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金融そもそも講座

混乱も、経済・マーケットはしっかりか=中間選挙後の米国

第407回 メインビジュアル

「中東情勢のベースには米国とイランの“暫定合意”がある。戦闘停止の枠組みは恐らく崩れない」との7月上旬までの前提は、既に崩れたと言える。二国はお互いに相互不信に陥った状態で、「今後しばらくは対立を繰り返し、交戦状態は継続する」との見方が大勢だ。

イランの革命防衛隊はホルムズ海峡の再封鎖を発表し、トランプ米大統領は議会に対して「再びイランとの交戦状態になった」と通告した。イランの港は封鎖。米国はイラン空爆を継続。つまり「60日間合意」はほぼ破棄され、今は「永続的戦争(forever war)」の見方さえある。

ただし、ホルムズ海峡を含めた中東情勢全般、それに反応するマーケットが2026年春の状態になるかというと、そうでもない。原油価格は当時バレル100ドルを超えた。既に戦争に疲れた米国とイランがどこまで本格的な戦いを持続できるのかという疑念も残る。
今回は中東情勢の足早な変化を見ながらも、今から4カ月を切った米中間選挙、そして「トランプの最後の2年」をマーケットの視点から展望してみたい。つまりちょっと先を展望しようというわけだ。現状も重要だが、市場は半年からその先の未来(ちょっと大げさな表現だが)を展望する。投資家も「先を見る視点」が必要。

恐らく、中間選挙前後から米国の政治はかなり変わる。世界のマスコミの格好のニュース素材になるだろう。しかし少し結論を先取りすると、トランプ政権がどうなろうと、「技術革新や起業で活力があり、世界から資本や人材を集める米国」という存在はあまり変わらないと見る。

対立の再燃

まずイランとの関係。もともと反り(そり)の合わない米国とイランは、「暫定合意」という急ごしらえの“仲直り装い装置”をかなぐり捨てて、口汚く罵り、実弾の飛び交う対立関係に戻った。米国の法律では、大統領は議会通告のケースにおいては、基本60日間
は議会承認なしに軍事行動を継続できる(1973年戦争権限法)。米国のイランに対する空海での攻撃は数週間のタームで続くだろう。

いったん米指標油種のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)でバレル70ドル(2月までは60ドルちょい)前後に落ち着いた石油価格は、原稿執筆時点では80ドル前後に上がった。状況次第ではさらに上昇する可能性がある。ただし考えるべきは、今回が「二番煎じ」ということだ。一回目はさすがに世界が驚いた。狼狽(ろうばい)が生じた。しかし二度目は「またか」ということだ。

一度経験があるので、ある程度の“準備”や“予想”はできている。日本も原油の調達元の多様化を進めた。ペルシャ湾岸の産油国も、石油が再び輸出できなくなるのは困るので、「産油国としての対応」(新輸送路の開発など)を徐々に進めていた。

つまり今年2月末から始まった米国・イスラエルの対イラン攻撃の時ほど、世界経済に対する衝撃度は大きくないということだし、ニュースとしても「新鮮度は低下」。もっと重要な事は、今の経済・マーケットの駆動産業(AI(人工知能)・半導体・ハイテク)は石油価格のレベルと直接関係している訳ではないということ。むしろ遠い。自動車産業ほどにはAI・半導体産業には石油価格の上下は響かない。

春の中東情勢緊迫、攻撃の応酬の最中にマーケット押し上げの原動力になったのがAI・半導体産業だったことを想起すれば十分だ。もっと言えば、石油が上がる過程では伝統産業(自動車などの従来型)の銘柄が買えなくなるので、AI・半導体などの産業部門に資金が集まったとも言える。

インフレはピーク越え?

春の米国の対イラン攻撃の際には石油価格の上昇が激しかった。米国(カリフォルニア州)のスタンドで筆者が実際に見たガソリン価格は6ドル台だった。今回はWTIもそれほど上がっていない。直近で発表になった米国の物価(6月分)は、消費者・生産者の両レベルで予想外に低かった。「米国のインフレ率はピークを超えた」(ニューヨーク連銀総裁)との見方もある。

「中間選挙故に、トランプ米大統領はイランとの早期合意を目指す」とよく言われたが、今はそれほど焦っていないように見える。ガソリン価格を含めて米国のインフレ率が落ち着いてきたという認識だろう。それが彼に余裕(イラン攻撃の再開を含め)を持たせている。

こうした中での11月の中間選挙接近だ。各種世論調査によれば、全員が改選となる下院(435議席)では、共和党が多数派の地位を失うとの展望だ。つまり民主党が下院を制する。二年に一度三分の一(33〜34 議席は100)が改選される上院については、見方は分かれている。共和党がここでも多数派を失うという少数意見に対して、多くの米政治アナリストは「共和党が多数派を維持する」という見方だ。それは蓋を開けるまで分からない。

しかし民主党が下院を握っただけでも、これまでの「オール・レッド」(大統領職と上下両院を共和党が支配)の終焉を意味するので、影響は大きい。まず立法は事実上停止する。移民関連法、減税延長、それに予算調整法を使った政策はほぼ全て実行が不可能になる。トランプ政権は、大統領令と行政裁量への依存を強めるはずだ。

また下院民主党が召喚権限を得ることになり、トランプ米大統領は様々な資産取引に関する疑惑(一族の分も含めて)やイラン攻撃の法的根拠などを問われることになる。米国のマスコミの報道は、疑惑追求一色になり、政権はほとんど停止状態になるかもしれない。下院民主党と大統領が対立して、政府閉鎖の頻繁発生や閉鎖長期化が生ずる可能性が高い。

つまり今の「(トランプ氏は)ほぼ何でもやれる」状態から、政権全体が急速にレームダックの色彩を強める。「トランプ氏の老い」ももっと問題になる。その中でも、トランプ米大統領は「レガシー」の確保に走るだろう。ノーベル平和賞はもう諦めただろうが、トランプ米大統領はなるべく多くの建物、道路、空港、コイン(通貨)などに自分の名前を残そうとするだろう。しかしそれもうまくいかない可能性が高い。つまり、一種のカオスな状態の出現も予想される。

マーケットは距離を置ける

しかしここからが重要なのだが、最後の二年間のトランプ政権の基盤が脆弱になり、米国の政治が言ってみれば「停止・混乱状態」になったとして、実は米国経済やマーケットのワーキング(経済機能や市場環境)はそれほど毀損しないというのが私の考え方だ。

第一に、フルAI社会・経済に伴う投資は、鉄道狂時代における軌道敷設、駅建設のように「必ずそれが必要」という部類に属するものであって、多少の政治的変化の中では大きな軌道修正はない。反AIの動きはあるかもしれないが、米国がAI開発を停滞させれば中国が前に出るだけだ。

日本や欧州など西側諸国にとっても、米国自身にとってもメリットがないばかりか危険でもある。だから政治が混乱しても、AI投資は続く。

第二に、トランプ政権がレールを敷き、日本など各国が約束した対米投資は、少なくともトランプ氏が大統領である限りは続くだろう。トランプ氏がレームダック(死に体)になったからといって対米投資の約束をほごにしたら、それは現政権の激しい怒りを買うことになる。そもそも進めている対米投資を、途中でやめるというのも難しい。つまり米国への各国の産業投資は続く。米国が大きな消費者市場を抱えていることから言っても、世界における影響力は大きい。既に日鉄のUSスチール投資は果実を生みつつある。

第三に、トランプ政権の末期が混乱を極めるものであっても、米国経済の持つ活力、具体的には資本の効率的な移動・流入、活発な新技術開発、それを生かすタイムリーな起業の多さなどは、今後も何十年に渡って続くだろう。それらは米国が社会システム構築の中で育んだものであって、そう簡単には消えない。

資金が移動先を決めるのは、極めて相対的だ。つまり他との比較。確かに米国はかつての「理想の米国」(それぞれの人が持つイメージは違うだろうが)ではないかもしれない。「米国は終わった」という人もいる。しかしでは米国に代わって世界の投資家が喜んで資金を、かつ大量に持ち込める国や地域がどこにあるのか。多分難しい。

むろん投資をする上で、今後もよく吟味しなければならないことは多い。例えばAIや半導体には巨額の資金が投じられているが、「見合う利益をあげられるか」という問題は常に問い直す必要がある。また今は落ち着く兆しがあるインフレが本当にこのまま静かになるのか。長期金利の急騰が生ずるようなリスクはどこかにないのかなど。

しかしそれらは、常なる作業と言える。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。