財政再建より先にやることがある!?
今年(2011年)に入って、日本の財政再建への取り組みが現実味を帯びてきました。1月14日の内閣再改造にあたって、菅首相は経済財政担当大臣に与謝野馨氏を起用。財政再建論者として知られる与謝野氏は早速、6月をメドに消費税増税を含む税制と社会保障の一体改革案をまとめるとの考えを示しました。
こうした民主党政府の方針に対して、有権者の間では賛否両論が渦巻いていますが、エコノミストなど経済の専門家の間でも、日本はいますぐ財政再建に取り組むべきなのかどうか、意見が割れている状態です。
財政再建に否定的なものとして、例えば「日銀が金融緩和をさらに進めるべき」という意見や、「政府が大規模な財政出動をおこなうべき」という意見があります。両者ともに、バブル崩壊後の日本が橋本政権の緊縮財政をきっかけとしてデフレスパイラルに陥った経験を踏まえ、日本が景気回復とデフレ脱却を目指す現在の段階で、あえて財政再建を急ぐことは逆効果であると考えます。その上で、やるべきことはもっと他にあると主張しているのです。
金融緩和の推進を求める人たちは通称「リフレ派」と呼ばれ、かなり強硬なインフレ待望論を展開することで知られています。リフレ派は、日本経済が長期低迷に陥っているのはデフレが原因であり、デフレを退治することがすべてに優先すると考えます。
デフレの退治にあたっては、日銀が量的緩和や信用緩和も含む徹底した金融緩和をおこない、緩やかインフレを誘発すればいい。インフレになれば実質金利が下がるため、家計や企業の資金需要は拡大するし、財政赤字も実質的に縮小する。逆にいうと、現時点でそれらが実現していないのは、日銀が必要な金融政策を実施してこなかったからだ―というのがリフレ派の認識です。
財政出動を求める人たちは、家計も企業も借金の返済や現金の確保に走る、いわゆる「バランスシート不況」のもとでは、中央銀行がいくら金融緩和を進めても消費や設備投資などの需要は誘発されず、効果は期待できないと主張します。そんな中、資金の出し手として頼れるのは政府だけであり、まずは政府が国債発行を通じて低利の資金を調達し、大規模な財政出動によって需要を創出することが先決だという考え方です。
財源の効果的な使い道が見えてこない
対して「財政再建を急ぐべき」と主張する人たちは、日本のソブリンリスク(国家の信用リスク)が近い将来に市場で問題視され、国債価格の暴落や金利の急上昇につながることを懸念しています。その背景には昨年(2010年)、同じ財政赤字の問題からEU(欧州連合)やIMF(国際通貨基金)の資金援助を受け、事実上それらの監視下に入ったギリシャとアイルランドへの意識があると思われます。
実際に、現在のようなペースで日本の累積債務が増加し続けると、2020年代には国債発行残高が家計の金融資産残高を上回ると見られています。銀行が貸出先企業による過剰債務の返済分を国債購入にまわすという従来の図式も、企業の債務返済が進むとともに終わりが見えてきました。これまで日本の国債消化を支えてきた家計も銀行も、国債購入余力に限界が近づいており、いま多少の無理をしてでも国債増発に歯止めをかけることの優先順位は高いというわけです。
国家の財政問題とは言い換えれば「財源問題」であり、結局のところ、財源として何をあてるかが意見の分かれ目になるのでしょう。その観点で見ると、リフレ派は紙幣の増刷、財政出動派は国債発行(日本国民からの借金)、そして財政再建派は増税や社会保障の縮小という形の国民負担を、それぞれ財源として考えていることになります。
どの意見もいまひとつピンとこないのは、こうした財源に関する議論はあるものの、財源を通じて得た資金をどのような目標に向けて何に使えば最も効果的かということが、はっきりと見えないからではないでしょうか。例えばリフレ派や財政出動派は、資金供給によるGDP(国内総生産)の増大を期待していると思われますが、どの分野に資金を投入すれば大きな需要創出の効果が得られるのか、誰にも分からないのが現実です。
財政再建派にしても、国民負担の増大によって経済活動が全体的に収縮へ向かう可能性が高い中、どのようにして景気回復とデフレ脱却を図るのかという明快なプランは見えてきません。「経済の低成長もやむなし」と考えて、低成長を前提とした新たな社会や経済の体制づくりを目指すべきという主張もありますが、日本国民は本当にそれを受け入れるのでしょうか。
逆にいうと、明確な目標に向けて最大限の効果が得られるのならば、手法(財源)は何だっていいわけです。この問題は早晩、形から中身へと焦点が移っていくと思われます。