1. いま聞きたいQ&A
Q

企業が「自社株買い」をするのはなぜですか?

自社株買い。企業が自らの資金を使って、株式市場から自社の株を買うことです。企業が自社株買いを行う理由は、一言で言えば、株主価値を高めるためです。自社株買いを説明するために、以下に少し詳しく「株主の価値」という観点に立った企業の活動を説明いたします。

株主から見た場合、株式の持つ価値とは、その企業が株主に対して支払う配当金にあります。現在の配当金だけでなく、将来にわたって支払われる配当金を現在の価値に換算して(割り引いて)、それを合計したものが株式の価値です。(Q&A「株式の価値とは何の価値なのですか?」参照)

企業は、その年に稼ぎ出した利益の中から、株主に対して配当金を支払います。利益ばかりではありません。たとえば、以前から持っていた土地を売却した場合、その売却代金の中からも配当金を支払うことができます。しかし大抵の場合、土地の売却はその年限りのことなので、何年にもわたって同じようなことを続けるわけにはいきません。基本的に配当金は、企業が1年間で稼いだ利益の中から支払われるものです。

企業の利益とは、1年間の売上高から、その売上を稼ぐためにかかった費用を差し引いたものです。ここでいう費用とは、従業員への給料、製品の原材料、借入金の金利、設備の減価償却費などを指します。

1年間の経営活動ののちに、企業が稼ぎ出した利益はその後どのように使われるのでしょうか。一般に次のふたつに分かれます。ひとつは、株主に対して配当金として支払われるケース。もうひとつは、企業の内部にプールされて将来の利益を生む原資に回されるケースです。後者は再投資のための「内部留保」と呼ばれています。

内部留保された利益は、借金の返済に回されて金利負担を減らすか、あるいはもっと積極的な方法をとって、企業がもっと大きく成長するための設備投資(または研究開発投資)に振り向けられるか、経営者はいずれかの判断を下します。このような判断は、すべて「株主の価値」を高めることを目的として行われることになります。

配当金をたくさん支払えば、極端な例として、1年間に稼いだ利益を全額配当金に回してしまえば、その年の株主の価値は高まります。しかし、企業の手元には将来の成長原資が1円も残りません。現在の株主が翌年以降も株主のままで残ってくれるかどうか、非常に不安定になります。

同じように、1年間の利益をすべて借金の返済に回せば、その年以降に支払う金利は減少するため、翌年からの利益が増えることになりますから、株主の価値は高まります。しかしこの場合も、将来のビジネスの成長という面では物足りなさが残ります。

そこで年間の利益を、すべて配当金の支払いや借金の返済に回さずに、その一部を内部留保として企業の中にとどめておくという選択をします。企業は内部にとどめておいた資金を使って、新たな成長のために投資を行ったとします。投資というとわかりにくいのですが、具体的には、新工場を建てたり、営業所を増やしたり、海外市場を開拓したり、新製品の開発するための研究費にしたり、他社の商標権を買い取ったり、別の企業を丸ごと買収したりします。

このような活動を行うことによって、企業は次のステップへと成長を続けることができます。株主の手元には直接的な見返りはなくても、その企業の株主は、将来性に富んだ企業の株式を保有し続けることで満足が得られます。このような一連の決断(企業経営者の経営判断)が不断に繰り返されて、企業や経済は成長してゆくことになります。

問題はここからです。企業が次なるステップへの成長を目指して、稼いだ利益を新しい投資に振り向けたとしても、それが100%成功するという保証はどこにもありません。巨大な工場を建設したとたんに景気の風向きが変わってしまい、せっかく建てた工場がまったく使われていないというケースもよくあります。また、社運を賭けて新製品を開発しても、市場では不人気でさっぱり売れず、山のような在庫を抱えて倒産してしまうこともしばしばです。

企業経営者も人間ですから、必ずしも常に正しい判断を下すとは限りません。企業による再投資は、成長のために新しい収益の獲得を目指して行うものですが、それが裏目に出て利益を生み出すことなく、反対にマイナスの効果をもたらすこともあるわけです。それなら何も考えずに、利益の全額を配当金に回した方がよかったという意見も出てきます。

そこで株主の価値を高めるために、企業が選択できる第4の方法として「自社株買い」が登場します。市場から自社の株式を買い入れて償却すれば、企業の発行株数が減少します。そうすることによって、利益の絶対額は変わらなくても、一株当たりの利益は上昇することになり、それだけ株主の価値は高まります。

企業の一株当たりの利益を株価で割った値を「株式益利回り」と言います。計算式は(一株当たり利益÷株価)です。これはPER(株価収益率)の逆数を表していますが、この値が金利水準より高ければ、企業は自社株買いを行うことが有利と見られています。

以上をまとめてみると、

  • (ア) 企業は、株主の価値を高めるために行動しています。
  • (イ) 株主価値を高めるために、稼いだ利益の使い道として、(1)配当金を支払う、(2)借金の返済をする、(3)新しい成長分野に投資するために内部留保する、の3つの方法が考えられます。
  • (ウ) さらに第4の方法として「自社株買い」があります。

ということになります。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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