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S&P500とナスダック、史上最高値を更新=中東リスク見切ってハイテク楽観論が優勢に

第401回 メインビジュアル

イランとその周辺を巡る情勢がまだ不安定な4月中旬の段階で、ニューヨークの株価は足早に大きく水準を上げ、S&P500種株価指数とナスダック総合指数という二つの代表的指数が史上最高値を更新した。ダウ工業株30種平均も比較的高い水準。つまりマーケットとしてはその段階で、「中東不安を乗り越えた」という形になった。この文章を読者の方が読む時点でマーケットがどのような水準になっているかは分からないが、高値更新に至るマーケットの見方・判断は書き残す価値があると思う。

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一言で言えばその背景は、どんな戦争、局地戦も永遠には続かないし、その間も経済が比較的健全で企業収益(特にハイテク)が伸びていれば問題ない。将来も「(企業収益は)今後も伸びる」とマーケットが確信したことだろう。我々はつい、イラン戦争に関するトランプ米大統領の一挙手一投足に目を奪われて一喜一憂している。メディアはリスクを分析し、それを広める。リスクは人々の注目を集めるが、その結果として「社会を包む全体的な悲観論」が広まりやすくなる。

しかし株価は常に「先」を読む。銘柄も多様・多面的で、動きも別々だ。その総体が指数の動きだ。そしてその指数が高値更新となった。最近の上げは足が速い。それにしても、戦争がもたらす悲惨さに関する報道で気持ち揺さぶられる社会のムード(メディアがそれを煽(あお)る面もある)と、マーケットの数字がもたらすメッセージ(高値更新)の齟齬(そご)は大きい。

「石油やナフサの品薄が、業界に与える影響の大きさ」は日本のみならず、米国でも盛んに取り上げられる。経済全体が直面している苦境は明らかだ。国際通貨基金(IMF)は最近再び世界経済の成長率予測を引き下げた。しかし上場銘柄の中には「個々の経済、世界の経済の苦境」を逆サイドから乗り切れる銘柄も多い。今はそれがハイテク株で、関連指数を押し上げている。投資家はそれらを分類しながら多面的に考える必要がある。

つまり投資家は頭を「ツー・トラック」で働かせる必要があるということだ(笑)。一つはメディアの流す情報の総体的把握。個々の事件を自分なりに関連付ける努力が必要。もう一つはそれらを済ませた上で、自分の投資対象がどのような動きをするかの判断。なかなか興味が尽きない分野だ。

1月下旬以来の高値更新

米S&P500種株価指数の4月15日の終値は、7022.95。これは今年1月28日の旧高値7002.28を20ポイント以上上回った。ナスダック総合株価指数もそうだが、この4カ月(6カ月でも良い)のニューヨーク市場の動きを手元のデバイス(iPhoneの方は株価アプリ)でチャートを描いていただければ分かりやすい。二つの指数がイラン戦争を完全に乗り越えた動きを見ることができる。その間に世界で報道された「戦争の悲惨」を受け止めた上で、それを振り払うような展開だ。

忘れてはならない重要なポイントがある。「S&P500種株価指数やナスダック総合株価指数の水準を動かしているのは、限られた数の大型ハイテク株」だということ。半導体のエヌビディアは200ドルに接近し(1.23%高)、他の銘柄は上げ幅でそれを上回った。グーグルは1.18%の上げにとどまったが、テスラは7.63%も上昇し、マイクロソフトは4.63%、アップルは2.95%も上昇した。

テスラが「原油高」を逆に追い風にしているのは明らかだ。「原油高→経済にとって打撃」は全般的影響としては当たっているが、電気自動車(EV)を専業とするテスラのような会社には追い風だ。マーケットには実に様々な銘柄が取引されている。個々の銘柄は同じ材料でも、時に全く異なった受け止め方をする。つまりマーケットに参加している投資家達は、「トンボの目」以上の複眼でマーケット全体を見る必要がある。

ハイテク株が日本でも米国でも再び注目されているのは、今年の初めころに問題視された「SaaSの死」などの「落ち着きどころ」が徐々に見えてきたこと。そうした打撃を受ける個々の企業があるにせよ、ハイテク業界全体の業容の伸びは大きく、「収益も付いてくる」という事情だ。しかも米国的環境もある。世界的なハイテク企業のほとんどは、米国を母国とする。

投資を集め続ける米国

米株価指数を押し上げている他の要因もある。一つは、相互関税に関する「最高裁による否認」にもかかわらず、トランプ米大統領が各国と結んだ貿易協定で多額の投資資金が米国に入り続けていること。日本は対米関係、対トランプ氏関係維持のために、約束した80兆円の枠内で、第一次に続いて第二次の投資を行う準備をし、今後も継続の予定。

予期せぬ景気刺激(?)もある。米国政府に集められた巨額の相互関税関連の税収は、裁判所の判断で順次支払者に払い戻される。その増額は20兆円以上と言われているが、それは考えようによっては、形を変えた「財政支出」だ。つまり「景気刺激策」として機能する可能性がある。

もっと大きな全体図の話をすると、イラン戦争への不安感・不透明感はあるが、「米国経済は若干の原油高やそれによる物価上昇では崩れない」との見方が多い。「ハイテク株にまで影響が及ぶ景気後退にはならない」との判断だ。確かに1バレル90ドル超になって、米国の農家や中小企業には打撃が大きい。それは日本にも伝えられているし、米国のメディアにも頻繁に登場する。

しかしそれは多分「いずれ消え去る当面の懸念」に過ぎないだろう。関税が大きなテーマだった頃によくメディアに登場、トランプ米大統領を側面支援していたベッセント米財務長官。4月の第2週に登場して、「アメリカのコアのインフレ率は低い。経済は健全度を保っている」と述べた。「I am highly confident that the core inflation ... which is quite under control and actually dropping in many categories, will continue to go down」(私はアメリカのコアのインフレ率....それは全くのところでコントロールされているし、実際に多くのカテゴリーでは下がっているが....は今後も低下するだろうとの強い確信を持っている)と述べた。

彼は加えて、「I believe rates should be cut」(だからアメリカの金利は引き下げられるべきだと思う)としながらも、「but that if they want to wait for some clarity, I understand that.」(しかし状況が明確になるのを金融当局が待ちたいというのであれば、私はそれを理解する)と述べた。筆者には結構な余裕に聞こえた。「今年は利下げしなくても大丈夫だ」とも聞こえる。

市場にプラスのTACO

筆者がここ最近のコラムで「TACO(トランプ氏はいつも腰砕け) イラン・バージョン」と何回か取り上げた。その考え方の基本は、対イランの戦争で一旦はイスラエルのネタニヤフ首相の企みに絡め取られたものの、トランプ米大統領の今の本音は「思う通りに行っていない。そろそろ出口を探りたい。勝ったという印象も残したい」だろう。多分その「勝った」の状況創出に大統領は大分苦労している。

しかしこれも何回か書いたが、口ではイランを刺激(時には口汚い言葉で)しているが、最後に「大規模戦争(地上戦)ではなく、停戦・和平の道をトランプ氏は選ぶ」と筆者は読む。スケジュール感もある。5月14、15日からの訪中に加えて、4月下旬には英国のチャールズ国王の米国訪問がある。それはさすがに「どこかの国と戦争している中での歓迎」とはいかないだろう。そしてそのほぼ半年後に中間選挙が迫っている。負けはトランプ氏にとって大打撃だ。

つまり、戦争を継続するスケジュール的余裕がトランプ米大統領にはない。だから「TACO」にならざるを得ない。筆者は良い意味でこの言葉(TACO)を使っている。つまり我を通すのではなく、状況に対応せざるを得ないということだ。それはまたマーケットが望む方向でもある。

「戦争はもう終わる。その後は高い企業収益が望める」(ブラックロック)という見方はかなりの市場関係者に共有されつつある。実際にロイターの予測では、ハイテク部門の2026年利益成長見通しは43%と見込まれている。かなり高い。株価の上昇は中間選挙を控えてあまり明るい話題がないトランプ米大統領にとって、数少ないアピール・ポイントになる。

米国では「原油高によって米国経済がリセッションになるのは、125ドル以上の価格が持続した場合」という見方が大勢だ。それは歴史的にもそうだろう。今の原油相場はその水準からは大分離れている。

イランは今のところ、自国の港が米国軍によって封鎖されても、目立った反撃を出来ていない。トランプ米大統領は、「イランは海軍も空軍もない」と主張している。それが誇大広告だとしても、港を封鎖する米国の艦艇を有効に攻撃する手段が限られているのかもしれない。イランも追い込まれている。

考えようによっては、イランや中東での小競り合い(地上戦を伴わない)が続いても、米国の株高は続く可能性がある。経済に本当に打撃にならなければ、米国は揺るがない。ハイテク株は、実体経済とはまた別の次元で動いている。二週間ほど前から、米国の市場はイラン情勢(気にはしているが)というよりは、市場内部要因で動いている様子が窺(うかが)われた。

高値更新のあとの調整は当然あるだろう。しかし「米国市場、そして世界の市場の底流は堅調」と筆者は見ている。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。