長期金利の上昇、株価への影響を注視すべき時期に
第412回
日米のみならず、欧州やインドも含めて世界的に長期金利が大幅に上昇している。日米のそれはニュースとしてよく報道されるが、欧州でもフランスやドイツの10年債利回りは、前者では約四半世紀、後者では10数年ぶりの高水準だ。先進国での長期金利上昇は、株式市場にとってそろそろ警戒すべき段階に来たと筆者は思う。
興味深いのは、世界的な長期金利上昇に逆行している主要国があることだ。それは中国だ。10年債の利回りはこのコラムを書いている時点で1.67%ほど。2025年7月以来の低水準。不動産・消費不況、若者の就職難など経済が逆回転しているためだ。しかしだからといって中国が世界に資金を供給できる存在かと言えば、そうではない。むしろ中国は人的にも、金融でも国を閉じようとしているように見える。
長期金利の上昇は、様々な問題(産業の浮沈の激しさなど)を抱えながらも、先進主要国経済が雇用や企業収益などでおおむね順調だからだ。まだ大きく崩れる兆候はない。しかし米国では四半世紀ぶりの長期金利高で、「いずれ景気を悪化させる要因」「国民に不人気」として政治課題になりつつある。対策に取り組んでいるのがベッセント米財務長官だ。財務省の国債買い入れ額の大幅引き上げなどをしているが、なかなか効果は出ていない。
今回のコラムでは、トランプ政権が主導を始めた「SI (Super Intelligence、超知能)」の表記ではなく、従来の「AI(人工知能)」を使うが、この産業の存在も実は長期金利上昇の一因として挙げられる。データセンター建設など大規模投資のために、社債発行、借り入れを通じて大規模な資金需要を抱えるからだ。確かにAIインフラ作りには膨大な資金が必要。それが市場での資金の取り合いを生んでいる。
金利の上昇は経済活動の広い範囲に「きしみ」を生む。米国でも日本でも、そして欧州でも、「一般国民がお金を借りて住宅を建設するのが難しくなっている」と言われる。建設関連諸経費が高くなっているのは確かだが、やはり長期金利上昇を受けて貸し出し金利が高くなっているのが響いている。
今回は世界的な長期金利上昇が世界の株式市場、特に日米の市場に与える影響、今後の展望に触れてみたい。
折れないイラン、譲らない米国
実は筆者にとっても、これほど原油価格が高いまま推移するとは思っていなかった。米国は中間選挙を11月の頭に控えていて、国民に不人気な「原油高→金利高」の長期化をトランプ共和党政権は嫌うだろうから、何らかの条件でイランと合意を結び、金利高の一大要因である原油高を抑え込むだろうと思っていたからだ。
ベッセント米財務長官は積極的に「イラン制御」の先頭に立ち、同国に対する“孤立化”戦略を打ち出した。名付けられた作戦名は「経済的追放作戦(Operation Economic Outcast、エコノミック・アウトキャスト作戦)」。イランをドル決済システムから追放(排除)し、同国航空システムの停止(航空券発券サービス、燃料供給などの停止)など徹底したものだった。しかしその後もイランは米国に対して特に大きく譲歩する姿勢を示していない。
トランプ米大統領は「中間選挙の結果を気にしている」とずっと言われてきた。下院は諦めるにしても、上院まで取られたらこれまでのやりたい放題(法的疑義のあるものを含め)でかなり議会民主党の追及を受ける。しかし中間選挙1カ月前になっても、原油高は続いているし、長期金利は四半世紀ぶりの高さだ。トランプ米大統領が特に活発に動いている気配はない。
大統領が今どのような精神状態にいるのかは、身近にいる人にしか分からないだろうが、加齢もあってかなり予想がつかない状態にある。不安定であり、これまでと同様に予測が付かない。しかし時間は確実に過ぎる。今のままではトランプ米大統領の共和党政権への不人気は選挙時でも続く。
トランプ米大統領は岩盤支持層を持つ。しかし今回の中間選挙では投票用紙に「トランプ」の名前はない。そもそも共和党候補には不利だという見方があるし、最近では国民の間でトランプ米大統領の不人気故に、選挙運動で「トランプ隠し」の選挙運動(名前を出さないなど)を展開する共和党候補もいると報道される。
イスラエルとの関係で米国がなぜイランに譲歩できないかは、このコラムで何回も書いてきた。イランが最終的にはイスラエルの国家としての存在を抹殺しようとしているからだ。それは米国としては許せない。しかし1970年代のイスラム革命(ホメイニ革命)の流れをくむ今の共和国体制は、イランはその看板を降ろせない。膠着状態は継続している。
その背景と、今後の展望
筆者が気にしているのは、トランプ米大統領に「中間選挙前での原油価格引き下げ」への決意や戦略があるかだ。彼が今まで公表している戦略は、「イランはもうすぐ音を上げる」というもの。つまり待っている。ベッセント米財務長官にも通じる。確かにイランは苦しくなっているようだが、具体的に米国に対して「降伏的な譲歩」をする兆しは見えない。
伝えられるところによると、革命防衛隊とその関連部門には資金も資材(食糧を含めて)が比較的潤沢に供給されているらしい。政治体制全体が「イスラム革命を守る」という主目的に置かれているからだ。
しかしシャヘド(戦場ドローン)輸出などを除けば、イランにとって唯一の外貨獲得源である石油輸出が封鎖(米国軍による)によって出来ない中、国内経済はかなり行き詰まっている。国内には不満が充満しているとも言われる。しかし国が米国から攻められている中では、反政府活動は起きていない。体制としてのイスラム共和国は維持されていると思われる。
米国はそのイランに最終的な一撃を加えられないでいる。これまでの戦闘でミサイル、爆弾を大量に使用した結果、「弾不足」に陥っているのだ。かつ体制を崩すためには地上軍を繰り出す必要があるが、大統領にはその勇気と決意がない。その結果、最初は3〜4週間で終わると見込んだイラン攻撃が半年以上に及んでいる。
実は米国の金利上昇には、AIインフラ構築・フルAI社会建設に向けての巨額のインフラ投資(設備投資)が影響しているというのが大方の見方だ。AI株に市場で巨額の資金が集まっているのはよく知られている。しかし同時に彼ら(AI、および関連企業)は社債の発行や銀行からの借り入れを盛んに行っている。この旺盛な資金需要が、米国の金利を押し上げている。しかもこの業界からの資金需要はしばらく続く。政府の資金需要とバッティングする。
もっともAI産業は、各国経済の成長に向けての起爆剤でもある。AI技術進歩規制論などもあるが、歴史から見ると人類が発明した便利な技術、新製品を生む技術が人間の意思でその発展速度が遅くなった例は見当たらない。核の技術はそうした面もあるが、それは一種の飽和状態に達したからだとも言える。原子炉の小型化などでは未だ技術開発は続いている。
自動車産業では死亡事故は起き続けている。悲惨ではあるが、その中で信号・ガードレールなど事故防止のための様々な工夫が広がり、産業としては拡大している。AIもそうなると見る。
もう一段の金利の上昇
言うまでもなく、金利の上昇は経済活動の広い範囲に「きしみ」を生む。特に住宅建設や企業へのプライムレート(優遇貸出金利)など、どちらかと言えば息の長い経済活動に適用される長期金利の上昇は、一回設定され、それに基づいて契約が交わされれば末永く適用されるために、当該国・産業の活動レベルに与える影響が甚大だ。従って、今の先進国共通の長期金利の上昇は、どう考えても世界経済の行く手にとって気がかりだ。特に長期金利高の長期化は経済にもマーケットにも負担だ。
筆者は世界の長期金利が「一段高」になる可能性もあるとみる。それは先進国の長期金利の上昇が共鳴する危険性だ。というのは、「資金の取り合い」が起きるからだ。政府間でも、民間企業との間でも。先進各国政府は、日本を筆頭に財政赤字を膨らませている。一方で、AI関連を中心に民間資金需要は強い。つまり「資金の取り合い」状態が生じているわけで、こうした状態の時はどこかの国の金利上昇は、他の地域(国)での金利上昇を静かに誘発しやすい。
もちろん、こうした状況が永遠に続くわけではない。長期金利の上昇は、「市場の警告」として各国の財政政策の変更につながるケースも出てくるし、またそうでなければならない。民間の資金の取り合いも、続くには限度がある。一方、長期金利の上昇は、株価に調整を迫る可能性もある。世界的な株価の下げは、金利が高い時に発生する可能性が高い。高い金利商品の存在は、株価にとって有力な競争相手として存在するからだ。
米国の株価を見ると、ダウは高値からかなり調整しているが、Nasdaqを見るとつい最近高値を更新したばかりであり、Nasdaq銘柄には長期金利上昇の影響はあまり出ていないと言える。これは産業としてのAIが発展の途上の、しかも初期にあって成長期待が高いためと思われる。「AI産業は別格」という市場での立ち位置は、当面続く可能性が高い。
歴史を見ても新規の高い成長が期待される産業(の銘柄)に資金が集まり人気化することは通常だ。しかし今の世界的長期金利上昇の流れの中で言うと、AI産業に対する期待は残しながらも、経済活動全般については弊害が出始める時期だと認識する必要がある。