副作用が目立つなか、QE3には慎重な構え
FRB(米連邦準備理事会)のバーナンキ議長は今年(2011年)4月27日に、いわゆるQE2(量的緩和第2弾)を当初の予定どおり、6月末で終了すると発表しました。ところが、その直後から米国経済には停滞感が強まってきます。
ダウ工業株30種平均は4月29日に年初来高値をつけて以降、6月10日まで6週連続の下落を記録。5月の雇用統計と製造業景況感指数が市場の予想を大きく下回ったほか、3月の住宅価格指数(全米主要20都市平均)が金融危機後の最安値を更新するなど、ここにきて経済指標はいずれも低調な数字を示しています。
米国では2011会計年度(10年10月~11年9月)に、1兆6,000億ドル超という史上最悪の財政赤字を計上しました。オバマ政権は野党・共和党から財政赤字の削減へ向けた強い圧力を受け、追加的な景気刺激策はもはや打ち出せない状況です。そのため市場では、早くもQE3(量的緩和第3弾)を期待する声が上がっています。
QE2の終了後も、FRBは現在の資金供給量を維持し、事実上のゼロ金利政策も続ける方針ですが、さらなる量的緩和の導入に関しては慎重な構えを崩していません。2008年の金融危機後、2度にわたって実施した量的緩和の副作用と、それにともなう国内外からの批判が目立ってきたからです。
FRBの大規模な資産購入を通じて米国から世界へとあふれ出した余剰マネーは、中国など新興国のインフレや不動産バブルの一因となりました。また、原油相場の上昇によるガソリン高が、回り回って米国の企業収益や中低所得層の消費を圧迫し、景気の足を引っ張っているという批判もあります。量的緩和によって中央銀行が国の財政赤字を穴埋めしているという指摘も根強く、市場の受け止め方次第では、ドル安の急進や長期金利の急上昇といったリスクも抱えています。
お金の流動性を高めて景気回復の基盤づくりに貢献
米国内で「物価安定」と「雇用最大化」の2つを実現することが、FRBの任務として法律に定められています。その観点からガソリン高や9%を超える失業率をみると、量的緩和が十分な効果をもたらしていないようにも思えます。ただ、そもそもFRBによる量的緩和の最大の狙いは、米国内の景気を直接的に刺激することではなく、金融・資本市場を安定させて、その後の景気回復の基盤をつくることにありました。
例えば2008年11月に始まったQE1(量的緩和第1弾)では、ドル紙幣の増刷によって将来的なインフレ期待を高め、長期金利の上昇を促しました。同時に短期金利(政策金利)をほぼゼロの水準に引き下げることで、銀行などは容易に「長短金利差」を稼げるようになり、金融危機で大きく揺らいだ金融システムの安定化につながったのです。
昨年11月にQE2を始めるにあたっては、デフレ懸念も高まるなかで、株価上昇を目標にするという異例の方針を公言しました。大量の資金供給を通じて景気好転への期待感を高めるとともに、余剰マネーが株式市場などのリスク資産に流入することを促し、いわゆる資産効果によって主に富裕層の消費を刺激したわけです。
こうしてみると、FRBは量的緩和をその時どきの優先テーマに沿って、米国内で「お金の流動性」を高めるためのものと位置付けてきたことがわかります。物価安定や雇用最大化といった本来的な任務には、むしろ今後の出口戦略のなかで十分な時間をかけながら取り組んでいくのではないかと思われます。
ところで、昨春に4%近くまで上昇した米国の長期金利は、今年の6月に入って3%を割り込みました。すなわち、米国債が大いに買われているわけです。QE2の打ち切りを目前に控え、財政再建をめぐる米国議会の混乱も続くなか、本来なら売り圧力が高まってしかるべき米国債が、なぜいま買われるのでしょうか。
米国の景気後退懸念や日本の大震災による経済的影響、欧州の債務危機、中国の不動産バブル、中東の政治混乱など、世界中に広がる不安心理が安全資産である米国債に資金を逃避させているという説もあります。一方で見逃せないのは、FRBの量的緩和がもたらした余剰マネーが原油価格を上昇させ、世界中の企業や個人が支払う原油代金も上昇したこと。その資金は中東などの産油国に流れ、多くが米国債の購入に使われています。
つまり見方によっては、現在の米国債購入を支えて長期金利の安定、ひいては過度なインフレ進行の抑制に一役買っているのは原油を消費する世界中の企業や個人であり、そのきっかけをつくったのはFRBの量的緩和だということになります。FRBが意図していたかどうかはわかりませんが、量的緩和は副作用だけでなく副産物も生み出したといえるのかもしれません。