企業の成長を買うか、株価の戻りを買うか
「グロース株」とは、企業の売り上げや利益の成長率が高く、その優れた成長性ゆえに株価の上昇が期待できる株式のことで、「成長株」とも呼ばれます。革新的な商品やサービスを通じて市場シェアを拡大し、増収増益を続けているような企業が多く、一般に投資家の人気が高いという特徴があります。ひところのIT株のように、ほんの数年で株価が数倍~数十倍に上昇するものも珍しくありません。
「バリュー株」とは、売り上げや利益の成長がさほど期待できないなどの理由から、現時点の株価が本来的な企業価値を考慮した水準に比べて安いと考えられる株式のことで、「割安株」とも呼ばれます。知名度の低い企業が多いことから、堅実経営を続けているような場合でも、投資家の人気は低いのが一般的です。値動きも値幅も地味になりがちで、いったん売り込まれたまま放置されているケースも目立ちます。
投資家にとってグロース株への投資は、現在成長中の企業が今後も成長すると信じて資金を投じることを意味します。すなわち、「企業の成長を買う」わけです。一方でバリュー株への投資は、実力より低く見積もられた企業の評価(株価)が、いつか見直されると信じて資金を投じることといえるでしょう。いわば「株価の戻りを買う」わけですが、その株価上昇がいつ、どのような要因で起こるかは分からないのが実状です。
一見すると、投資家がリターンをあげやすいのはグロース株の方ではないかと考えがちですが、実際にはそうではありません。野村証券金融工学研究センターが日本の全上場銘柄を対象に算出している運用スタイル別の株価指数を見ると、過去30年間において、バリュー株の指数は多くの期間で市場平均(総合指数)を上回り、市場平均に対する累積の超過リターンも80%近いプラスを記録しています。逆にグロース株の指数は、多くの期間で市場平均を下回り、累積の超過リターンは80%以上のマイナスとなっています。
企業価値の見直しは想像以上に起こっている
グロース株は通常、株価の割安さを示す指標であるPER(株価収益率)が平均より高く(割高に)なっています。それは、企業の成長に対する投資家の期待が付加価値としてすでに株価に織り込まれているからです。
例えばいま、PERが40倍の銘柄があるとしましょう。今年(2010年)の6月1日現在、東証1部上場全銘柄のPERの平均値は17倍程度です。「PER=株価÷EPS(1株あたり純利益)」なので、株価が変わらないとして、PERが40倍から17倍に下がるためには、EPSが現在の2.35倍になる必要があります。これは今後5年間にわたって年率19%の利益成長を続けることを意味しており、その達成を前提として、現在の株価水準が形成されていることになります。
このケースでは、企業が投資家の期待を上回る30%や50%といった利益成長を続ければ、株価はさらに上昇すると考えられます。しかし逆に、成長率が予想を下回ったり、増収増益が途絶えた場合などには、株価は下落に向かいやすくなります。多くの企業では、事業規模の拡大や競合企業の市場参入にともない、成長率は鈍化する傾向にあります。つまりPERが高いグロース株への投資は、その企業がよほどの成長余力を備えていない限り、リターンにつながりにくいといえるのです。
バリュー株のなかには、もうひとつの代表的な株価指標であり、企業の解散価値ともいわれるPBR(株価純資産倍率)が1倍を割り込んだ銘柄がたくさんあります。解散価値の観点からみるとPBRは本来、1倍を超えているのが自然な状態ですが、今年6月1日現在、東証2部上場全銘柄のPBRの平均値は0.65倍です。成長率は低くても無借金など財務状況が良好で、利益や配当をきちんと出しているような企業も結構あります。こうした企業価値がいつか見直されて、株価がPBR0.65倍の水準から1倍の水準に上昇するだけで、約54%のリターンが期待できることになります。
日本のみならず米国でも、バリュー株は市場平均を上回る投資成果をあげています。これは企業価値の見直しが現実に、私たちの想像以上の頻度で起こっていることを示しています。ただし、株価が企業の解散価値を割り込んだ銘柄には、倒産リスクが高いものも含まれているので、注意が必要です。バリュー株投資にあたっては、自己資本比率が50%以上で、借金の少ない企業を選ぶのが賢明といえるでしょう。