さらに「(2)金融機関」を次の7つに細分化しています。

  • (a) 長銀・都銀・地銀
  • (b) 信託銀行
  • (c) 投資信託
  • (d) 年金信託
  • (e) 生命保険会社
  • (f) 損害保険会社
  • (g) その他(信用金庫、信用組合、農林系金融機関など)

最初の大きな6つの分類に戻って、法人投資家とは「(2)金融機関」、「(4)事業法人」が該当することになります。「(6)外国人」には、外国の法人と外国の個人が含まれていますが、海外から日本の株式市場に投資する人はほとんどが外国の法人です。そこにはミューチュアルファンドや年金基金、ヘッジファンドなどが含まれます。したがって「(6)外国人」も法人投資家に含めていいでしょう。

「(4)事業法人」は、(1)~(3)に属する法人以外のすべての国内法人を指します。事業法人は、業務上のつながりを深めるために相手企業の株式を保有することが多いようです。最近でもライブドアがフジテレビの株式を保有したり、民放各社がインデックスの株式を取得するというケースがありました。

事業法人と金融機関の株式保有は、株式の持ち合いによる保有がほとんどでした。それがバブル経済の崩壊→株価の長期下落によって、1990年代半ばから持ち合い構造は徐々に崩れており、今では金融機関による株式持ち合いのウェートは大幅に低下しました。事業法人でもかなり下がっていますが、しかし最近では、敵対的買収に備えて事業法人同士が新たな持ち合いに踏み切る例も増えつつあります。

つまり、純粋に売買差益や配当金の受け取りを目的として株式に投資する法人投資家は、金融機関と外国人の2つの主体と見てよいでしょう。この2者を「機関投資家」と呼びます。事業法人は法人投資家ではありますが、機関投資家ではないと言えそうです。

前置きが長くなりました。質問にある「法人株主が増えると企業経営や資本市場にどんな影響を与えるのですか?」という問いには、2種類の場合に分けて考える必要があります。まず機関投資家である金融機関と外国人の株式保有が増える場合、次に株式持ち合いの主体である事業法人の株式保有が増える場合、のふたつです。

金融機関と外国人の株式保有が増える場合、機関投資家であるこれらの主体は、業務の一環として株式を保有しています。彼らがP社の株式を保有した場合、当然のことながら投資対象としてP社の株価が値上がりすることを要求します。

そのために大株主としてP社の経営陣に面会を求めて、より効率的な経営スタイルを求めたり、場合によっては株主総会に出席して、配当金の増額や経営陣の入れ替えを提案したりします。安易な公募増資や転換社債の発行による資金調達には、大株主として全株式を売却するという行動に出るかもしれません。社会的な不祥事などもってのほかです。P社の経営陣にとっては、大株主に彼らのような存在がいることで、日々の経営に対する無言のプレッシャーを受けることになるでしょう。

一方で、株式持ち合い構造の主体である事業法人の株式保有が増える場合は、功罪両面があると考えられます。プラス面としてはお互いが大株主に名を連ねることによって、本業のビジネスがスムーズに運びやすくなることです。大株主が固定するので敵対的買収からも自らを守ることもできます。公募増資も比較的スムーズに受け入れられるでしょう。

反対にマイナス面としては、お互いが大株主として親密になるあまりに、経営に対するチェック機能が働きにくくなります。買収を防止しようという意識が強く働くと、経営そのものが緊張感を欠き、ビジネスの効率が落ちる可能性があります。

経営とは、資産の配分のことです。どこに工場を建てるか、いつ新製品を投入するか、どの分野を重点強化するか、海外に進出するか、人材をどの分野に割り当てるか、どの企業を買収するか、あらゆる経営判断は、その会社の持っている資産を配分することです。それに対してチェック機能が働くか働かないかでその企業の命運が分かれてきます。シビアな株主の存在は経営陣にとってみればそれだけでたいへんですが、他の株主からは喜ばれることが多くなります。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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