市場視点は、中東からAI革命継続に
第405回
米国とイランは、核やホルムズ海峡通過などに関する基本的な見解の相違を十分には解決しないままに、「合意」というステップを踏んだ。前進は前進だが、物理的戦闘状態の継続による悪影響を避けるための、双方による「60日間の問題先送り」の面が強い。
その結果、両国間の表だった対立関係は一時的には緩み、これを好感して原油価格は大きく下落している。マーケットはこれを歓迎。2月末から緊迫し続けた中東情勢と原油価格の高止まり状態には「凪」が訪れた印象だ。しかしトランプ米大統領が、「気に入らなかったらすぐにイランを爆撃する」と言っているとおり、危うい「合意」だ。
マーケットはとりあえずこれを歓迎している。頭痛の種だった原油価格が一時の1バレル100ドルを超える水準から70ドル台に落ちたためだ。これは世界の今後の経済活動には良い。世界は原油高がもたらすインフレ圧力の緩和を期待できる。一方で、世界では経済活動の変容を駆動しているAI(人工知能)社会形成への歩みが、一段と加速する様相を示している。
引き続き先の読みにくい状況が続く。こうした中で、マーケットの人間が見続けなければならないのは、①原油価格動向 ②AI社会形成の進展具合と、新たに登場する技術や企業、フルAI駆動社会登場に投げかけられる視線(時に冷たい)――だろう。①は、中東情勢、世界経済の需給関係など全ての状況を反映して動く。
②は、革新的な新技術が登場したときにいつでも世界で起きる変化と、それに対するアンチ(反感、反対など)の動きが凝縮される。米アンソロピックの「Claude(クロード)」の新技術に米国政府が海外提供にストップをかけた問題は、今後のAI経済・社会の形を考える上で重要だ。
イラン、米の頭痛の種に
米国とイランが今回成立させた合意は、従来の意味の「合意」(普通は問題を終結させる)ではない。数多くの問題が先送りされただけ。言ってみれば、「二段階合意」の第一段階に過ぎず、「最終合意」ではない。「合意することに合意」という程度だ。何よりも肝心な「ホルムズ海峡の開放」と「核問題」に関して、まだ両国ですり合わせ切れていない問題が多すぎる。本当のギリギリの詰めはこれからだし、全体的に「イラン有利」の中身とされる。
中身が希薄なのに両国が合意した理由は、両国の指導者に対する「合意圧力」「戦争停止圧力」が強かったからだ。イラン、米国とも「相手国と敵対(戦闘を伴って)を続ける気力も体力も低下した」というのが当たっていると思う。イランの国内疲弊は進行し、米国でのトランプ大統領の政治的スタンディングはかなり低下している。支持率は低下。トランプ大統領の焦りは明らかだった。国際的にも、「一旦戦いは止めるべき」という圧力が高まっていたと言える。
今回の合意によって「今後米国とイランの対立はなくなる」とは考えられない。筆者は米国にとってイランは、「イスラエルにとってのヒズボラのような存在になる」という考え方だ。イランは今でも「四半世紀の間にイスラエルを消滅させる」を国の方針とする特殊な国だ。
アラブ諸国は長くイスラエルと対立しているが、「イスラエルを消滅させる」とまでは言っていない。やはりイランは、「イスラム革命(1978〜79年)を経て、その時の固い信念(教義)に基づいて形成されたイスラム共和国体制」という特殊な国家構造を持つ。革命からほぼ半世紀になる今も、その方針を維持する。国内では国民への政治的抑圧を続けている。国内から体制転換の声は過去何回も出たが、体制側は抑圧で応じた。なかなか崩れない。
米国は歴史的経緯や、国内の宗教勢力の構図からして、党派を問わずイスラエルとの関係は切れない。それを良い事にネタニヤフ首相はかなりわがままなことをしているのだが、米国はそれをいさめはするが、だからといってイスラエルを見限らない。見限らない限り、イスラエルを敵視するイランとは対立関係にならざるを得ない。
対立は続く
ということは、今回の合意ができようが出来まいが、イランと米国の対立関係は続くということだ。トランプ大統領以前の米国は、その実情(イスラエル支持)はあまり前に出さずに「中東の管理者」として振る舞ってきた。歴史的経緯・あつれき、血の歴史(3000年以上続く)を持つ中東問題は「ほぼ解決は無理」というのが私の考え方だ。何が出来るかというと「(危機を)管理する」しかない。米国はトランプ大統領以前には中東に対して「管理者」でもあろうとした。
しかしネタニヤフ首相の誘いに乗ってイラン攻撃に参加したことから、米国は管理者の地位を降りて、「当事者」になってしまった。しかも相当出来の悪い当事者(トランプ大統領要因が大きい)だ。「当事者であると同時に、管理者でもある」ということは無理だから、今後もイランと米国のいざこざは続く。つまり時に「平和な状況」の時期があっても、基本的にはお互いに猜疑心(さいぎしん)をもって対峙し、それは本格的な戦争にならなくても、スカーミッシュ(小競り合い)は時に起こるだろう。
イスラエルは本気で今のイランの「共和国体制」の崩壊を狙う。イランとイスラエルの対立は、今のイランの対イスラエル政策の基本からして、「激しい敵対」の範疇に入り続ける。だから、米国とイランが和平合意に調印・署名したとしてもイスラエルに不満が残るので、それは「かりそめの和平」だ。
しかし「かりそめ」だからと言って、またすぐに戦争が起きるということではない。和平は例えば1年とか2年は続く可能性がある。米国はせっかく出来た「合意状態」をイスラエルに受け入れさせようとするだろう。だから市場が「今は静かだ」と思える期間は、相応の長さになる可能性がある。今回の合意を見つめる目線には、そのような視点が必要だ。
1年や2年はマーケットにとってタームが長すぎる。今のマーケット(経済)の変化は速い。数カ月前に「この製品は終わった」と思われていたものが、急遽再評価される状況だ。AIの産業構造は日々変化している。注目される製品や企業も週ごとに変わる印象だ。なので、「中東の和平」は例えそれが3カ月の命でも「価値がある」ものとなる。
石油、業界、そして視線
では「合意成立後も基本的には不安定な中東情勢」の継続の中で、マーケットの人間として何を見ていけば良いのか。もちろん一つは原油価格だ。繰り返すが、原油価格は中東情勢、世界経済の需給関係など全ての状況を反映しつつ動く。
次は、AI社会の形成の進展具合と、新たに登場する技術や企業、フルAI駆動社会登場に投げかけられる視線だろう。今その形を見せ始めているAI社会。そのインフラを形作るAI・半導体産業の動向(ニーズとされる部材などを含めて)は、マーケットにとっては常に関心を払わざるを得ない対象だ。
AIは今急速に「エージェント機能」にその役割の重さを移している。必要なインフラとしての半導体は、画像処理半導体(GPU)からCPU(中央演算処理装置)に重点が移ってきたりしている。その時に必要なのに少ないもの、それを作っている企業には大きく注目され、株価も上がる。データセンターで必要なメモリーに関しても、短期記憶のDRAMから長期記憶のNANDへの需要変化が見られる。
今後は「半導体よりも、データセンターで使われる電力や冷却関連などが注目」という意見もある。その通りだろう。しかし今後も各種半導体に対する需要は高いものがある。各国が自前のAI(ソブリンAI)をそろえようとしたら、その需要は大きい。その辺の見極めは投資家にとって重要だ。AI社会の進展の中で思わぬものが注目される可能性もある。
しかしAI社会が一直線の発展ルートを取りそうもないことも、徐々に明らかになってきている。それはAIが人間の能力(一部)まで超える存在として認識され、逆にAIが持つリスク(高すぎる性能、基本的に国境を簡単にまたぐ汎用性)が徐々に明らかになってきている。
Claudeの最新バージョン「Claude Mythos(クロード・ミュトス)5」「Claude Fable(クロード・フェイブル)5」の使用停止(原稿執筆時点)は、AIの発展も一直線に認められるものではないことを明確にした。その高性能故に一般(筆者も含めて)への提供が止まるという今までにはない現象だ。私のClaudeアプリは、サービス提供停止以来ずっとクロード・オーパス4.8からのバージョンアップ待ちの状態だ。AI駆動を強める社会が、一部の先端AIツールを使えないという事態が起きている。
米中といった国家間対立構造ではなくても、AIが開発国の一部に利用制限され、他は利用不可になる事態は、今後も続く可能性がある。その場合、各国はどういう対策をとれば良いのか。ClaudeのClaude Opus(クロード・オーパス)4.8でさえその“切れ”は素晴らしいものがある。ミュトス5は無理としても、フェイブル5は是非使ってみたいが、どうなるのか。
スペースXのIPOは大成功のうちに終わり、今は通常取引になっているが、株価は高い評価を受けている。今後はどうか分からないが、続いて米オープンAI、アンソロピックなどのIPOが控える。IPO続きの中で、マーケットの新産業への関心も高いレベルを維持するだろう。
今日取り上げる時間がないが、米国ではウォーシュFRB新議長がかじ取りする金融政策の策定が始まった。声明や記者会見が短くなったことに加えて、今後米金融政策にはウォーシュ新議長の考え方が色濃く出てくるだろう。市場予測もその線に沿って行われる筈だ。直近のFOMC(米連邦公開市場委員会)の金利見通しは「年内の一回上げ」だが、今後様々な問題は新設されるタスクフォースで討議されるという。この辺も今後取り上げたい。