1. いま聞きたいQ&A
Q

「三角合併」とは、どのような制度ですか?

シティグループと日興コーディアルグループが三角合併の第1号

今年(2007年)10月2日、米国のシティグループ(以下シティ)が、すでに傘下にあった日興コーディアルグループ(以下日興)を完全子会社化すると発表しました。子会社化の手法として、日興の株主にシティの株式を割り当てる株式交換方式が採用されていることから、これは今年5月に外国企業に解禁された「三角合併」の第1号案件となります。

三角合併とは、国境をまたいだ企業のM&A(合併・買収)において、株式交換を用いる手法のこと。三角合併では、たとえばA社がB社を吸収合併する際に、A社の親会社であるC社の株式を合併の対価として、B社の株主に渡すことが認められています。外国企業(C社)は日本国内に子会社(A社)を設立すれば、自社株(C社株)を活用して日本企業(B社)を比較的容易に買収できるわけです。

この関係をシティと日興の案件で見てみましょう。
シティは在日子会社であるシティグループ・ジャパン・ホールディングスを通じて、すでに日興株の約68%を取得しています。今年12月19日に開催される日興の臨時株主総会で承認を得た後、来年(2008年)1月に残りの約32%分にあたる日興株を自社株(シティ株)と交換する予定です。ここではシティグループ・ジャパン・ホールディングスがA社、日興がB社、シティがC社ということになります。

そもそも三角合併は、外資による対日直接投資を増やす目的から、当時の小泉内閣が昨年(2006年)5月に施行した「会社法」に盛り込んでいました。しかし、日本の経済界に「外国企業による買収リスクが高まる」との懸念が広がり、日本企業が買収防衛策の導入などを進める猶予期間を設けるため、解禁が1年間先送りされたという経緯があります。

被合併者の株主に求められる難しい判断

三角合併は、M&Aされる側の企業の既存株主にとって、どのような意味を持つのでしょうか。シティは日興株1株を1,700円と評価しているため、日興の株主には1株あたり1,700円に相当するシティ株が割り当てられることになります。シティは現在、東京証券取引所に上場を申請しており、早ければ今年中にも認められる見通しです。日興の株主に割り当てられたシティ株は、シティの上場後は東証で売買できるようになるわけです。

日興の株主がシティの1,700円という評価を低いと判断したり、割り当てられるシティ株の将来性に魅力を感じない場合には、現金での買い取りをシティに請求することもできます。ただし、その買い取り価格はシティ側との協議によって決まるため、どのぐらいの価格が適正なのかを判断する基準は不透明です。シティの提示価格に不満な際は、裁判所に訴えることも可能ですが、いずれにしても日興の既存株主にとって大きな負担となることは確かでしょう。

シティによる完全子会社化の計画が発表されて以降、日興の株価は上昇傾向にあり、10月24日現在の終値は1,643円と、シティの見積もった1,700円に近づいています。日興の株主にとっては、シティ株との交換に応じるべきかどうか、見極めが難しいところです。また、仮に日興の株主がシティ株との交換に応じた場合でも、シティは外国株として東証に上場することとなるため、シティ株を受け取る際には証券会社に新たに「外国証券取引口座」を開設する必要が出てきます。

こうしてみると、合併者である外国企業が日本国内での上場を予定している場合でも、被合併者である日本企業の株主は難しい判断や手間を余儀なくされることがわかります。今後は日本で株式を上場しない外国企業や、日本の投資家がほとんど知らない外国企業が日本企業に合併を求めるケースも予想されます。合併の賛否についても株式交換の是非についても、日本企業の株主が判断するために必要な情報がどれだけきちんと開示されるかが、三角合併の大きなポイントになると思われます。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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