金融そもそも講座

市場的勝敗ラインは「243」かな=総選挙2026

第396回 メインビジュアル

アメリカの金融政策運営が揺れている。FOMC(米連邦公開市場委員会)は今年初めての会合(1月28日結果発表)で4会合ぶりの据え置きを決めたが、米司法省がパウエルFRB議長を刑事訴追(FRBビル改修問題での議会証言に関連して)する可能性まで明らかになり、それに同議長が公然と反発。議長職も来年5月には新議長にバトンタッチされる。緊張感は高いままだ。

今回の最初の据え置き決定は予想通り。政策金利は3.5〜3.75%。しかしこの決定には2人の反対者が出て、1人はいつものスティーブン・ミランだったが、もう1人は次期議長候補のウォーラー・クリストファーだった。記者会見でのパウエル議長は落ち着いていたが、トランプ米大統領はパウエル氏の後任を、時間を置かずに発表の予定。

ところで、今回は日本の選挙についても後半で書きたい。混沌とした選挙だが、市場的観点、つまり「日本経済を強くする政権の樹立が望ましい」という視点から見ると、獲得議席数などでかなりポイントは絞られると思う。

筆者が気になるのは、総選挙の中で展開している議論だ。マーケット的視点から「実りある議論」が展開しているとは言えない。ポイントの外れた議論ばかりだ。日本で26年間続いた政治構造が大きく変わったので、その面だけでも今回の選挙は興味深い。しかし議論はもっと真っ当なものになって欲しい。現状は理想からかけ離れている。キャッチフレーズも古くさいものが多いし、「意味不明」なものもある。

せっかく多額の資金がかかり、真冬での大変な選挙なので、もっと中身の詰まった議論が今後展開することを期待した。

反対者が2人

FOMCの政策金利据え置き決定には、反対者が2人出た。トランプ米大統領とその指揮下にある司法省と対峙するに至ったパウエル議長にエールを送る「全員一致」になるかもと思ったが、やはりアメリカの政治状態や今のFRB(米連邦準備理事会)を取り巻く環境はそんな生やさしいものではなかった。最初に書いたとおり、反対者の1人は次期議長候補のウォーラー・クリストファーだった。

2人の主張は「現時点で0.25%の引き下げを決めるべきだ」というもの。しかしFOMCは「かなりのコンセンサス」(パウエル議長)で、「インフレは幾分上振れしたままだが、失業率は若干安定化の兆しを見せている」と雇用面の改善を理由に「据え置き」を決定した。

記者会見では司法省から召喚状を受けたことをまず質問されたが、パウエル議長は「この場は金融政策を語る場」だとして何も答えなかった。また議長は任期が5月15日に切れた後もFOMC委員として残るかどうか(任期は2028年1月31日)についても、「引き続き決めていない」というものだった。また最近下げが目立つ米ドルに関しても、「財務省マター」だとして返答を避けた。次回のFOMCは3月17、18日。後任をトランプ米大統領が指名し、議会が承認したとしてもFOMCを仕切るのはまだパウエル氏だ。

アメリカでは「年内あと2回の利下げ」との見通しが強いが、議長交代後には利下げがあるとして、パウエル議長の任期中に利下げがあるかどうかは「分からない」というのが当たっている。議長も記者会見で、金融政策を策定する難しさを繰り返し語っていた。「100年間なかったこと、具体的にはパンデミック(世界的大流行)、関税紛争が起こる一方で、技術革新はコンスタントに経済の形を変えている」と議長は述べ、その時その時の経済理解には「実はモデルがない」とも述べていた。

市場の勝敗ラインは243

ところでマーケット的に見れば、今回の総選挙の勝敗ラインは「243」だと考える。高市早苗首相をトップとする連立がそれを確保出来るかどうか。首相は「自民と維新で233(過半数)」を勝敗ラインに挙げているが、それはほぼ現有勢力。そこまでの議席数では、一番国民の目に触れる(テレビに映るという意味で)衆議院予算委員会で委員長の職を野党にとられたままの可能性が高い。その状態を脱することこそが、敢えて打って出た真冬の選挙での「勝ち」と言える。

かねて高市首相は、「質問を私にばかり当てられる」と不満を漏らしている。具体的には衆議院予算委員会の委員長ポストを枝野幸男氏(旧立憲民主党 現中道改革連合)に取られていたことを指す。それが不満なのだから、今回の選挙ではその状態を脱する必要がある。とすると、高市首相としては「全委員長ポストを獲得し、委員数も半数を維持」の243議席(安定多数)がどうしても欲しい。だからそれが勝敗ラインだ。

さらに言えば「責任ある積極財政」政策のぶれない、前向きな促進を望むマーケットとしても、「連立与党が243を取れるか」は大きなポイントだ。マーケットは当初からそれを期待した。なぜ高市首相が「過半数」(233)を勝敗ラインに挙げるかと言えば、「万が一でもそれはクリアできるだろう」という読みによると私は見る。「今の私の支持率は高い」「乗り切れる」という判断があるのだろう。

しかし今回の選挙は、過去26年間続いた日本の国政選挙の枠組みの変化の最中にある。立憲民主党と公明党が衆議院での連合体として作った「中道改革連合」は、小選挙区では旧立憲の候補者を一緒に(公明支持者も)応援し、比例区では公明党の候補者を立憲も応援するというバーター取引だ。2つの党(立憲、公明)は参議院、地方議会では残るという逃げ道を残した合体で、良く分からないところもある。このバーター取引がどの程度ワーク(機能)するかは、蓋を開けなければ分からない。政局を動かす大きな事件の発生も考えられる。序盤でのマスコミ調査によれば、中道の勢いは低調だ。逆に自民党が高市人気に乗っている。

選挙序盤の党首討論を聞いていると、高市首相には広い意味での協力者(政策遂行という意味で)が、国民民主党と参政党(ともに党首)にいるように筆者には見えた。参政党の神谷代表は「首相指名選挙で高市氏に票を入れる可能性」さえ一時示唆した。国民民主党の玉木代表はそもそも昨年の国会運営で自民党と手を組んでいくつかの政策を実現した。親和性は高い。なので、自民・維新の連立与党が233を越えて243に届かないといった状態では、この二つの党が連立与党に接近する可能性もある。

読めないのは、国民の票の行方だ。支持率が2党の時代から合計で伸びていない事、「風」も起きていないことから見ると、多分「中道改革連合」が比較第一党になる確率は低い。しかし各小選挙区に1万ないし2万あると言われる公明票の行方が確定的には読めない。それと高市人気とのせめぎ合いかなと思うが、それは推測の域を出ない。

筆者は今回の選挙に関しては「連立与党で243」がマーケット的勝敗ラインと見ている。

おかしな議論が真っ盛り

ところで、選挙戦の開始の中で筆者が「このままでは“日本経済の強さ”回復は怪しい」と思えた議論に触れておく。それは「消費税の引き下げ、または食品にからむ消費税の引き下げ」に関するもの。メディアの報道量から見ると、選挙の争点だ。一部の政治勢力は「消費税撤廃」を唱え、一部は「部分的、期間限定的消費税の引き下げ(主に食料品)」を主張している。その狙いとしては「物価高騰対策」というのが大部分だ。しかし筆者は、これはおかしな議論だと思う。

そもそもモノの値段は「需要と供給」で決まる。需要に対して供給が足りなければ価格は上がる。それが自由経済の原則だ。社会主義はそれを国家が統制しようとして失敗し、今では「社会主義」を旗として掲げる国でもモノの値段は基本的に「需給」で決まっている。今の米、野菜など食料品の値上がりには需要が供給を上回っていることに起因しているものが多い。

だからこの原則によれば、基本的には上がる物価に対する第一の対策は「供給を増やす」ことであるべきだ。しかし大部分の政党はその事を忘れて、「物価対策としての消費税、特に食品の消費税の減税(引き下げ)」を主張する。これは「なんでこんな議論が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)しているのか意味不明」と言っても良いほどおかしい。

消費税を下げればその時点での値段はある程度下がる。しかしそれは「需給外の要因」だ。むしろ需要を刺激する効果もある。なぜなら値段が下がり、需要が喚起されるので。最近の米の値段の上昇で見ても分かる通り、いったん需給関係が崩れると、税の多少の上げ下げでは対処できないほど「モノの値段」というのは苛烈に動く。

制御がなかなか難しい需給関係で、モノ(例えば米)の値段が翌年さらに上がったとしたら、消費税をゼロにしてしまった段階では、それ以降は税制の面で出来る事はほぼなくなる。消費税をマイナスにすることは無理だ。必需品の過度な値上がりの対策としては、給付の方が良い。つまり消費減税は、「今そこに消費税があるから、下げる余地がある」程度のものだ。日本は戦後消費税なんてなかった時期が長かった。その間もものの値段は上がったり下がったり。基本的には日銀が金融政策で対処していた。

為替の円安が日本の物価上昇に寄与している面はある。円安だと海外から輸入しているモノが値上がりするので、円安は基本的に物価上昇圧力だ。その面の対策は必要だが、筆者には、「消費税減税が物価対策」という意味が分からない。「消費税減税」はどう見ても物価対策としては「一時しのぎ」なのだ。この手の議論が大手を振って展開しているのを見るのはがっかりだ。新政権の「強い経済」を進める政策への早期の論議切り替えを期待したい。

ご注意:本コラムは、上記掲載日から2週間程度前に伊藤洋一氏が執筆されたものです。
閲覧される時期によっては、現状に即さないことも予想されます。また、内容には仮定に基づいた記述も含まれます。ご了承ください。