株価対策として実施する企業が急増
「自社株買い」とは、企業が余裕資金などを使って、過去に発行した自社の株式を市場などから買い戻すことを言います。
今年(2007年)4月~9月に日本企業がおこなった自社株買いの総額は、前年同期比28.8%増の2兆6,800億円にのぼり、半期ベースでは過去最高の数字となりました。この間、自社株買いの実施額がとくに大きかったのは、みずほフィナンシャルグループ(3,710億円)、キヤノン(2,500億円)、三菱商事(1,501億円)など。これらを含めて8社が1,000億円以上の大規模な自社株買いを実施しています。
直近では、三菱UFJフィナンシャル・グループが11月1日、初めての自社株買いを2008年3月期中に実施することを発表しました。1500億円を上限に買い付ける予定。前述のみずほフィナンシャルグループは今年上期に続き、同下期中にも自社株買いを検討しているようです。
ここにきて日本企業が自社株買いに積極的な背景には、株価対策や株主還元策としての意味合いがあります。企業が自社株を買うと、市場で流通する株式量が減少するため、需要と供給の関係からその後の株価上昇につながりやすくなります。また、自社株買いはいわば企業が「自社株が割安な水準にある」ことを一般に示すようなものなので、投資家に対するアナウンス効果も期待できます。
今年の夏に表面化した米国のサブプライムローン問題によって、日本の株式市場は調整を余儀なくされました。日本企業による自社株買いの増加も、株価が下落した8月から本格化し、買い入れ額は8月と9月だけで1兆3,500億円に達しています。株価水準を見ながら急遽、自社株買いに踏み切った企業も多く、たとえば三菱商事は8月22日の臨時取締役会で、同社として初めての自社株買い実施を決定しました。
株主還元策としては中途半端な面も
企業が買い取った自社株に対して「消却」という手続きを取ると、その株式は株主資本から取り除かれて、いわば消えて無くなったと同じことになります。こうして発行済み株式数が減ると、1株あたり利益(純利益÷発行済み株式数)は増加します。ちなみに、株価の割安度を測る指標のひとつPER(株価収益率)は「株価÷1株あたり利益」で表されますが、その分母である1株あたり利益が増えると、PERの倍率は自動的に下がって株価の割安感が増すことになります。
このように、自社株買いには「1株あたり利益の増加」というかたちで、自社の利益の一部を株主に支払うという意味があり、配当と同様に株主還元策のひとつと位置づけられています。最近では、配当金と自社株買いの合計額が純利益に占める割合(総還元性向)を、企業の株主に対する意識の高さを測る材料として注目する動きもあります。
ただし、自社株買いには配当と大きく異なる点があります。配当がすべての株主に現金で利益還元がおこなわれるのに対して、自社株買いでは利益還元が企業の裁量に任されていることです。企業によっては自社株買いした株式を消却せず、「金庫株」としてそのまま保有し、将来の株式交換によるM&A(企業の合併・買収)などに備えるところもあります。実際に今年4月~8月の自社株消却額は、前年同期比で3分の1と大きく減少しました。
金庫株として企業が保有するケースでは、需給関係の改善によって一時的に株価上昇への期待は高まりますが、将来的にいつまた増資や売却というかたちで株式が市場に出てくるか分かりません。株主や投資家にとっては本当の意味での利益還元にはならないわけです。日本企業は今後、自社株買いという資本政策を誰のために、どのように実施していくのか、いまいちど考え直す必要があるかもしれません。