1. いま聞きたいQ&A
Q

日本経済の「デフレ脱却」は、現在どこまで進んでいるのですか?

物価が上がることよりも物価の上がり方が重要

モノやサービスの価格の動きを示す物価統計として代表的なものに、家計の消費段階における価格を捉えた「CPI(消費者物価指数)」、企業間で取引する段階の「企業物価指数」、個人消費のほか企業の設備投資や輸出なども含めた総合的な物価の動きを表す「GDPデフレーター」があります。これらのいずれもが、ここにきて数値の改善(物価上昇)を示しており、約15年にわたって続いた日本の長期デフレに転機が訪れつつあることは確かなようです

CPIは今年(2013年)6月に生鮮食品を除くベースで前年同月比0.4%の上昇となり、1年2カ月ぶりにプラスに転じました。企業物価指数は今年7月に、前年同月比2.2%の上昇を記録。GDPデフレーターも今年4~6月期に前期比で0.1%上昇し、3四半期ぶりにプラスに転じています。

ただし、物価統計の改善が本当にデフレ脱却につながるかどうかを見極めるうえでは、数字だけでなく中身も検証することが大切です。例えば6月のCPIを、生鮮食品に加えてエネルギーと酒類以外の食料も除いたベースで見ると、指数は前年同月比で依然としてマイナスが続いています。2種類のCPIの比較から浮かび上がってくるのは、今回の指数改善はエネルギー資源や食料原料の輸入価格が上昇したこと、すなわち円安要因によってほとんど説明がつくということです。

実は2007年11月にも、今回と似たような円安・株高・原油高という経済状況のもと、生鮮食品を除くベースのCPIが同じく前年同月比0.4%の上昇に転じたことがありました。当時はCPIの調査対象品目の5割以上が値上がりしたのに対して、今年6月の値上がり品目は4割を切っています。結局はデフレ脱却につながらなかった2007年と比べても、今回の値上がりは広がりを欠いているわけで、本格的な物価上昇に向けては、いささか心もとないと言わざるを得ません。

2年間で2%のインフレ目標を掲げて、政府・日銀が目指しているデフレ脱却とは、平たくいえば『物価上昇が消費や投資を促す→企業収益の拡大が雇用の増加や賃金の上昇をもたらす→それがさらなる消費や投資を促す』といった好循環です。その過程で需給ギャップを解消し、内需主導の経済成長を軌道に乗せることこそが本来的な目標です。

そこで重要になるのは「物価が上がること」そのものよりも、むしろ「物価の上がり方」ではないでしょうか。例えば円安によって光熱費や食料費が上昇するなか、賃金が変わらなければ、一般的な家計においては購買力が低下して、消費を増やすどころではありません。多くの専門家が指摘しているように、「賃金上昇」がデフレ脱却へ向けて大きなキーワードになるのだとしたら、それが実現するような物価の上がり方が求められることになります。

サービス価格の上昇と企業の価格転嫁がカギを握る

過去の物価上昇局面を振り返ると、1983~85年度と91~93年度には、いずれもCPIが比較的安定してプラス2%近辺で推移していました。両者に共通するのは、白物家電などの「家庭用耐久財」や、テレビなどの「教養娯楽用耐久財」といった耐久財価格が下落する一方で、「外食」「教育」「教養娯楽サービス」といったサービス関連価格が2.3~4.5%の大きな上昇を記録していたことです。

言うまでもなく、サービス関連価格は人件費(賃金)の影響を大きく受けるのが特徴です。ちなみに2012年度の実績は、外食が±0%、教育がプラス0.3%、教養娯楽サービスがマイナス0.8%でした。今後はこうした分野の価格上昇が、デフレ脱却へ向けてのひとつの指標になるかもしれません

GDPデフレーターは4~6月期に前期比では上昇に転じたものの、前年同期比でみると0.3%下落しており、15四半期連続のマイナスが続いています。GDPデフレーターは、「国内需要」と「輸出」の価格から「輸入」の価格を引いて算出されます。円安が進んで輸入価格が上がるなか、GDPデフレーターが下がっているという状況は、企業が燃料費や原材料費など輸入価格の上昇分を、国内価格や輸出価格に転嫁し切れていないことを意味します。

その点で注目したいのが、7月の企業物価指数の内訳です。部品などの価格を示す「中間財」の指数はプラス5.1%と、2008年9月以来の伸び率を記録。小売店への出荷価格などを示す「最終財」の指数はプラス3.3%と、実に32年4カ月ぶりの高い伸び率となっています。これは素原材料の価格上昇が中間財から最終製品へと波及しつつあるためで、個人消費が堅調に推移するなか、企業が価格転嫁に前向きになってきたことの表れといえます

企業の価格転嫁は最終的に消費者の負担増につながりますが、一方で雇用の7割を担うといわれる中小企業の間でも価格転嫁しやすい環境が整えば、企業収益が改善して賃上げの動きが広がっていく可能性が出てきます。劇的な賃金の引き上げにつながる成長戦略や産業構造の転換が必要なことはもちろんですが、企業の価格転嫁という一見当たり前で地味な一歩の積み重ねも、長い目で見れば意外と大きな意味を持つように思われます。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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