フルAI時代に向けたインフラ整備――投資熱は続くか?
第404回
続く半導体・AI(人工知能)関連企業株の席巻。とっても不満な人も、不安な人もいると思う。今の投資ブームのもっぱらの選好対象は半導体だ。どういう背景から、何が起きているのか。今回はこの問題を正面から取り上げたい。
筆者が得ている結論は、「今はAIがフルに稼働する社会・経済に向けての、インフラ整備の段階」というものだ。歴史的にもそうした新インフラ構築の熱気(マーケットも)あふれる時代は何回もあった。19世紀後半から20世紀初めの鉄道狂時代の鉄(軌道・車両)、1920年代の自動車普及の際の道路建設・燃料供給システム(GS)構築、インターネット黎明時代の光などの高速回線。今進んでいるのは、本格的な「AI駆動社会に向けたインフラ整備で、その過程で各種半導体が必要になっている」のだと思う。
各時代において新技術が目指した社会でのインフラ整備のためには、当然大きな投資が必要で、その都度関連インフラ・システム供給業界には大きな投資ブームが起きたし、株式市場はそれに応えて熱気を持って資金調達を手伝った。「鉄道狂」「自動車熱」「ネットバブル」と、使われた単語はまちまちだが、各時代のインフラ構築の過程で様々な株が熱意を持って買われ、投資熱を市場全体にまき散らした。
当該インフラが整い、新技術が社会的・経済的に浸透すれば、鉄道とか自動車道路(GS網)、そして高速インターネット接続は「あって当たり前」になった。投資も含め熱も冷めた。しかし社会・経済を構成する実物のアセットとして今もそのインフラは残って仕事をしている。各インフラ構築の初期において、「鉄道」ではレール・鉄鋼メーカーが、「自動車」では当該メーカー、タイヤ会社が儲かり、ネット時代の黎明期には通信設備メーカーが勝者だった。つまり「供給業者」が買われた。私の判断では、半導体(その関連産業)もその位置づけだ。
しかし時間の経過の中で、常に新規(新奇?)を探す株式市場の「ブーム」はいつか去る。新鮮味が失われ、市場の目は次に移る。フルAI駆動時代のインフラを作る半導体や関連周辺機器はどうか。それが今の私の問題意識だ。
人類史上初の“知能のインフラ”
投資熱を伴った過去の実物インフラ投資と違って、今回のAI革命のカバーエリアは実に広い。軍事は今盛んに議論になっている。諜報・武器に革命が起きている。製造業の現場でもフィジカルAI(人型ロボット)のような形で導入が進む。教育もAI抜きでは語れなくなった。金融はAIを利用しているが、一方で米アンソロピックのAI「Claude Mythos(クロード・ミュトス)」のように悪用すれば金融システムを脅かす存在もある。各国は今その対策に忙しい。今後は医療の分野でもAIの導入は進むだろう。
端的に言えば、AIは人類史上初めて「知能のインフラ」を作っていると言える。AIがこれから役立ち、そして時に脅威になる分野を思い浮かべると、そこは数限りないことが分かる。つまりAIの伸び代は極めて大きいと考えられる。過去の社会基盤インフラ構築の投資ブームに比べて、AI関連のカバーエリアは今後増えこそすれ減らないと予想できる。
反AI、反データセンターの動きは今後盛り上がる可能性はある。「AIに対する反感」は根深い。私の中にもある。ラッダイト運動(19世紀初頭の英国で起きた、労働者による機械打ち壊し運動)に似た騒動の発生も考えられるが、何せ今回は対象を簡単には打ち壊せないデジタルだ。
個々人的には恋愛(男女)問題まで、身近な情報入手のためにAIに相談する人は多い。検索もAI対応だ。企業の分野でも企画書作りなどでAIに相談することが普通だ。AIにほれ込み、「この人と結婚したい」とまで思う人まで出てきているらしい。笑
AIを各国が無視できないのは、国家間の紛争や競争でAIが果たす役割が極めて大きいためだ。AIを活用したドローンなど新飛行体や地上移動デバイスによって、戦争の形(戦い方)と顔(ドローンなら女性も操縦可能で、必ずしも戦争の顔が男性ではなくなる)は今大きく変わりつつある。ウクライナでは女性戦士が増えているが、彼女らはAIのアシストで、実弾が飛び交う場所から相当離れた場所で戦うケースも多い。
工場の現場にはますますAI(フィジカルも含めて)が導入されているし、今後も加速するだろう。我々が本格的なAI社会の行く末をどこまでを見ているのか、見えているのかに関しては実際のところ分からない。判断が難しい問題で、時間の経過を待つしかない。それはまた、常に変化している問題でもある。日々感じていくしかない。
今後も起きる“飛ばし”
一つ明らかなのは、AIのカバー領域が増える中で、「AIによる“飛ばし”」が今後も増え、経済の形は変わるということだ。話を少し私自身が直面した問題に向けたい。
つい2カ月前のことだ。「ずっとアンカーなど中国製バッテリーを使っていた。久しぶりに日本製のバッテリーが欲しい。しかもリチウムではないバッテリーにしたい」とAIに相談した。いろいろ提示してくれて、最後に日本製のナトリウムイオン電池を見付けた。「じゃ、そのままそれを買いたいのだが」とAIに言った。確か米グーグルの「Gemini(ジェミニ)」だった。ここまで来て、ビックカメラとかアマゾンのサイトに渡り直して買う気などしない。
そしたら「今はその機能はありません」とネット通販のリンクを示してきた。その時は実物も見たいし、結局有楽町のビックカメラに行って実物買いをした。しかしそれから僅か数日だ。「エージェント・コマース」と呼ばれる新システムが大手AI企業から次々に発表された。これは言ってみれば「アマゾンなどEC“飛ばし”」と言える。むろんEC各社も黙ってはいない。対抗策を打ち出してはいる。
“飛ばし”は良い言葉ではないが、AIが引き起こしている一つの社会現象だ。企業の中間管理職はしばしばデータ集積、分析、新戦略策定でAI(実に幅広い領域の知識・情報を結びつけるのに長けている)の“飛ばし”に遭遇している。その結果新たな領域への仕事内容への切り替えを余儀なくされているし、それが出来ない場合は人員削減の対象となっている。それが社会的に正しいことなのかどうかは分からないが、現実として世界中で起きていることだ。
ショックを受ける人もいると思うので、話をちょっと飛ばす。この問題に関して筆者はいつも講演などで一言付け加えることにしている。それは「人間は職業を作る動物だ」ということだ。テクノロジーの変化は、その時その時の「仕事のニーズ・形」を確かに変える。鉄道は馬車の操作人の多くをクビに追い込んだ。しかし鉄道関連で働く人の数は今でも数知れない。自動車もそうだ。
「人間は職業を作る」という面に関してもう一つ指摘する。このコラムが公開された直後に開催されるサッカーのワールドカップ(W杯)。対象競技はサッカー。その誕生は1863年(英国でルールが統一された年)だ。人類の歴史から見れば、ごく最近だ。多分、世界で多くの感激・感動を生むだろう。サッカーばかりでなく、近代スポーツの大部分は驚くほど最近(せいぜい200年以内)のスタートだ。野球もそう。
ギリシャ時代にも競技場があって色々な競技が行われていた。しかし世界で何千万、億の人が見るシステムが出来上がったのはつい最近だ。大規模なお金が動き、選手はスターとなる。立派な、そして多くの人が憧れる職業(スポーツ選手)は、最近になって大量に生まれている。関連雇用は膨大だ。
新しい職業が生まれているのはスポーツに限らない。都内の街を歩いただけで、ほんの少し前にはなかった職業が生まれていることが分かる。見えないところで、多くの職業が生まれている。そういう意味では「AI失業」は、働くサイドの人が「そういう時代なのだから」と価値観を入れ替えて新たな挑戦が出来れば、乗り切り可能だとみたい。
AIインフラ整備は今後本格化
ではAI関連インフラの構築・整備はどの程度完成に近づいているのか。「完成」ということがそもそもあるのか? そしてそこで使われる資材はそろったのか? もしそろったとするなら、鉄道のレール・鉄道車体のように、半導体(メーカー、製造装置)は急速に投資対象から外れる事になる。
これは、「株価は過大な期待から動きすぎていないか」を含めて、それぞれの投資家が考える問題だが、筆者は人類が突き進むAI社会で使われる半導体が充足するのは「相当先」と考えている。そもそも「計算資源」としての半導体は役割が多岐にわたる。CPU(中央演算処理装置)もあれば、画像処理半導体(GPU)もある。当初AIで注目されたのは米エヌビディアが得意としたGPUだ。熱い投資対象となった。その際にはCPUは「時代遅れ」のように言われた。インテルの苦境がメディアに取り上げられたのはその頃だ。しかしAIの中で「エージェント」が機能として注目されると、にわかに高機能のCPUのメーカーが注目され、今は大きな投資対象となっている。
メモリーはと言えば、例えばサムスン電子などはDRAM(作業用メモリー)中心に事業を傾けた。ニーズが強かったからだ。サムスンがあまり振り向かなかったNAND(長期ストレージ)が、AIの求められる役割の変化の中で急激に需要を高めた。東芝から分離したキオクシアが急激にマーケットの関心を集めたのは、それほど前のことではない。つまりフルAI時代には様々なインフラ材が必要になる、ということだ。データセンターなど「運用基盤」も整備の最中だ。
それぞれ役割を果たす分野で、各種ソフトウエアも著しく注目度を高めるケースもある。最近のマーケットを見ていると、法人向けITサービスのヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)とかIBMとか少し昔の名前のコンピューター企業の株が大きな投資対象となったりする。つまりAI時代のインフラ構築に必要な素材・ソフトウエアは、多岐にわたるということだ。
筆者はどこまで進展するか分からないAI時代のインフラ構築は、まだ先が長いという印象だ。しかし、マーケットの評価はその時その時で大きく変わる。調整もあるだろう。投資の世界は常に変化の中にあるからだ。
AI社会の本格化には障害もいくつか指摘されている。例えば電力供給の問題など。まだネックもあるので、それはまたの機会に取り上げたい。