株式の価値・・・古くて新しい問題です。普段の株式市場で私たちは、株価の水準を判断する上で「この銘柄は割安だ」、「こちらの銘柄は割高に見える」などとごく普通に言い表しています。この時、株価が割高(割安)と判断する時の判断基準は、いったい何を用いているのでしょうか。
一般的に、割高(割安)の判断には、PER(株価収益率)が用いられることが多いようです。これは、その企業の一株当たり利益に対して、株価が何倍まで買われているかを示した投資指標です。
A社は一株当たり利益が50円で、この時の株価は1000円でした。この場合、A社のPERは20倍ということになります(1000円÷50円=20倍)。また同じ業界のB社は一株当たり利益が50円で(A社と同じ)、株価は2000円でした。この場合、B社のPERは40倍ということになります(2000円÷50円=40倍)。
ほかのすべての条件が同じだとしたら、2000円のB社は1000円のA社よりも割高だということになります。しかし通常は、2つの企業の条件がすべて同じということはほとんどなく、2000円のB社の株価も1000円のA社の株価も、それなりに妥当なものであるということになります。
割高、割安という表現があるのなら、株価には基準になるべき適正価格というものがあるはずです。理論価格と言ってもよいでしょう。日立やNTT、三井不動産という日々変化している企業体に、理論株価というものが存在するのでしょうか。
別の言い方をすれば、2000円のB社の株価と1000円のA社の株価の差はどこから生じてくるのでしょうか。このような問題が「株式の価値」です。これらを研究テーマとしている領域が証券分析、証券投資論というものです。証券の適正価格を探り出す領域は、掘り下げていけばオプションの理論価格を決定する金融工学につながってゆきます。
日本証券アナリスト協会が認定している「証券アナリスト」資格の検定試験は、「証券分析とポートフォリオ・マネジメント」、「財務分析」、「経済」の3科目で構成されていて、この中の「証券分析」で株式の価値が扱われています。株式の価値の算定法は有力説が何種類かあって、厳密に突き詰めてゆくとそれらはいずれもかなりむずかしい理屈になります。
その中で最も一般的な理論を2つ紹介します。
(1)純資産法
貸借対照表上の「一株当たり純資産」が株式の価値を表す、という考え方です。貸借対照表の純資産は自己資本、株主資本とも呼ばれますが、そこには資本金、資本剰余金、利益剰余金が含まれます。
理論株価=1株当たり純資産
株主が出資した資金は、すべて資本金と資本剰余金に分けて示されます。また、企業が稼ぎ出した利益は利益剰余金として社内に積み立てられています。これらを合計したものが株主の持ち分である、という考えに基づいて、ここでは「一株当たり純資産」が株式の価値を表すものとしています。この考え方はPBR(株価純資産倍率)の考え方につながってゆきます。
(2)配当割引モデル
株式の価値は、その企業が今年以降、将来にわたって支払い続ける配当金の総額に等しい、という考え方です。ある投資家が、投資先の企業の株式を長い期間にわたって保有し続けた場合、その間に受け取ることになった配当金の総額が、最初に投資した時の理論株価になるわけです。
配当割引モデルの考え方で大きなポイントとなるのは、将来の配当金を現在の金額に「割り引いて」合計するという点です。「割り引く」ということは・・・
たとえば今の金利が2.0%とした場合、現在の100円は1年後には102円になります(100円×1.02=102円)。この関係を逆に考えると、金利と配当金が将来にわたって変わらないとした場合、1年後に支払われる配当金100円は、現在は98.04円であることになります(100円÷1.02=98.039円)。同じように2年後に支払われる配当金100円は、現在は96.12円のはずです(100円÷1.02÷1.02=96.116円)。
このように、将来受け取るはずの100円を、現在の価値に計算し直す作業を「(現在価値に)割り引く」と呼んでいます。
配当割引モデルでは、このような計算を何年にもわたって繰り返し行って、それらをすべて合計します。そのように合計して求められた値が、すなわちい現在の理論株価、株式の価値になります。
金利はひんぱんに変動しますし、企業の配当金も年によって変わります。それを現時点ですべて予想して計算するのは非常にむずかしいのですが、米国ではこの配当割引モデルが広く定着しています。配当金を合計するだけではなく、予想利益を合計して求めたり、配当や利益の成長性を考慮したりして、より正確な理論株価を求める工夫もなされています。
冒頭のご質問にありました「一株あたり資本+配当の現在価値」の式は、(1)の純資産法に近いものですね。(2)の配当割引モデルにも少し似ていますが、惜しくも少しずつ違っていました。2000円のB社の株価と1000円のA社の株価の差がどこから生じているのか、なんとなくわかっていただけましたか(ここではなんとなくで結構です)。