1. いま聞きたいQ&A
Q

今年こそ、日本経済は本格的な再生へ向かうのでしょうか?(後編)

米国の景気拡大により輸出数量が増加へ

今年(2014年)の日本経済にとって、4月に実施される消費増税は、やはり大きな懸念材料のひとつと言わざるを得ないでしょう。前回(1997年)実施時ほどの影響は出ないにしても、個人消費の駆け込み需要の反動から、一時的な景気の停滞は避けられそうにありません。4月以降は個人消費の低迷を受けて物価が上がりにくくなり、デフレ脱却の進行にブレーキがかかる可能性も指摘されています。

そんななか、個人消費に代わる景気のけん引役として期待されているのが輸出です。昨年12月に日本経済研究センターがエコノミスト41人を対象に行った調査によると、2014年度の日本の輸出は前年度比で6%増えるという予測が出ています。今後も円安傾向が続くことに加えて、今年は主要な輸出先である米国の景気拡大が進みそうなことが背景にあります。

日本企業の業績改善に円安が及ぼす効果は、これまでのところ円換算額の増加(為替差益)が中心といわれています。米国の景気回復が軌道に乗れば、そこに輸出数量の増加という効果も加わるため、いよいよ本格的に円安の恩恵がもたらされると期待できるわけです

しかし以前も紹介したように、今日では円安でも輸出が増えにくくなっているのが実情であり、米国で景気拡大が進んだとしても、それがどこまで輸出増加につながるのか定かではありません。貿易収支に加えて経常収支でも赤字が続く日本としては、米国という巨大な「外需」の復活を機に、何とか収支改善への道筋をつけたいところでしょう。

気になる米国経済の動向ですが、FRB(米連邦準備理事会)は昨年12月に量的金融緩和の縮小を決定しました。具体的には、FRBによる米国債などの証券購入ペースを今年1月から100億ドル減らし、月額750億ドルにするというもの。規模としてはそれほど大きくありませんが、この金融緩和縮小をFRBの「景気底打ち宣言」と捉える専門家もいるなど、市場はすでに米国の景気回復シナリオを織り込み始めている模様です。

米国労働省が発表した昨年12月の雇用統計によると、景気動向を敏感に反映する非農業部門の雇用者数は前月に比べて7万4,000人の増加にとどまりました。20万人程度だった事前予想を大きく下回ったため、為替が円高・ドル安に振れるなど、市場には多少の動揺が広がっています。一方で、失業者数が前月から50万人近く減ったことにより、失業率は6.7%と2008年10月以来、5年2カ月ぶりの低水準となりました。個人消費や住宅市場などの指標も改善に向かっており、米国経済の先行きはおおむね明るいと見てよさそうです

強い国力への自信が経済ダイナミズムを生む?

米国が日本経済に及ぼす影響としてもうひとつ、政治的な側面にも注目が必要です。すでに1年以上も続く今回の円安・ドル高局面を、米国が半ば黙認していることは周知の事実ですが、そこには自らの国益として「強い日本経済」を求めるという米国の政治判断が見え隠れします。

その視線の先にあるのは、言うまでもなく中国の存在です。巨額の財政赤字による予算制約から軍事費の削減を迫られている米国が、台頭著しい中国への対抗手段として同盟国・日本の国力回復を期待するのは、経済的にも地政学的にも自然な流れと考えられます

興味深いのは、こうした米国の政治的思惑が、実はアベノミクスとも符合しているという点です。安倍政権の発足時におけるスローガンは「日本を取り戻す」でした。より大きな視点から見れば、アベノミクスは単なる経済再生プランにとどまらず、経済から入って強い国力を取り戻すための国家再生プランと捉えることもできるわけです

TPP(環太平洋経済連携協定)交渉、農業や医療など岩盤規制の緩和、国家戦略特区の創出、アジア・アフリカ諸国への経済外交など、成長戦略の実現へ向けた取り組みは、すでにさまざまな形で進められています。ただ、これらはいずれも成果が出るまでにある程度の時間を要するため、ともすれば踏み込みが足りないとか、構造改革になっていないといった批判を受けがちです。

しかしながら、2020年の東京五輪誘致なども含めて、できることは何でもやろうと政策を総動員する安倍政権の姿に、国家としての活力や求心力の回復を感じている人も多いのではないでしょうか。景気という言葉からも分かるように、経済は「気」に左右される部分も大きいのが特徴です。経済再生の次なるステップは、私たち日本国民の自信が切り拓くものなのかもしれません。例えば、220兆円といわれる企業の手元資金や1,600兆円の個人金融資産が、国の政策とは別に動き出す--。そんな経済ダイナミズムを今年は期待したいところです。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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