1. いま聞きたいQ&A

この記事は2020年1月16日に更新されていますので、こちらをご参照ください。

日米欧の金融政策について、最新動向と今後の見通しを教えてください。
(2020年1月16日)
Q

長期金利と円相場は、今後どのように動くのでしょうか?(前編)

GDPで見ると長期金利は今後も低位安定

今回はまず、長期金利の動きについて考えます。

長期金利が変動する大きな要因には、経済用語でいうところの「期待名目GDP(国内総生産)成長率」と「リスクプレミアム」の2つがあります。名目GDP成長率とは、実質GDP成長率に物価動向の影響を加味したものです。すなわち、期待名目GDP成長率は将来的に期待される「実質GDP成長率 + インフレ率(物価上昇率)」ということになります。

日本では、名目GDP成長率(前年度比)が1997年度から2009年度まで、10年以上にわたってプラス2%を下回り続けており、マイナス成長も6回記録しています。ちなみに直近のデータでは、今年(2010年)の4~6月期に年率換算でマイナス3.7%でした。少子高齢化などの影響で経済成長率が低いうえに、デフレによってインフレ率がマイナスになっているからです。

こうした経済状況と歩調を合わせるように長期金利も低下の傾向が続いており、1997年から今日まで、長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは一時の例外を除いて、ほとんどの期間で2%を下回っています。期待名目GDP成長率という観点から見ると、画期的な経済の成長戦略が功を奏するか、あるいはデフレが解消されないかぎり、今後も長期金利は低位安定が続きそうです。

もうひとつの要因であるリスクプレミアムとは、国債など債券価格の下落リスクに応じた金利上乗せ部分のことです。財務省の発表によると、今年6月末の時点で国債と借入金、政府短期証券を合わせた日本の公的債務残高は904兆772億円となり、初めて900兆円の大台を突破しました。これは2009年度の名目GDP比で190%に相当し、先進国では最悪の数字です。

これだけ財政赤字が大きくなると、国債の信用リスクが顕在化して、長期金利の上昇という市場の警報装置が作動しても不思議ではありません。ところが実際には、運用難やリスク回避志向の高まりから逆に国債の人気が高まって、大量発行しても安定的に消化される状況が続いています。最近では「国債バブル」を危惧する声も高まっているほどです。

国債消化シナリオが崩れれば高騰もあり得る

以前にも紹介しましたが、日本が大量の国債を安定消化できるのは、家計の豊富な貯蓄が預貯金や生命保険などを通じて国債を支えているからです。日本では現在、国債の95%を国内の金融機関や企業、個人が所有していますが、そのうち銀行(約290兆円)と生損保(約140兆円)、個人(約40兆円)で半分以上を占めています。また、日本の個人金融資産は約1,450兆円あり、その内訳は現金・預金が約800兆円、保険・年金の準備金が約400兆円です。つまり、銀行や保険会社にはまだ多くの「国債用資金」が控えているといえるわけです。

問題は、こうした国債消化シナリオが崩れたときです。日本の家計貯蓄率はすでに2%台まで落ち込んでおり、この先、高齢者による貯蓄の取り崩しが進めば、貯蓄率がマイナスになる可能性もあります。デフレによる賃金の伸び悩みや超低金利も加わって、個人金融資産が減少に向かう恐れもあるでしょう。

家計が国債を支え切れなくなると、銀行などは国債の追加購入はもちろん、保有を継続することさえ難しくなるかもしれません。いよいよ日本は国債の消化を海外マネーに頼らざるを得なくなるわけですが、その場合は財政赤字による国債の信用リスクが強く意識されるため、金利を高く設定する必要に迫られます。結果として長期金利は上昇に向かい、最悪の場合、国債価格が暴落して長期金利が高騰することも考えられます。

ここ数年、日本の家計による国債と地方債の「買い余力」は、毎年50兆円以上のペースで減少しています。今後もこの状態が続くようだと、10年後の2020年ごろには買い余力がゼロになると予測されています。もちろん、経済成長による税収増や徹底した歳出削減、消費税率の引き上げなど、国家財政の健全化が実現すれば事態は大きく変わってきます。しかし言い換えるならば、その期限はあと10年しかないことになります。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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