1. いま聞きたいQ&A
Q

日本の公的年金が運用改革を進めているようですが、その内容や狙いを教えてください。

国債の比率を下げ、リスク資産で利回り向上を目指す

日本の公的年金について運用の見直しを議論してきた政府の有識者会議が、今年(2013年)11月20日に最終報告を発表しました。なかでも特に注目を浴びているのが、120兆円という世界最大級の資産規模を誇り、私たちの国民年金と厚生年金の積立金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の改革です。

報告では、今後の脱デフレによる物価上昇や将来的な年金給付増を踏まえて、国内債券が中心の安全性を重視した運用から、利回りの向上を重視した運用への転換を提言。国内債券への配分比率を引き下げ、国内外の株式や外国債券などリスク資産の比率を増やすほか、REIT(不動産投資信託)やインフラファンド、未公開株など新しい資産への投資も検討すべきと指摘しています。

GPIFでは5年ごとに中期運用計画を作成し、国内外の債券や株式などへの配分比率を、「基準値」とそこから上下に許容される乖離(かいり)幅という形で定め、「基本ポートフォリオ」として公表しています。現行のポートフォリオでは、国内債券60%(±8%)、国内株式12%(±6%)、外国債券11%(±5%)、外国株式12%(±5%)などとなっており、国内債券に偏った運用であることが分かります。

次に基本ポートフォリオが見直されるのは2015年4月ですが、ある市場関係者は各資産の基準値について、国内債券が50%以下に引き下げられ、一方で国内株式が17%以上、外国債券と外国株式も12~14%までそれぞれ引き上げられると予想しています。国内債券の引き下げには、前述したように今後の物価上昇(インフレ)に対応するという意味合いのほかに、もうひとつ、年金財政の悪化にともなって積立金の取り崩しが避けられないという事情もあります

日本の公的年金制度では、年金給付を保険料と税金からの収入で賄えなくなり、2009年度以降はGPIFが積立金を取り崩して補填しています。その累計額は12年度までに22兆円に達しており、積立金は今後も20年度まで毎年3~5兆円ずつ減っていく計算です。積立金の取り崩しにあたって、GPIFはその大半を流動性の高い国債の売却で対応していますが、将来にわたって国債の売却を続けていくうえで、基本ポートフォリオにおける国内債券の許容下限値を低く設定しておく必要があるわけです。

国内株式の引き上げにはアベノミクスを後押しする役割も?

国内株式の引き上げは、本質的には年金資産の利回り向上が目的ですが、これにも他に隠された狙いがあると噂されています。日本株相場が上昇して国内株式の比率が高まりすぎると、GPIFは基本ポートフォリオに沿った「持ち高調整」として、国内株式を許容上限値の18%以下になるよう売却しなければなりません。しかし、国内株式の基準値を例えば17%まで引き上げれば、許容上限値も23%まで上昇します。

前出の市場関係者の試算によると、GPIFの保有比率23%に相当する日経平均株価の水準は2万円強とのこと。今年11月27日現在の日経平均株価(終値=1万5,449円63銭)と比較すると、GPIFによる持ち高調整の売りまでは余裕があるため、市場では株価上昇への思惑が広がりやすくなると考えられます。こうした点が日銀の異次元緩和と同様に、アベノミクスを後押しする役割を担っているのではないかと見られているのです。

国内株式に関しては、運用の規模だけでなく中身にも変化がありそうです。政府の有識者会議では国内株式の投資対象として、より効率的な運用が可能となる指数の利用を検討しており、一例として「JPX日経インデックス400」を挙げています。これは日本経済新聞社と日本取引所グループ、東京証券取引所が共同で開発した新しい株価指数で、指数を構成する400銘柄の選定基準としてROE(自己資本利益率)など企業の財務指標を用いるのが特徴です。

このようにGPIFがリスク資産での積極運用へ舵(かじ)を切ることについては、GPIFを管轄する厚生労働省をはじめとして慎重論も少なくありません。ただし、給付開始年齢の引き上げなど年金の制度改革が遅々として進まないなか、年金財政の安定化へ向けては、現在のところ運用改革に頼らざるを得ないというのが実情ではないでしょうか

どのみち公的年金という国民の財産をリスクにさらすのならば、もっと国民の理解や参加が得られるような工夫があってもいいように思われます。例えば運用改革の経緯を国民に分かりやすく説明した上で、「自分の年金を守り育てるための株式投資」を促し、来年から始まるNISA(少額投資非課税制度)と合わせて「貯蓄から投資へ」の流れにつなげるなど、重層的な効果をもたらす取り組みを国には期待したいところです。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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